製造業のIoTはなぜ「PoC止まり」になるのか 現場定着を阻む3つの壁

2026-08-18 15:30

人手不足や生産性向上を背景に、製造業ではIoTやデータ活用への投資が進んでいる。一方、設備データを収集し、稼働状況を可視化するところまでは進んでも、その後の本格運用につながらない「PoC(実証実験)止まり」に悩む企業も少なくない。

なぜ、IoTを導入しても現場改善につながらないのか。製造業のDX支援に携わるNSW株式会社の根本修一氏への取材をもとに、IoTを現場へ定着させるために必要な条件を考える。

なぜ「見える化」で止まってしまうのか

製造業では、設備の稼働状況や生産データを収集し、モニター上で可視化する取り組みが広がっている。

しかし、データが見えるようになったことと、現場の生産性が向上することは同じではない。重要になるのは、そのデータを「誰が」「いつ」「どのような判断に使うか」まで決めているかどうかだ。

根本氏は、可視化そのものをゴールにするのではなく、現場改善の出発点として考える必要があると話す。例えば、設備停止のデータを取得できても、原因分析を誰が担当するのか、どの数値を異常と判断するのか、改善策を誰が実行するのかが曖昧であれば、データは蓄積されるだけになってしまう。製造現場では、工場やラインごとに設備構成や業務フロー、作業者の経験値も異なる。そのため、一つの成功事例をそのまま別の現場へ展開できるとは限らない。IoT導入では、システムそのものよりも、データを日常業務へどう組み込むかが重要になる。

「小さく始める」だけでは足りない

IoT導入では、最初から工場全体をデジタル化するのではなく、一部の設備や工程から始める「スモールスタート」が採用されることが多い。NSWでも、優先度の高い工程や設備からデータ収集を始め、停止要因の分析や点検作業の見直しなど、具体的な課題に結びつける進め方を提案しているという。

小規模に始めることで、初期投資を抑えながら効果を検証できるという利点がある。

一方で、PoCが成功したとしても、その仕組みを工場全体や複数拠点へ広げる段階で新たな問題が生じる。

例えば、設備ごとに異なるデータ形式をどう統合するのか、既存システムとどのように連携するのか、セキュリティをどこまで統一するのかといった課題だ。初期段階で拡張性を考慮せずにシステムを構築すると、後から大幅な改修が必要になる可能性もある。そのため、「小さく始める」ことと、「将来の拡張を見据える」ことを同時に考える必要がある。

導入後の「運用」を誰が担うのか

IoT導入後にもう一つ問題になるのが、運用体制だ。

製造現場では、設備や制御技術に詳しい担当者と、ITシステムを担当する部門が分かれていることも多い。

現場側は設備に詳しいがITシステムには詳しくない。一方、IT部門はシステムを理解していても、現場の細かな業務までは把握していない。こうした分断が、IoT活用を難しくする要因になる。

NSWでは、構想策定からシステム導入、その後の運用までを支援しているという。

根本氏は、初めからすべてを社内で対応しようとするのではなく、外部の専門家を利用しながら、自社で判断できる領域を徐々に広げていく方法も現実的だと話す。

ただし、外部企業へ任せ続ければ、自社にノウハウが蓄積されにくくなる。

どの業務を外部に任せ、どの部分を自社で担うのか。さらに、いつ外部支援から自走へ切り替えるのかをあらかじめ考えておくことも重要になる。

IoT導入の先にあるAI活用

製造現場で収集されたデータは、設備の監視だけでなく、その先のAI活用にもつながる可能性がある。

例えば、設備故障の予兆検知や生産計画の最適化、デジタルツインによるシミュレーションなどだ。

ただし、AIを導入すれば自動的に高度な分析ができるわけではない。そもそも収集しているデータの品質が低かったり、設備ごとに形式が統一されていなかったりすれば、AIを活用する際にも問題になる。つまり、現在のIoT導入は、将来的なAI活用を見据えたデータ基盤づくりという側面も持っている。製造業DXで重要なのは、「どのシステムを導入するか」だけではない。

何のためにデータを集めるのか、誰が使うのか、どう運用するのか。そしてPoCの後にどう拡張するのか。NSWの取り組みは、製造業IoTを「導入」で終わらせず、日常業務にどう定着させるかを考える一つの事例といえる。

【取材協力】
NSW株式会社
サービスソリューション事業本部
ビジネスイノベーション事業部
マニュファクチャリング・ソリューション部
副部長  根本 修一
https://www.nsw.co.jp

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