組織と人材のミスマッチを減らせるか 生年月日×統計解析×AIで人物傾向を探る「ETOGRAM」

2026-03-06 18:00

組織や環境が変わるだけで、人の評価は大きく変わる――。そんな問題意識から生まれたのが、生年月日を起点に統計解析とAIで人物傾向を推定するHRテック「ETOGRAM」だ。開発を手がけたアストロメディアの永尾洋輔社長は、これまで延べ9000人以上の相談に向き合う中で、「能力があるのに環境が合わず離職する」ケースを数多く見てきたという。採用や配置、育成の精度向上を目指す新たな試みについて聞いた。

人は「環境」によって輝き方が変わる

永尾氏は、人には環境次第で力を発揮しやすい場面もあれば、逆に実力を出しにくい場面もあるとみる。そうした考え方のもとで開発しているのがETOGRAMだ。統計解析とAIを用い、生年月日という変わらない情報を起点に、「強みが出る場面」「崩れやすい場面」「意思決定の癖」「対人コミュニケーションの特徴」を言語化する仕組みという。

企業向けには、採用、配置、育成、定着、リスク予防までを一気通貫で支援するHRテックとして展開を見込む。具体的には、面接設計における深掘り質問例、配属や上司との相性、チーム編成、1on1や評価面談の観点、オンボーディング時の注意点などを提示する。提供開始は2026年春ごろを予定している。2025年度の東京都経営革新計画の認定も受けた。

5万5000人超のデータから「強み」と「リスク」を探る

ETOGRAMは、5万5000人以上の生年月日を起点に、職業や行動様式に関するデータを統計解析し、AIを組み合わせて人物傾向を推定するシステムだ。永尾氏は「採用・配置・育成で使える『扱い方の地図』を示すサービス」と説明する。

特徴の1つが、人の本質を「ライトサイド」と「ダークサイド」の両面から捉えようとする点だ。ライトサイドは、環境が整ったときに伸びやすい強みや得意領域、周囲に与える良い影響を指す。一方のダークサイドは、疲労やプレッシャー、権限がかかった際に出やすい盲点や衝突のパターン、判断ミスの癖を意味する。

自己申告に左右されにくい視点として活用し、面接時の質問設計やオンボーディング、上司と部下の接し方などに落とし込む構想だ。永尾氏は、スタッフの癖や考え方を把握することで、コンプライアンス違反の未然防止にもつなげたい考えを示す。もっとも、個人を断定的に捉えるのではなく、傾向を理解することで、組織の中での活躍の仕方やトラブルの予防策まで提示することを目指すとしている。

なぜ生年月日なのか 自己申告に依存しない人物推定へ

永尾氏がこうした仕組みを構想した背景には、自身の経験がある。本人によれば、同じ努力をしていても、所属する組織や業界が変わることで評価が一変する場面を経験し、人は努力だけでなく環境に大きく左右されるという理不尽さを感じたという。

その後、8年間で延べ9000人を超える個別相談に向き合う中で、「能力はあるのに人間関係でつまずく」「環境が合わず急に燃え尽きる」といった、いわば“もったいない離脱”を数多く見てきた。一方で企業の人事判断は、面接時の印象や自己申告に寄りがちで、配属後のミスマッチや早期離職、トラブル対応によって現場が疲弊するケースも少なくないという。

そこで着目したのが、変えられない出生情報だった。生年月日を起点に、先入観を抑えた統計的な人物推定ができれば、採用と定着の精度を高められるのではないか――。そうした発想からETOGRAMの開発を始めたとしている。

「能力があるのに辞める」背景にある設計ミス

永尾氏は、定着しない理由の多くは能力不足ではなく、役割期待や裁量、評価軸、上司との相性といった「設計ミス」にあるとみる。ETOGRAMでは、候補者や社員が力を発揮しやすい条件と、つまずきやすい条件を整理したうえで、採用時には面接での見極めポイントや質問例を示す。

