「知る」から「できる」へ! 命を守る「水辺のそなえ」を体感せよ。カヌー・スラロームセンターで開催された「体験型安全教育プログラム」リポート

2026-07-18 07:40

夏本番、誰もが心を躍らせる水辺のレジャー。しかし、その輝きの裏には常に危険が潜んでいます。日本ライフセービング協会(JLA)の報告によれば、2025年夏の救助実績は563名にものぼり、特に10歳から24歳の若い世代の事故が目立ちます。さらに、事故のピークは疲れが見え始める午後14時から15時の時間帯。水辺に潜む危険から家族を守るには、何が必要なのか。

その答えを身体で学ぶプログラムが、7月12日(日)、東京都江戸川区のカヌー・スラロームセンターで開催されました。日本ライフセービング協会と日本財団「海のそなえプロジェクト」がタッグを組んだ体験型安全教育プログラム、その名も「カヌスラで海そなえ!」。親子連れが真剣に、そして躍動的に水と向き合った一日の模様をリポートします。


カヌー・スラロームセンターで開催される意味
通常、海や川での「落水体験」や「流される体験」は危険を伴うため、実施が困難です。しかし、ここカヌー・スラロームセンターは東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の会場となった世界基準の施設。国内初の人工コースであり、強大なポンプによって「水の流れ」を安全かつ確実に再現できる唯一無二の環境です。「管理された激流」という最高の舞台だからこそ、知識を身体に刻み込む、本質的な訓練が可能となるのです。

【第一部】安全講習:水を知り、身体を浮かせる「命の基本」

プログラムは、命を守る装備の確認からスタートします。日本ライフセービング協会の松本さんは、参加した親御さんへ向けてこう語りかけました。

「ライフジャケットが緩いと水の中に入った時、顔の前までずり上がり、パニックの原因になります。身体が少し圧迫されるくらい、しっかり締まっているか確認してください」

まずは流れのないアクセスプールで、水の中での身のこなしを練習。基本となるのは、力を抜いて水面に漂う「浮き身」の姿勢です。

「もっと首の力を緩めて、空を見ましょう。おやすみなさい、というくらいリラックスして」

指導員さんの声に応え、参加者たちが一斉に空を見上げます。

「川で流された時一番危ないのは頭から流されること。万が一流された時は足を下流に向けてください。その時に足が下がってると、岩にぶつけたり岩と岩の間に足が挟まったりします。川で流される時は足を下流へ向け、つま先を出すこと。これをラッコ浮きって言います」

続いて行われたのは、流水域での「離岸流(りがんりゅう)」体験。一度流れに飲み込まれると、大人の力でも逆らって泳ぐことは困難です。

「流れに逆らって泳ぎ、力尽きて溺れてしまう人が多い。大切なのは、浜と平行に、横へ移動すること。助かるためには、これを知っているかいないかが鍵を握ります」

松本さんの言葉を裏付けるように、参加者たちは流れを感じながら、冷静に横へと泳ぎ、脱出する感覚を掴んでいきました。

参加者の声

アメリカから一時帰国中に参加した小学4年生の女の子とお母さんは、このプログラムに深い感銘を受けた様子でした。

「友人から誘われて参加しましたが、離岸流という言葉も初めて知りました。アメリカでもこうした体験型の講習は聞いたことがありません」とお母さん。

女の子も、少し緊張した面持ちながら「楽しかった!」と笑顔を見せ、続くラフティングへの期待を隠せない様子でした。

【第二部】ラフティング:激流が教える「自然の威力」

高低差4.5メートル、全長200メートルの競技コースを使ったラフティング体験です。オリンピック選手が挑んだあの激流へ、親子がボートで漕ぎ出します。

ボート内では、パドルの持ち手「Tグリップ」を絶対に離さないことが鉄則。指導員さんは「離した瞬間、テコの原理で顔に当たり、大怪我に繋がります」と、現場ならではの緊張感を持って伝えます。

コースを下る最中、わざと水に飛び込む落水体験も実施。激流に放り出された参加者たちは、講習で学んだ「足を下流に向け、つま先を出すラッコ浮き」を実践します。

「川で立とうとするのが一番危ない。足が岩に挟まって動けなくなるからです。ラッコのポーズで水面近くを流れてください!」

水しぶきを浴び、スリルを楽しみながらも、参加者たちの表情には「そなえ」があるからこその冷静さが宿っていました。

日本ライフセービング協会 松本さんのコメント

プログラムを終え、松本さんは今回の意義を次のように総括しました。

「そもそも、ライフジャケットを着て水に入ったことがない子が非常に多いのが現状です。講習を通じて『ライフジャケットがあれば泳ぎが苦手な子でも安全に遊べるんだ、身を守れるんだ』という実感を、まず持ってほしい。この2年間、日本財団さんの助成をいただきながら継続していますが、今後もこうした『知る』から『できる』への変化を伝えていきたいですね」

最新の学び:体験型ウォーターセーフティVR

管理棟1階では、最新技術を用いた「体験型ウォーターセーフティVR」も用意されました。VRゴーグルを装着すると、目の前には360度の砂浜が広がります。

これは砂浜を歩きながら、海辺に潜む危険箇所(ハザード)を自分の視点で探索するコンテンツ。「ここが危ない!」とコントローラーで指し示すゲーム性の高さに、子供たちは夢中。しかし、表示される解説は事故データに基づいた真剣そのもの。リアリティ溢れるバーチャル体験が、子供たちの「危険察知能力」を鋭く研ぎ澄ませていきます。

溺れは一瞬。だからこそ、今「そなえ」を。

「溺れは一瞬です。パニックになれば、冷静な判断ができず、さらに脳は酸素を使い果たし、わずかな時間で意識を失ってしまいます。だからこそ、身体に覚え込ませた『型』が命を守るのです」と、松本さんの言葉が、西日に照らされる水面に響きます。

講習の最後、参加者と指導員全員で力強い合言葉を交わしました。

「カヌスラで!」
「海そなえー!」

拳を突き上げる子供たちの顔には、一歩成長した自信が満ち溢れていました。この夏、海や川へ出かける前に。知識だけではない「身体のそなえ」を。カヌー・スラロームセンターで繰り広げられた熱い一日が、多くの命を守る確かな一歩となるに違いありません。

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