「個人が変わっても組織が変わらない」のはなぜか? エグゼクティブ・コーチングの盲点を突く「社長+幹部一体型」の勝算

2026-07-07 21:00

経営層向けエグゼクティブ・コーチングの導入が進む中、「個人が変わっても組織が変わらない」という構造的限界に直面する企業が増えている。経営者のビジョンが現場に浸透しない課題に対し、社長と幹部を同時に支援する「一体型アプローチ」が注目を集めている。国内外で組織開発を手掛ける「COACH M INTERNATIONAL COMPANY LIMITED」の松本瑞代代表取締役社長に、不確実な時代に求められる組織づくりの核心を聞いた。

なぜ経営者のビジョンは幹部に伝わらないのか――「個人」と「組織」を巡る対比と共通言語の欠如


近年、エグゼクティブ・コーチングは視座を高める手法として普及したが、個人の変容が組織の変容に直結しないという構造的な壁がある。経営層が個別にコーチングを受けても、その気づきが組織全体の共通言語にならなければ具体的な変化は起きない。

経営者だけがビジョンを先行させ、幹部や現場との間に乖離が生じれば、経営者の孤立や現場の混乱を招く悪循環に陥る。経営者が直面する本質的な課題は、自身のビジョンをいかに幹部に伝え、現場が自発的に動く仕組みを構築するかという組織デザインにある。

このすれ違いの要因は幹部の能力不足ではなく、経営者が幹部育成や期待伝達の体系的な手法を学ぶ機会が限られている点にあるといえる。

最低半年から2年を要する「一体型コース」の仕組み――単発セッションと何が違うのか


こうした個別型アプローチの限界に対し、社長の想いを幹部に直結させる「社長+幹部一体型」の統合コースが登場している。本プログラムの特徴は、社長や幹部を個別に支援するのではなく、経営者の想いの明確化から幹部による共有、そして現場での実行までを一連のプロセスとして統合している点にある。

従来の個別セッションでは経営者のビジョンが現場で停滞したり、幹部研修だけでは経営方針と実務が乖離したりする課題があった。本コースでは、まず経営者の課題や判断基準を明確化し、幹部がそれを自身の目標へと落とし込む。これにより、指示待ちの組織から、共通の判断基準のもと自律的に提案・実行できる組織構造への転換を促す。

意識変容には時間を要するため、6ヶ月から2年の長期伴走を前提としている。また、知見を横展開するための「プロコーチ養成・認定コース」も構築中だ。ここでは、単なるコーチング技術だけでなく、経営者の心理を読み解き、組織の仕組みに落とし込む実践力を重視する。一方で、企業の組織文化や成長段階は多様であるため、既存の枠組みを当てるだけでなく、コーチ自身に高度な経営視点と現場理解が求められる点は課題と言える。

数字の成長と「自分ごと化」の事例――ベトナム進出企業などにみる意識変化の実態

本プログラムの導入企業や受講生からは、経営者の軸明確化と幹部の自立性向上に関する成果が数多く報告されている。グループコーチングを通じて、幹部が経営課題を「自分ごと」として捉える意識変革が促されていることが要因だ。

具体例として、ベトナム進出企業では経営者の想いを言語化・再定義し、現地メンバーの価値観に合わせた発信を行うことで、従業員の自発的な提案を引き出す組織へと転換した。また、多忙な経営者が行動指針の策定により意思決定の軸を持ち、ワンマン体制から権限移譲へと組織変革を果たしたケースもある。受講生からは、「指示」よりも「支援」を重視するリーダーシップへの意識変化も聞かれる。ただし、これらの好事例が全ての市場環境で一律に再現されるかについては、今後さらなる実証データの蓄積が必要である。

歯科医師からベトナムでの15年を経て――不確実な時代を生き抜く「変わらない軸」の構造

歯科医師から海外ビジネスへ転身し、15年以上ベトナム等で活動してきた松本氏は、不確実な時代における強固な「パーパス(存在意義)」の重要性を説く。手段が変化しても揺るがない「軸」があれば、組織は迷わない。

同社は今後、日本国内での事業展開を本格化させ、事業承継や次世代リーダー育成に注力する方針だ。経営者の高齢化に伴う後継者不足に対し、単なる業務引き継ぎにとどまらず、培ってきたパーパスや組織文化を正しく次世代へ承継し、経営層と幹部が一体となって成長する組織体制への移行を支援する。このパーパスに立脚したアプローチが、日本の伝統的な中小企業においてどこまで持続的な効果をもたらすか、今後の現場における意識改革の進捗と市場受容の行方が注目されている。

【取材協力】
COACH M INTERNATIONAL COMPANY LIMITED
代表取締役社長 松本瑞代 
https://coachmizuyo.com/ja/

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