ハードからソフトへ移行する運送業界 老舗70年企業が進める事業再定義と同族外からの代表交代

2026-05-27 22:00

運送・タクシー業界では、2024年4月からの時間外労働規制に加え、深刻なドライバー不足への対応が課題となっている。国土交通省の資料では、ドライバー不足により2030年には輸送能力が19.5%不足し、いわゆる「2024年問題」の影響を含めると34.1%不足する可能性があるとされる。タクシー分野でも、スマートフォンなどを活用するソフトメーターの普及が進み、従来のハード機器を前提にした事業の見直しが迫られている。こうした環境変化のなか、創業70年の中央矢崎サービスは、機器販売中心の事業から安全・健康管理分野への展開を模索している。ただ、ハード依存からの脱却は売上構造の転換を伴い、その取り組みが収益や競争力の強化につながるかは現時点では未知数だ。

タクシーメーターのソフト化で問われる既存ビジネスの持続性

運送・タクシー業界ではこれまで、車載型のタクシーメーターやデジタルタコグラフなど、専用機器の導入・保守が安全運行や運行管理を支える基盤となってきた。一方で近年は、AI配車やスマートフォン端末の普及により、ハードウェア中心の仕組みを前提とした業務設計が見直されつつある。中央矢崎サービスのように、長年「機器の販売・施工」を主力としてきた企業にとっては、従来の収益基盤そのものを再検討する局面に入ったといえる。

この変化は、単に機器の形が変わるという話にとどまらない。公正取引委員会が2025年に公表した資料では、ソフトメーターの普及により配車アプリとの接続性が競争条件になり得ることや、有力事業者が自社アプリの利用を事実上促すような構造が生じれば独占禁止法上の問題になり得ることが指摘されている。ハードの供給だけでなく、ソフトとプラットフォームの関係まで含めて市場構造が変わりつつあることがうかがえる。

もっとも、ハード依存からの脱却は容易ではない。機器販売や施工を軸にしてきた企業が新領域へ移る場合、売上計上のタイミングや収益源の構成が変わり、短期的には収益が不安定になる可能性がある。新しい事業定義を掲げても、それが継続収入や顧客基盤の拡大に結び付くかどうかは、実装段階での検証を要する。

同族外から招いた新代表の経歴と、事業見直しの視点

こうした環境変化のなか、中央矢崎サービスは同族経営の外側から吉田幸市氏を代表に迎えた。現会長と同姓だが、血縁関係はない。原稿によると、吉田氏は財務系コンサルティング会社で平成不況下の企業再生に携わり、その後はベトナムで起業するなど、既存事業の立て直しや新規事業に関わる経験を重ねてきた。

吉田氏は、既存の事業構造を見直す必要性について「極端な話、既存のビジネスモデルを一度白紙に戻すほどの見直しが必要な時代だ。ただ、この会社には70年かけて蓄積してきた経験と技術がある」と話す。伝統を維持しながら新分野を探るというのが同氏の基本的な考え方だという。

一方で、外部人材による事業承継は、組織運営の面で調整コストも伴う。長年続いた事業慣行や社内の意思決定プロセスをどう見直すか、また新代表の構想を現場の営業・施工体制とどう接続するかは、今後の実行段階で問われる論点になる。

「機器販売」から安全・健康管理領域へ 現時点の実績と今後の構想

中央矢崎サービスでは、機器販売に依存した事業構造を見直し、運送業界の安全管理に関わる領域へ軸足を広げる方向で検討を進めている。吉田氏は、自社について「単なる機器販売会社ではなく、安全を支える役割を担う会社として位置付け直したい」と説明する。

背景には、運行管理のデジタル化と、ドライバーの健康状態を把握する仕組みへの関心の高まりがある。国土交通省の検討資料では、業務前自動点呼において、血圧・体温の測定による定量的なバイタルチェックに加え、疾病・疲労・睡眠不足に関する自己申告を求める方向が示されている。車両管理だけでなく、運転者本人の体調把握を安全管理の一部として扱う流れが強まっている。

原稿によると、同社はこうした流れを踏まえ、ドライバーのコンディション管理やヘルスケア関連の提案を新たな事業領域として視野に入れている。女性ドライバーの登用や労働環境改善といった業界課題も見据え、「安全×健康×働きやすさ」を組み合わせたサービス展開を検討しているという。ただし、現時点で読み取れるのは主に方向性の提示であり、それがどこまで商品化・事業化され、どの程度の売上や導入実績につながるのかは今後の課題だ。

ソフト化と労務規制への対応が同時に進むなかで、運送関連企業には従来の強みを生かしつつ、新たな収益源をどうつくるかが問われている。中央矢崎サービスの取り組みは、その一例として位置付けられるが、この転換が実際に通用するかどうかは、今後数年の事業運営と市場の受け止め方が試金石となりそうだ。

【取材協力】
中央矢崎サービス株式会社
代表取締役社長  吉田幸市
https://chuo-yazaki.co.jp/


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