医師はいるのに「受診できない」――医療アクセスの盲点とは

2026-07-27 18:00

医師不足が社会課題として語られる一方、患者が直面する課題の一つが、医師の総数だけでは捉えられない「受診できる時間と場所」の不足である。平日日中に通院できない働き世代や、専門科が近くにない地域の住民にとって、医師が存在していても必要なときに医療へつながれるとは限らない。こうしたなか、クラウドドクターは夜間・休日を含むオンライン診療網を構築している。オンライン診療は医療の空白をどこまで補完できるのか。その可能性と限界を探る。

医師不足より深刻な「時間と場所の偏在」

地域医療の供給力を測る際、人口当たりの医師数は重要な指標である。しかし、医師の人数が一定水準に達していても、患者が必要とする診療科や時間帯に医療が提供されているとは限らない。

厚生労働省は、都道府県や二次医療圏ごとの医師の多寡を比較する「医師偏在指標」を公表している。医師の年齢や性別、地域人口の構成、患者の流出入などを踏まえて算出し、都道府県の医師確保計画に活用する仕組みである。小児科や産科など、診療科ごとの偏在も政策上の論点となっている。

株式会社クラウドドクター代表取締役で医師の赤松敬之氏は、クリニック運営や生活習慣病診療の経験を通じ、「医師が全くいないというより、必要な時間と場所に医療が届いていない場面がある」と話す。都市部でも平日日中に受診しにくい働き世代がいるほか、地方では通院手段や専門科へのアクセスが制約となり得るという。

ただし、医師偏在指標は地域全体の傾向を把握するものであり、患者が夜間や休日に受診できるかまで直接示すものではない。医師数と実際のアクセス可能性の間には、なお隔たりがある。

夜間・休日の「医療空白」はなぜ生まれるのか

夜間や休日の医療提供体制は、病院の当直医、地域の休日診療所、救急医療機関などによって支えられてきた。しかし、医師の働き方改革や人材確保の難しさを背景に、従来と同じ体制を維持することが難しい地域もある。

赤松氏によると、病院側が当直体制や医師派遣を確保できない一方、患者側も仕事や交通手段などの事情から診療時間内に受診できず、症状を我慢するケースがあるという。受診が遅れれば、早い段階で相談できた症状が悪化し、結果として救急医療への負担が増す可能性もある。

こうした問題は、医療者が不足しているか否かだけでは説明しにくい。医師が勤務している時間、対応できる診療科、患者が移動できる距離を組み合わせて考える必要がある。医療アクセスとは、医師の配置だけでなく、診療時間や交通、患者の就労環境まで含む問題なのである。

もっとも、夜間・休日の受診先を増やせばよいという単純な話でもない。限られた医療人材を長時間稼働させれば、医師や看護師の負担が増える。患者の利便性と医療従事者の持続可能な働き方をどう両立するかが構造的な課題となる。

オンライン診療は「代替」ではなく導線になれるか

オンライン診療は、医療機関へ移動せずに医師へ相談できる手段として利用が広がっている。ただし、対面診療を全面的に置き換えるものではない。厚生労働省の指針でも、オンライン診療には得られる情報の限界があり、患者の状態に応じて対面診療へ切り替えることが求められている。

クラウドドクターの説明によれば、同社は複数の医療機関に所属する医師のネットワークを活用し、夜間・休日を含むオンライン診療体制を運営している。赤松氏によると、登録医師は1000人を超え、診療後の処方箋送付、薬局との連携、医薬品の配送までをつなぐ仕組みを整えているという。

診察だけをオンライン化しても、薬を受け取れなければ患者の課題は解消しない。診療、服薬指導、薬の受け取りまでの導線を設計することは、オンライン医療の実効性を左右する要素となる。多言語対応も、外国人居住者や訪日客にとっての選択肢を広げる可能性がある。

もっとも、オンライン診療では触診や詳細な身体診察ができない。胸痛や呼吸困難、意識障害など緊急性が疑われる症状には適さず、年齢、既往歴、症状の程度を踏まえた適応の選別が前提となる。利便性が高まるほど、安全管理と対面診療への切り替え基準が問われる。

「受診施設」の制度化で離島医療は変わるか

オンライン診療の普及を左右するのは、自宅から接続できる人だけではない。通信機器の操作に不慣れな高齢者や、自宅でプライバシーを確保しにくい人への支援も必要である。

2026年4月施行の改正医療法では、患者がオンライン診療を受ける専用の場所として「オンライン診療受診施設」が位置づけられた。制度上は、医療機関以外の施設でも一定の要件を満たせばオンライン診療の受診場所となり得る。施設には安全性やプライバシー、情報セキュリティへの対応が求められる。

赤松氏は活用場面として、離島や中山間地域、医療機関の休診が重なる時期を挙げる。同氏によると、新潟県佐渡島では、看護師が患者に付き添い、島外の専門医による診療へつなぐ来院型オンライン診療の取り組みを進めているという。移動負担を抑えながら専門医療へつなぐ導線の一つと位置づけられる。

一方で、施設を設置するだけでは医療提供体制は成立しない。看護師などの人材確保、対面診療を担う地域医療機関との連携、緊急時の搬送先、費用負担や責任分担を決める必要がある。制度の実効性は、地域ごとの運用体制を構築できるかに左右される。

生活者は平時に「つながり方」を知っているか

医療アクセスの断絶を減らすには、制度や事業者側の整備だけでなく、生活者が平時から相談先を確認しておくことも重要である。

赤松氏は、オンライン診療を既存医療の代替ではなく、補完的な選択肢と位置づける。まずはかかりつけ医を持ち、連休やお盆、年末年始の前に常用薬の残量や診療日を確認することが基本になると話す。そのうえで、夜間や休日の急な体調不良に備え、地域の休日診療所や救急相談窓口を把握しておく必要がある。

消防庁が普及を進める救急安心センター事業「♯7119」は、救急車を呼ぶべきか、すぐに医療機関を受診すべきか判断に迷った際に、医師や看護師、相談員などへ電話で相談できる仕組みである。ただし、実施地域や受付時間は地域によって異なるため、居住地域での利用可否をあらかじめ確認する必要がある。

オンライン診療の価値が問われるのは、スマートフォンで診察を受けられる便利さだけではない。地域の医療機関、薬局、救急相談、対面診療をつなぎ、患者が必要な医療から取り残される時間を減らせるかが焦点となる。ただし、その普及が特定事業者の医師ネットワークや運営体制に依存する限り、品質管理と継続性の検証も欠かせない。

【取材協力】
株式会社クラウドドクター
代表取締役 赤松敬之氏
https://cloud-dr.jp/

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