地域産品は「物語」で価格競争を抜け出せるか、500件超の商談から見えた地方ECの課題

2026-07-22 23:20


近年、地域産品を扱うECサイトや産直型の販売サービスが相次いで登場している。選択肢が増える一方、生活者にとっては、商品の違いや選ぶ理由が見えにくくなっている面もある。こうした流通構造のなかで、発信や販路開拓に十分な人員を割けない地域事業者を支援し、買い手に商品の価値を伝える試みが始まっている。本記事では、7月末頃をめどに新たにECサイト展開を予定する地域産品EC「目利き市場」の取り組みから、地域商材流通の課題と今後の展望について聞いた。

地域産品はなぜ価格競争に巻き込まれるのか

地方創生やD2Cの潮流を受け、地域産品を扱うECや産直サービスは、生活者にとって身近な選択肢になりつつある。しかし、現場の製造に追われる小規模事業者は、情報発信や販路設計に十分なリソースを割けないケースが多いとされる。

こうした構造的課題について、「目利き市場」の立ち上げに関わる池田氏によると、良い商品であっても背景や作り手の思いが届かず、直接顔の見えない流通のなかで差別化が進まないまま価格競争に巻き込まれる現状があるという。さらに、中間流通が多層化するほど生産者の利益が圧迫される傾向にある。

生活者側においても、池田氏は、SNSやECサイトに商品情報が点在し、生活者が比較や選択の基準を持ちにくくなっていると指摘する。同氏は、現在の市場が「モノを増やす競争」から「選ぶ理由をどう設計するかの競争」へ移行していると位置づける。

もっとも、プラットフォーム側がどれほど商品の背景を言語化したとしても、消費者の関心が価格優位性を上回るかどうかについては、今後の市場動向を注視していく必要があるだろう。

作り手の言葉を生活者の言葉に翻訳する試み

出店者が商品情報を登録して販売するモール型ECとは異なり、開発段階から事業者に伴走するアプローチも登場している。同サイトが掲げる商品開発の特徴は、机上の情報だけで判断せず、現地で作り手と対話しながら商品を磨き上げる点にあると池田氏は説明する。

作り手のこだわりは、時として生産者側の「内輪の論理」にとどまりがちである。これを生活者が理解し、共感できる言葉や体験へ翻訳することが求められている。商品単体だけでなく、誰とどう味わうか、どのような贈り方ができるかを含めた体験設計を進めているという。

一方で、現地取材から始まる伴走型の共同開発は、1商品あたりの企画・開発に多大な時間と人的コストを要する。多品種を扱うEC事業として、どこまで持続性のある展開が可能かという構造的論点も残されている。

500件超の商談が問う現在地――関係性を届ける商品開発

実際に全国を回り、500件を超える商談を重ねるなかで、地域の事業者からは「売り方がわからない」「良さをどう伝えればよいか」といった切実な声が聞かれたと同氏は話す。対話を通じて関係性を築くことで、「この土地ならではの組み合わせにしたい」「体験を通じて価値を上げたい」といった具体的な企画へと発展していくとされる。

具体的な事例として、熊本県天草市では、テロワール(土地の個性)を感じさせる焼酎セットを企画。原材料である芋の苗植えから仕込みまで参加し、酒蔵や地元の窯元と試作を重ねて専用の器を開発したという。また鳥取県では、酒米を生産する農家と酒蔵をつなぎ、商品企画や販売方法を検討するプロジェクトにも携わっているという。

こうした取り組みは、商品を単体で販売するのではなく、地域の関係性ごと届ける試みと位置づけられる。ただし、特定の土地に深く根ざした文脈が、都市部の多様な消費者層へどこまで広くスケールしていくかについては、市場側の不確実性もつきまとう。

EC単独に留まらない循環へ。地域商材流通の行方

今後の展開として、同社はEC単独の販路構築を目指すのではなく、多様なチャネルを連携させた循環の仕組みづくりを進めているという。具体的には、リアルな場での紹介やイベントを通じて体験と推薦を生み出し、イベントの様子や参加者の反応をSNSで発信し、ECでの購入や継続的な交流につなげる構想だ。

池田氏は、リアルの場を単なる物販ではなく「コンテンツ創出の場」と位置づけ、B2B取引や独自イベントを含めた重層的な流通を目指していると語る。また、生活者に向けては、地域の商品を単なる「応援」や「同情」で消費するのではなく、背景を理解し、納得したうえで人に勧められるような買い物にしてほしいと呼びかける。

消費者による商品選択の基準は多様化している。一過性の応援消費を脱却し、背景の理解を伴う購買行動が定着していくか。今後の消費行動の変容次第で、こうした体験型流通の輪郭がさらに見えてくることになりそうだ。

【取材協力】
株式会社スコープ
アクティベーション開発事業部 
目利き市場DPT  目利き人 
池田 健一
https://www.scope-inc.co.jp/

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