「中国市場は、もう大手ブランドだけの戦場ではない」――。今、中国への越境EC(電子商取引)を目指す日本の中小企業にとって、これほど心強い言葉はないだろう。
かつて中国進出といえば、莫大な広告費を投じて知名度を買う「資本力勝負」が常識だった。しかし、中国最大のライフスタイル共有プラットフォーム「小紅書(RED)」の台頭が、そのパワーバランスを劇的に塗り替えている。
最新の市場動向と、「EC開設6ヶ月後に月間流通総額数百万円という継続的な売上を作り出す」という具体的な成功事例を軸に、中小企業がREDを使って爆発的な売上を叩き出すための「新たな越境EC戦略」を、REDの運営代行を行っているインタセクト・コミュニケーションズ株式会社の片倉氏への取材から紐解いていく。

「売る」から「共感される」へ。越境ECの新常識
多くの日本企業が陥る失敗について、片倉氏は現場で直面している課題をこう指摘する。
「日本企業の傾向として、どうしても製品スペックや機能性の訴求に偏りがちです。しかし、今の中国市場で求められているのは、単なる機能紹介ではありません。中国のライフスタイルや実際の生活シーンに合わせた形での発信、そして『なぜこのメーカーが良いのか』という納得感を生むブランドストーリーを丁寧に伝えていくことです」
製品の凄さを一方的に並べるだけの「モノ消費」の提案は、今のREDユーザーには届きにくい。「文化や習慣が違う中で、日本の感覚のみを重視した発信をしてしまうのは、日本企業がうまくいかない典型的な落とし穴です。REDユーザーが信頼するのは、スペック表ではなく『誰かの実体験に基づく共感』。ここを外してしまうと、実際の購買行動にはつながりません」と説明する。
機能性への信頼は大前提としつつ、さらに一歩踏み込んで、現地の生活者の日常に溶け込む「共感」を設計すること。この「売る」以前のブランド設計こそが、越境ECにおいて開設わずか半年で月商数百万円という実売を叩き出すための、避けては通れない絶対条件となるそうだ。
地方の中小企業にこそチャンスがある「地域ブランド」の力
REDにおける越境ECの成功事例を見ていくと、意外な共通点に気づく。それは、燕三条のキッチン用品や今治のタオル、そして日本を代表する「アコヤガイ」を母貝として採れる本真珠「アコヤ真珠」といった、地方に拠点を置く中小企業の製品が、驚くほどの売上を上げていることだ。
特に、真珠の販売において「EC開設6ヶ月で月商数百万円突破」という数字を叩き出した背景には、REDユーザー特有の「本物志向」がある。
「中国のユーザーは、単に安いものを求めているわけではない。REDで情報を探し、日本の地方企業が持つ職人のこだわりや歴史、そして『日本から直接届くという信頼感』に価値を感じ、数万〜数十万円という高額商品でも迷わず購入する。これこそが、中小企業が中国市場で勝つための越境EC戦略の核心です」
大手ブランドのような画一的な広告ではなく、地方企業が持つ「泥臭くも誠実なストーリー」こそが、REDというプラットフォームでは強力な販売力に直結するのである。
実売を生む「KOL」と「日本在住」の戦略的活用
前提として、自社のアカウントを強くすることが必要であり、そのためには、フォロワーを増やしファンを形成することが重要である。そして、フォロワーを増やすためにやることは、発信したコンテンツに対してしっかりと広告費用を投下することが必要だそうだ。
また、ファン形成をするためには、コメントなどにもしっかりと返信していき、フォロワーとのタッチポイントをしっかりと作ることがポイントになる。
そして、売上を最大化させるために欠かせないのが、KOL(Key Opinion Leader)の存在だ。しかし、ここで言うKOLは、日本でイメージされる「フォロワーの多いインフルエンサー」とは根本的に異なるそうだ。
REDにおけるKOLは、特定分野の専門知識を持ち、ユーザーから「買い物の指南役」として絶大な信頼を寄せられるプロフェッショナルだ。宝飾品、アパレル、コスメなどそれぞれの深い知識を持つKOLが、ライブコマース(生配信販売)で製品を語ることで、ユーザーの「迷い」が「確信」に変わり、爆発的な注文が生まれる。
さらに、片倉氏が戦略の要として挙げるのが「日本在住の中国人KOL」の起用だ。
「中国本土ではなく日本に住んでいるKOLは、日本の製品を自ら使い込み、その良さを現地の言葉で、かつ日本の文化背景を含めて翻訳できる。日本の中小企業と直接日本語で対話し、製品の細かなニュアンスを吸い上げた上で、中国の生活者に強く伝わる提案ができるKOLの方々は、EC売上を最大化させるための最強のパートナーとなります」
成功のロードマップ 広告費を投下することでの「資産作り」につながる
小紅書(RED)を活用した越境ECで売上を作るためには、闇雲にKOLを投入するのではなく、緻密な順序が必要である。片倉氏は、再現性のある成功モデルとして以下のステップを提示。まず、ECサイトと連動するための公式アカウントを構築し、一定数のファンを獲得する。
そのためにプラットフォームの「広告」を組み合わせたマーケットの土台作りが必要である。
「ファンがゼロの状態でライブ配信を行っても、実売にはつながらない。月数十万円程度の広告予算をかけ、ターゲット層にコンテンツを露出させ、アカウントの信頼性を高める『資産作り』から始めるべきだ。一定の広告費用を継続的に投下しながらファンを形成し、一定数のフォロワーを獲得することで、実際の売り上げにつながった事例もある。」
コンテンツによる「共感」の種まきと、広告による「認知」の拡大。そしてKOLによる「実売(刈り取り)」というサイクルを回すことこそが、REDを起点とした越境ECの王道なのだ。
変化の速い市場で「今」投資すべき理由
当然、中国市場には特有のリスクも存在する。アルゴリズムや規制の変更は日常茶飯事であり、今日までの勝ちパターンが明日には通じなくなるスピード感だ。しかし、片倉氏は「だからこそ今、参入する価値がある」と説く。
「規制や地政学リスクなど、懸念材料は確かにあります。しかし、今この瞬間、中国の富裕層や若年層が熱心に情報を探しています。日々変化するプラットフォームに対応できる専門の運営チームさえ確保できれば、中小企業にとってこれほど効率よく、ダイレクトに利益を生める市場は他ありません」
新たな越境EC戦略。それは、機能を売るのではなく「共感されるブランド設計」を丁寧に行い、REDという熱量の高いコミュニティに日本企業が手掛ける製品という「本物の価値」を投げ込むことだ。
「EC開設6ヶ月で月商数百万円越え」という数字は、再現性があり決して特別な事例ではない。REDを正しく活用し、文脈を捉えたマーケティングを実行するすべての日本の中小企業に、そのチャンスは開かれているようだ。