AIとロボティクスの融合がもたらす創薬プロセスの「最前線」 新薬開発における自動化と人間の役割

2026-07-07 14:30

世界の医薬品開発において、新薬創出の効率化は共通の課題である。特に時間と投資を要する創薬初期の化合物探索では、欧米や中国を中心にデジタル技術の導入が進む。一方で、国内では研究現場のDXや専門人材の不足が指摘されている。そうしたなか、AIとロボティクスを融合した創薬プラットフォームを展開する株式会社アクセラレート・バイオの劉順俊代表取締役社長に、自動化が研究現場にもたらす変化と、その先にある人間主導の意思決定の在り方について聞いた。

なぜ欧米・中国に比べ国内のAI創薬は遅れるのか――世界市場「86億米ドル」との対比と人材不足の構造論点

新薬開発は上市までに10~15年、数千億円の投資を要する成功確率の低い分野とされる。初期の化合物探索では、スクリーニングなどの反復業務に多くのリソースが投入されてきた。劉代表は、こうした人海戦術型の手法では高付加価値研究に時間を割くことが難しく、効率向上が共通の課題だと指摘する。

欧米や中国ではデータドリブン型への転換が進む。第三者調査機関のRoots Analysisによると、世界のAI創薬市場規模は2026年時点で約86億米ドルに達すると予測され、技術実装が加速している。一方、国内では研究現場のDXが遅れ、経験依存型から脱却できていないと同氏はみる。同社はプラットフォームを通じて国内の創薬競争力強化に取り組んでいる。

もっとも、体制の硬直性は一朝一夕に解消されず、インフラ整備だけで遅れを挽回できるかについては市場の不確実性も含め課題が残されている。

研究期間を「4〜5年から12〜18か月」へ短縮できるのか――10分の1の化合物数に絞り込む予測モデルの精度

このような課題に対し同社が進めているのが、AI予測と自動実験を連携させた「クローズドループ型創薬システム」だ。同社の説明によれば、創薬初期の試行錯誤を効率化し、期間とコストの抑制を目指すという。

プロセスは標的解析から自動合成、継続的最適化まで5段階で構成される。AIの予測結果をリアルタイムに連携してロボットが合成や初期評価を実施し、得られたデータをAIへフィードバックして「Design–Make–Test–Learn(DMTL)」サイクルを高速で反復する。構造解析技術も組み合わせ、精度向上を図っているという。同社の試算データによれば、低分子創薬において従来4~5年要した期間を12~18か月へ短縮でき、合成・評価を行う化合物数を約10分の1まで削減できるという。初期コストを最大約60%、定型実験業務を70%以上削減し、高付加価値な研究に集中できる環境の整備が進められている。

ただし、これらの削減効果は特定の低分子創薬における試算値であり、新規モダリティへの一律な適用については実証データの蓄積を待つ必要がある。

AIは研究者を代替する存在なのか――共同研究現場から見えた「クオリティとスピード」を高めるパートナーシップ

同社のプラットフォームは、製薬企業や大学との共同研究を通じて検証が進められている。同社の説明によれば、特にHit探索からLead化合物選定において期間短縮や意思決定の高度化が見られるとして評価を得ているという。

大学との共同研究では、創薬初期にAIによるスクリーニングを実施し、Hit-to-Leadプロセスを短縮した。研究者からは「選定精度が向上し、仮説検証に多くの時間を充てられるようになった」と評価されている。

製薬企業との共同開発では、人員の制約で多数の条件を検証できない課題に対し、AIの逆合成解析と自動化を組み合わせ、最適化期間を短縮したという。研究者は実験作業から離れて分子設計などに注力できるようになり、現場からは「AIは研究者に代わる存在ではなく、クオリティとスピードを高めるパートナーである」との声が寄せられていると劉代表は話す。

自動化の先にある「人間にしかできない領域」とは――新規モダリティ展開と日本のエコシステム構築の方向性

AIと自動化の進展により定型業務の自動化は進むが、劉代表は「研究テーマの設定や仮説構築などの中核的な意思決定は、依然として研究者の専門知識と創造性に支えられている」と指摘する。AIは研究者の意思決定を支援し、生産性を高めるためのパートナーであると同氏は強調する。

同氏は業界関係者に対し、データドリブンな環境を構築して反復実験をテクノロジーに委ねることで、疾患生物学の解明や新規モダリティの創出など高付加価値研究へリソースを投入することを推奨している。患者に向けては、AIによる期間短縮と成功確率の向上が、アンメット・メディカル・ニーズに応える治療法の実用化を加速させることへの期待を示す。

今後の展望として、同社はプラットフォームの高度化に加え、ペプチドや核酸などの新規モダリティへの展開を進める方針だ。さらに創薬エコシステムの構築を推進し、産学官連携を強化しながら日本発技術のグローバル展開を目指す。

【取材協力】
株式会社アクセラレート・バイオ
代表取締役社長 劉 順俊
https://accelerate-bio.co.jp/

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