工場の外へ広がる「自動化フロンティア」――滋賀の中堅FA企業が挑む”another FA”は普及するか

2026-06-09 22:00

工場内のラインを効率化する「Factory Automation(FA)」は、戦後日本のものづくりを支えてきた中核技術である。だが近年、人手不足と高齢化が建設・インフラ保守・物流など”工場の外”にまで波及するなか、屋外現場や社会インフラへ自動化を持ち込もうという動きが静かに広がりつつある。

滋賀県甲良町に本社を構える株式会社ファーストシステム(従業員159人)は、その潮流を象徴する一社だ。2024年9月に代表取締役へ就任した犬飼孟氏は、同社が長年蓄積してきたFA・自動機の技術を工場外へ展開する「another FA」を掲げる。高速道路でのコーン設置・回収を担う装置の試作開発はその第一歩である。

ただし、屋外・インフラ領域の自動化は、工場内とは比較にならないほど条件設定が難しい。構想がそのまま市場に根づくかは、まだ見通せない段階にある。

「機械を入れること」が目的ではない――FA企業が語る自動化の出発点

ファーストシステムは、専用機や検査設備をオーダーメイドで設計・製作し、構想検討から機械設計、電気設計、PLC制御、据付、調整、導入後の保守までを社内で一貫して担う体制を敷く。加えて、試作や小ロット生産、工程設計、治工具製作、組立、検査などの製造請負にも対応する。2025年3月時点の従業員数は159人で、FA・自動機と製造受託の二本柱が事業基盤となっている。

犬飼氏は、自動化について「機械を入れること自体が目的ではなく、現場の困りごとをどう解くかが出発点になる」と話す。省力化や品質安定、人手不足対応といったテーマは現場ごとに事情が異なり、既製品だけでは解決しないケースも少なくないという。
ただし、こうした個別対応型のFA案件は、開発期間が長期化しやすく、初期投資や保守負担を含めて発注側の判断材料が多い。自動化ニーズが社会全体で高まっている一方で、案件化までに時間を要する点はこの分野固有の難しさでもある。

“工場の外”を自動化する――「another FA」という挑戦

現在注力するのが、社内で「another FA」と呼ぶ取り組みである。Factory Automationの対象を工場内に限定せず、Field Automation――社会の現場全体へ広げていこうという構想だ。

象徴例として同氏が挙げるのが、高速道路のメンテナンス現場向けに開発した「コーン半自動設置・回収装置」である。高速道路の保守作業は、屋外での反復動作に加え、安全確保の観点から一定の人員配置が不可欠とされる。だが裏を返せば、長時間にわたり走行車両の至近で身体的負荷の高い作業を続ける労働者がいるということでもある。

犬飼氏は「負担を減らせる工程はあるのではないか」と問題提起し、試作開発に踏み切った。自動化という言葉は工場の生産ラインを連想させやすいが、実際にはインフラ維持や屋外作業の安全性向上といった領域にも応用余地がある、というのが同氏の見立てだ。

もっとも、工場内設備と比べると屋外・社会インフラ現場は、作業条件、安全基準、運用主体が多様で、導入ハードルは高い。試作機の実績がそのまま標準装置の普及に結びつくとは限らず、現場ごとの要件整理や継続運用の枠組みづくりが今後の課題となる。

ロボット導入で本当に問われるのは「性能」ではなく「使い続けられるか」

ロボットや生成AIの活用が広がるなか、犬飼氏が繰り返し強調するのは「動くこと」と「現場で使い続けられること」はまったく別だ、という視点である。製造現場は設備構成、作業条件、前後工程のつながりがそれぞれ異なるため、ロボット単体の性能だけでは解決しない場面が多いという。
同氏は「ロボットを入れるなら、その前後工程も含めてどう流すのかまで見なければならない」と話す。実装段階では、ソフトウェアや制御技術に加え、治具・搬送・検査・保守まで含めた全体設計が必要になる。同社が機械設計、電気設計、制御、現地調整まで社内連携で進める体制も、この考え方と地続きである。

ただし、現場適合を重視するほど案件は個別性を帯び、汎用化しづらい。受注側にも長期伴走の負担が生じる構造である。新技術の注目度が高まるほど、導入後の保守や継続的な改善まで支えられるかが、今後のFA各社にとっての選別要因となる可能性がある。

“3年がかりの初号機”と、地方発信のリアル

実績として挙げた案件の一つに、お灸の原料である艾(もぐさ)の製造工程を中国での手作業中心の体制から国内回帰・機械化へとつなげた事例がある。素材のばらつきが大きく、人の感覚に依存してきた工程だったため自動化の難易度は高かったというが、構想段階から伴走し、約3年をかけて初号機を納品した結果、追加受注へとつながったと説明する。

国内回帰や属人化解消のニーズは多くの業種で語られているが、それを実装まで持ち込んだ事例は限られる。一方、立ち上がりまで長期を要する案件では収益化のタイミングが読みづらく、受注体力のある企業しか取り組めないという面もある。地域との接点では、同社は2025年に滋賀県主催、近畿経済産業局後援の「しがオープンファクトリー2025」の参加企業に選ばれ、小学生から大学生を対象に工場見学やものづくり体験を実施する予定だ。行政が関わる公開企画への参加は、外部から見える形での情報発信という点で意味を持つ。

犬飼氏は、滋賀県の製造業集積地が名古屋と京阪神の間の『通過点』にとどまらず、この地域でロボットやAIに関わる仕事を生み出し続ける考えを示す。ただし、地方で先端技術人材を育て、地元に仕事を定着させる取り組みは短期で成果が見えにくいテーマでもある。工場外へ広がる自動化という構想が、事業としてどこまで継続的な需要を獲得できるか――今後の案件形成と運用実績の積み上げが試されることになる。

【取材協力】
株式会社ファーストシステム
代表取締役 犬飼 孟氏
https://firstsystem.jp/

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