AIが工場で「見て、考えて、動く」シーイーシーが製造現場向けフィジカルAI実証ラボを開設

2026-09-11 10:00

文章や画像を生み出す生成AIが身近になる一方、製造現場では、AIの判断を実際の機械やロボットの動きにつなげる取り組みが進んでいます。しかし、工場ごとに設備の種類や導入時期、製造工程が異なるため、AIを導入すればすぐに自動化できるわけではありません。精度の高いデータに加え、設備を安全に制御する技術や、現場特有の判断基準をAIへ反映する仕組みが必要です。

こうした課題に向き合うのが、現実世界を理解し、自ら行動を生成する「フィジカルAI」です。株式会社シーイーシーは2026年9月9日、製造業におけるフィジカルAIの社会実装に向けた事業検討を開始しました。あわせて、同社の研究拠点である「さがみ野システムラボラトリ」に、データとAI、実際のロボットを組み合わせて検証する「フィジカルAI実証ラボ」を開設しています。

製造現場の知識まで学ぶ「バーティカルAI」

製造・物流の現場では、人手不足への対応や多品種少量生産への切り替えを背景に、自動化・省人化の必要性が高まっています。フィジカルAIには、周囲の状況を捉えて判断し、ロボットなどを通じて物理的な作業を行う役割が期待されています。

ただし、現実の工場では、扱う製品や設備、品質基準、安全要件が現場ごとに異なります。ロボットを安定して動かすためには、AIの学習モデルだけでなく、実機制御のノウハウと、学習に使うデータの質・量も欠かせません。

シーイーシーが活用するのは、特定の業界や業務に特化した「バーティカルAI」です。汎用的なAIだけでは捉えにくい製造工程や品質基準、熟練者の判断などを構造化し、生産計画の見直しや品質異常の原因推定に役立てます。さらに、同社が数十年にわたって蓄積してきた機械・ロボット制御技術と組み合わせ、AIによる判断を現場の動きへつなげます。

データ収集から機械制御までをつなぐ仕組み

フィジカルAIを動かす土台となるのが、工場内で生まれるデータです。同社は、生産設備をリアルタイムで監視する「Facteye」を通じて、加工実績や設備の稼働状況を収集します。

集めたデータは、データ利活用基盤「Resolana(レゾラナ)」で整備・分析・管理されます。データをAIが利用しやすい状態へ整える「AI-Ready化」により、故障の予兆検知や品質予測、将来の状況把握などにつなげる仕組みです。

自律稼働に伴う安全面も検討されています。異常を検知した際の即時緊急停止機能に加え、AIがどのような判断をしたのかを監査ログとして残すことで、物理的なリスクの低減と安定稼働の両立を図ります。

実証ラボでは、特定メーカーだけに依存しない環境を用意。複数メーカーのロボットを組み合わせ、上位システムと現場の機械を安全かつ確実に接続するための要件や課題を検証します。クラウドに依存しないオンプレミス環境も想定しており、中小規模の製造現場での活用も視野に入れています。

AIがロボットの動作手順をつくる実証

シミュレーションイメージ

本年度の実証では、大きく二つのテーマが設定されています。一つ目は、AIによるティーチング・プログラムの自動生成です。

産業用ロボットを動かすには、「何を、どの順番で行うか」という動作手順を設定する必要があります。今回の検証では、AIがこの動作設計を自動生成し、作成されたプログラムの妥当性と安全性を仮想環境上で評価します。

安全境界が正しく設定されているか、異常時に機械を安全側へ停止させるフェイルセーフが働くかといった点に加え、作業にかかるサイクルタイムや工程ごとの時間変動も確認します。熟練者が手作業で担ってきた負担を軽くし、製品の切り替えが多い製造現場でも、ロボットを導入しやすくすることが目標です。

仮想空間で学んだ動きを実機へ移す「Sim2Real」

二つ目は、シミュレーションで学習したAIモデルを現実の装置へ展開する「Sim2Real」の検証です。仮想環境では問題なく動いたモデルでも、実際の工場では設備の個体差や周囲の状況などにより、想定どおりに動かない可能性があります。

そこで、シミュレーションで作成した制御方法を実機で再現し、安定して稼働できるかを確かめます。稼働継続率や誤差率、トラブルからの復旧時間、安全上の問題が起きた頻度などを継続的に確認し、実運用に耐えられる水準を目指します。

検証環境には、複数メーカーのロボットが同時に動く状況や、新旧の設備が混在する状況も取り入れられます。実際の製造現場に近い条件で、機器同士の連携性、制御性、安全性、導入効率を評価する点が特徴です。

工場のAI活用を「判断」から「行動」へ

生成AIによって「AIが考える」場面は急速に身近になりましたが、製造現場で求められるのは、その判断を機械の安全で確実な動きへ変えることです。今回の取り組みでは、現場データの収集・整備から、製造業に特化したAIの判断、ロボットの制御、安全性の確認までが一つの流れとして捉えられています。

実証は始まったばかりであり、具体的な導入効果や数値的な成果は今後の検証を待つ段階です。それでも、新旧の設備や異なるメーカーのロボットが混在する現実的な環境を想定している点からは、研究だけで終わらせず、工場で使える形を探ろうとする姿勢が見えてきます。
フィジカルAIが人の技能をどのように補い、製造現場の働き方をどう変えていくのか、これからの実証成果が気になるところです。

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