声や行動で「心」の知覚が変化する可食ロボットの研究成果を発表

2026-06-25 01:47

電気通信大学大学院などの研究グループは、音声や動作による社会的インタラクションが可能な可食エージェントを開発し、その声や行動の違いに対する人間の心理的反応を検証することで、生き物を食べることに対する心理や倫理的な感じ方を調査できる新しい実験枠組みを提案しました。

概要

電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻の仲田佳弘准教授、博士後期課程の下山拓真氏、博士前期課程(当時)の久米佑弥氏、同志社大学文化情報学部の山縣芽生助教、追手門学院大学理工学部情報工学科の高橋英之准教授からなる研究グループは、音声や動作による社会的インタラクションが可能な可食エージェントを開発し、その声や行動の違いに対する人間の心理的反応を検証することで、生き物を食べることに対する心理や倫理的な感じ方を調査できる新しい実験枠組みを提案しました。

これまでも可食ロボットの研究開発は行われており、本研究グループを中心に、可食ロボットを食べた際の心理的影響の検証も進められてきましたが、食べられる対象の音声や行動がもたらす心理的反応の調査は行われていませんでした。

研究グループは、可食エージェントを対象としたオンライン動画評価実験を行いました。実験では、音声や行動の異なる二つの条件(合理的に応答する条件、赤ちゃんのような声で反応する条件)の動画を参加者に提示し、対象にどのような「心」を感じるか(心の知覚)や、食べることへのためらい、罪悪感を調査しました。分析の結果、声やふるまいの違いによって可食エージェントに異なる「心」が知覚されることが示された一方、心の知覚と、食べることへのためらい・罪悪感との間に明確な関連性は認められませんでした。

この成果は、国際科学誌PLOS ONEに掲載されました。

研究の背景

人が生き物を食べることは、食文化や社会と深く関わる行為です。肉を食べる人であっても、動物を傷つけることに心理的な葛藤を覚える場合があり、この矛盾は「ミート・パラドックス」と呼ばれています。また、人は対象に「心」があると感じるかどうかによって、その対象を傷つけることへの道徳的判断を変化させることが知られています。そのため、生き物を食べることに対する心理や倫理的な感じ方を理解するうえで、食べられる対象にどのような「心」を感じるのかを調べることは重要です。

しかし、実際の動物を用いて、見た目や動きなどの条件を統制しながら実験することには大きな制約があります。そこで本研究では、食べられる素材で作られ、人と相互作用する人工的な対象である可食エージェントに着目しました。これまでも可食ロボットの研究開発や、それを食べた際の心理的影響の検証は進められてきましたが、食べられる対象が声を出したり行動を変えたりすることで、食べる前の段階で人が対象に対してどのような「心」があるかを感じ、どのような心理的反応を示すのかについては十分に分かっていませんでした。

研究手法

本研究では、音声や動作による社会的インタラクションが可能な可食エージェントを開発しました。可食部は、ゼラチン、砂糖、炭酸カルシウム、100%リンゴジュースを用いて作られており、空気圧によって動く構造を備えています。従来の可食ロボットを基に、腕や目を加えてコミュニケーション可能な存在として知覚しやすくするとともに、下部のスピーカーから再生される音声に同期して左右に揺れる動作を実現しました。

実験では、参加者にまず可食部の制作過程を示す動画を視聴してもらい、身近な可食材料から作られていることを示すことで、食べられる対象であるという印象を強めました。その後、人と相互作用する二つの動画を用いてオンライン調査を行いました。一つ目の動画では、可食エージェントが人の悩みに合理的に応答する様子を示し、二つ目の動画では、人の手や玩具に対して、赤ちゃんのような声で感情(喜び、恐れ、怒り、悲しみなど)を示すように反応する様子を示しました。

その後、参加者は、「それぞれの可食エージェントについて、どのような「心」を持つように感じるか」を18項目で評価し、また、「もしその可食エージェントを食べなければならないとしたら、どの程度ためらいを感じるか、どの程度罪悪感を覚えるか」についても評価しました。本研究は、実際に可食エージェントを食べる実験ではなく、動画を用いたオンライン評価実験として実施し、最終的に1,094名の回答を分析しました。

研究成果

18項目の評価結果について、先行研究に基づき、心の知覚を「Agency(行為能力)」と「Experience(感受能力)」の二つの側面から分析しました。Agencyは自己コントロールや道徳性、計画性、思考などに関わる側面であり、Experienceは喜び、恐れ、痛み、怒りなどの感覚や感情に関わる側面です。

二つの動画条件を比較したところ、合理的に応答する可食エージェントは、赤ちゃんのような声で反応する可食エージェントよりもAgencyが高いように知覚されました。一方、赤ちゃんのような声で反応する可食エージェントは、合理的に応答する可食エージェントよりもExperienceが高いように知覚されました。この結果から、人が、食べる対象の声やふるまいの違いによって、そこに異なる種類の「心」があると感じることが示されました。

また、心の知覚と、食べることへのためらい・罪悪感との関係についても検討しましたが、これらの間に明確な関連性は認められませんでした。以上の結果から、可食エージェントに対する「心」の感じ方は声や行動によって変化する一方、それが食べることへのためらいや罪悪感にどのように関わるかについては、今後評価方法を含めさらに検討が必要であることが分かりました。

今後の期待

本研究は、声や行動を変えながら、食べられる対象に対して人がどのような「心」を感じるのかを調べる新しい実験枠組みを示しました。この枠組みにより、実際の動物を用いた実験では制御が難しい要素を人工的に設計し、生き物を食べることに関わる心理的・倫理的反応を、統制された条件で調べるための新たな方法になると考えられます。

今後は、動画評価で得られた知見をもとに、実際に可食エージェントを食べる状況での検証へと発展させることで、食べることへのためらいや罪悪感がどのように生じるのかをより詳しく調べられると期待されます。

関連リンク

https://youtu.be/S75xd_0SOVs

https://youtu.be/0_hgrf0pi2Y

https://youtu.be/0GW9b6Sk-9U

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