水分補給だけでは、実は安心できない? いま警戒すべき「雨季化熱中症」とは

ちゃんと水を飲んでいたはずなのに、なんとなく体がだるかった。そんな経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。
株式会社ネオマーケティングが2026年7月、体調不良を経験した全国20歳以上の2,000人に実施した調査では、「昨年夏の体調不良は熱中症だったと思う」と回答した人が全体の72.8%にのぼった。しかも、水分をこまめに摂っていたと答えた層(1918人)に熱中症疑いについて聞いたところも、「熱中症だったと思う」25.3%、「おそらく熱中症だったと思う」47.5%を合わせ、72.8%が暑さによる体調不良を熱中症と認識していた。日頃の水分補給を心がけていても、それだけでは熱中症を防ぎきれていない人が多いことがうかがえる。中でも「熱中症だったと強く思う」と回答した人は、こまめに水分を摂っていた層でも25.3%と、4人に1人にのぼった。
きちんと水分を摂っていたはずなのに、なぜ体調不良になってしまったのか。その理由を探ってみたい。


気温よりも注意すべきは「湿度」だった
今年の夏は、猛暑日が続く一方で突発的な豪雨も相次ぐ、これまでにない気候になっている。ウェザーニュースの予測では、ゲリラ雷雨の発生回数は昨年の約8.8万回から25%増の約11万回に達する見込みで、ピークは8月中旬になるという。40℃超えの日と大雨の日が交互にやってくる、まるで熱帯の雨季のような夏だ。
注意したいのは、雨が多い日ほど熱中症のリスクが下がるとは限らない点にある。熱中症の危険度を示す暑さ指数(WBGT)※は、気温・湿度・輻射熱の3要素から算出されるが、その影響度は気温が1割程度なのに対し、湿度は約7割を占める。屋外の湿度が80%を超えることも多い雨の日は、気温が26〜27℃とそれほど高くなくても、暑さ指数が「警戒」レベルに達することがある。晴れた猛暑日ばかりを警戒していると、油断しがちな曇りや雨の日にこそ体調を崩しかねない。
熱中症対策に詳しい医師の谷口英喜先生は、この気候特有のリスクを「雨季化熱中症」と呼び、従来の暑さ対策だけでは不十分だと指摘する。水分を摂ることに加えて、体内に水分を保つ視点や、日頃の体調管理までを含めた対策が求められるという。
ネオマーケティングの調査でも、水分補給の実態には課題が見えている。「こまめに飲んでいた」人は64.0%と多数派だった一方、「のどが渇いてから飲んでいた」人も29.9%、「一度にまとめて飲んでいた」人も11.7%存在した。谷口先生はこれを「したつもり水分補給」と呼び、のどの渇きを感じてから慌てて飲むのではなく、起床時や食事時、外出・運動・入浴の前後など、生活の節目ごとにこまめに補給することの重要性を説く。

神奈川県済生会横浜市東部病院
患者支援センター長 医学博士)
カギは「深部体温」と「水分保持」
これからの熱中症対策で意識したいのが、「深部体温」と「水分保持」という2つの視点だ。
熱中症は、体の表面ではなく脳や内臓など体の内部の温度が上がることで発症する。健康な状態では、深部体温は表面体温より0.5〜1℃ほど高く、約37℃前後に保たれている。ところが熱中症の初期には、脱水の影響で皮膚への血流が減り、深部体温は高いままでも表面体温だけが下がることがある。「肌が涼しいから大丈夫」という感覚が、かえって危険を見落とす原因になりかねない。

そしてもう一つの鍵が「水分保持」だ。水を飲むだけでなく、摂った水分を血液中に留めておく力が重要になる。この役割を担うのが、血漿タンパク質の一種であるアルブミンだ。アルブミンは血漿タンパク質の約6割を占め、血液の浸透圧の約8割を維持する働きを持つ。これが不足すると血管内の水分が組織へ漏れ出しやすくなり、血液量が減って体温調節機能が低下してしまう。ネオマーケティングの調査でも、「水分を体内に保持することが重要」という考え方の認知度は72.8%に達した一方、実際に意識していた人は52.1%にとどまり、知識と行動のあいだにギャップがあることが分かっている。

なお、熱中症が重症化する過程では、体内で炎症が連鎖的に広がる「免疫バランス」の乱れも関わっているとされる。軽度のうちは炎症を抑える働きがコントロールしているが、深部体温の上昇が続くとこの抑制が追いつかなくなり、全身に炎症が拡大していくという。日頃から食事や生活習慣を整えておくことが、こうした重症化のリスクを避けることにもつながる。
実は水分保持の“隠れた助っ人”、ヨーグルト
この「水分保持」を食生活で補う手段として注目したいのが、ヨーグルトだ。
乳製品に含まれるタンパク質は、水分保持を担うアルブミンの材料になる。日頃から水分補給と水分保持を同時に行える食品としてヨーグルトを取り入れ、血液中のアルブミン量を保つことが、熱中症予防につながるという。ネオマーケティングの調査でも、ヨーグルトの水分保持効果を知った人の80.5%が「夏場の健康管理に取り入れたい」と回答しており、関心の高さがうかがえる。
さらに注目したいのが、暑い環境に出る前にあらかじめ体を冷やしておく「プレクーリング」だ。運動や外出の前に深部体温を下げておくことで、熱中症のリスクを抑えられるとされる。この手段として今、ヨーグルトを使ったかき氷が注目を集めている。かき氷そのものに深部体温を上げづらくする効果が期待できるうえ、ヨーグルトを組み合わせることで水分保持に役立つタンパク質も同時に補給できるからだ。ただし胃腸を過度に冷やすのは禁物で、適量を心がけたい。

「暑さ対策日本一」熊谷市、ご当地かき氷で“命を守る”
この動きを象徴するのが、埼玉県熊谷市の取り組みだ。同市には、地元の水と削り方、素材にこだわった“ブランドかき氷”「雪くま」がある。20年の歴史を持つご当地グルメとして、夏の風物詩になっている。
熊谷市は「ヨーグルトで水分保持 チャレンジプロジェクト」の一つの取組みとして、市内14店舗でヨーグルトを使った雪くまの新メニューを展開している。「暑さ対策日本一」として知られる熊谷ならではの発想で、ご当地かき氷を単なる涼だけでなく、水分保持まで意識した暑さ対策へと進化させた形だ。
暑さを乗り越えるためには、肌の涼しさに惑わされず、深部体温を上げない工夫をすること。そして、飲んだ水分を体に留めておく「水分保持」まで意識すること。ヨーグルトは、その水分保持を手軽に実践できる選択肢のひとつだ。今年の夏は、上記の視点を持って過ごしてみたい。
※暑さ指数:Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標です。