さらに配属時には向いている役割や業務スタイル、相性の出やすい上司像を提示し、運用時にはオンボーディング、1on1、評価面談での伝え方まで支援する。再配置の場面では、配置転換やチーム編成の判断材料としての活用も想定する。加えて、将来的にトラブルにつながる可能性がある条件や想定される事案まで整理し、個人と組織のかみ合わせを事前に調整することで、持続可能な組織と人材のマッチングを目指す考えだ。

面接では見えにくい傾向をどう捉えるか

自己申告型の適性検査は、本人の認知や「よく見せたい」という意識に影響を受けやすい。永尾氏はその点を踏まえ、ETOGRAMでは生年月日という改ざんしにくい情報を起点に、5万件超のデータから抽出した人物パターンと照合し、意思決定、対人距離、ストレス反応などの傾向を推定すると説明する。

さらにAIを用いて、面接時の深掘り観点、配属後の注意点、避けた方がよい伝え方、動機づけにつながりやすい言葉など、現場で使いやすい表現に変換して提示する仕組みだという。面談の場では見えにくい「本音の出方」を、実務に生かせる形に落とし込むことを狙う。抽出データについては、50件以上の職業や特定の行動様式を持つ人物を、1000人以上の集団で集め、統計的な有意差をもとに人物像を想定しているとしている。

離職や不祥事の兆候を事前に捉えられるか

離職やコンプライアンス違反は突然起きるように見えても、実際には「兆候」「放置」「爆発」という流れをたどることが多いと永尾氏は指摘する。ETOGRAMでは、疲労やプレッシャーが高まったときに現れやすい行動と、その引き金になりやすい状況を事前に整理する。

これをもとに、オンボーディング時のチェック項目、月次1on1で確認すべきサイン、配置換えや権限付与の際の注意点、指導時の言い回しなどを運用に組み込むことで、問題が表面化する前に手を打てる状態を目指すという。特に、どのような仕草、身だしなみ、言葉遣い、態度に兆候が表れやすいかも推測し、上司が日常のコミュニケーションの中で気付きやすいポイントとして示す考えだ。リモートワークの広がりで、従来以上にコミュニケーションが希薄になっている現状も、需要を後押しする要因とみている。


AIは人を決めつけない

今後、AIによる人物分析はさらに広がると永尾氏はみる。ただ、心理学をベースとした性格診断であっても、個人を断定するものではないというのが同氏の考え方だ。ETOGRAMも同様に、「採否を機械が決める」ための道具ではなく、人への理解を深め、対話の質を高めるための意思決定支援ツールに位置付ける。

数値やラベルで断定するのではなく、強みとリスクを同時に示し、面接、配属、育成における確認ポイントとして使う設計としている。最終判断はあくまで人が行い、本人の実績や希望、置かれた状況とあわせて解釈することが前提だ。運用面でも、利用目的の明確化、本人への説明、必要最小限の活用といった、データ活用における倫理を重視する方針を示している。

「当たり外れ採用」から脱却できるか

採用はこれまで、「面接をして入社してみなければ分からない」という賭けの要素を残してきた。永尾氏は、今後は入社前の段階で「どう扱えば力を発揮しやすいか」という仮説を持ち、配属や上司、目標設計、育成手順まで含めて受け入れる時代になるとみる。

ETOGRAMのような仕組みが広がれば、属人的な勘や経験を、再現性のある共通言語に置き換えられる可能性がある。結果として、早期離職や不祥事の予防、マネジャーの育成負荷の軽減、多様な人材が力を発揮しやすい組織設計につながるという見立てだ。

永尾氏は、企業や組織が目指す方向性と、求める人物像とのミスマッチこそが、双方にとって大きな損失になると語る。少子化が進むなか、限られた人的資産を最大限に生かす一助にしたい考えだ。


取材協力

アストロメディア株式会社
永尾洋輔 代表取締役社長

1981年東京生まれ国内電機メーカーと外資系製薬会社と経てコンサル業を始める。
20代から東洋思想を原点とする陰陽五行に興味を持ち勉強をはじめ、2018年に相談・コン
サル業を開始、2022年に法人化へ。製薬会社で培った統計解析の経験を元に誕生日から人
の職業や一定の行動の傾向を割り出し、業界初の生年月日とAIを使った性質診断システムを
開発。

アストロメディア株式会社
https://www.astromediainc.com/


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