地域企業はなぜ「多角化」に向かうのか 家具・建築からカフェ、スポーツへ広がる事業

2026-09-30 04:30

人口減少や市場環境の変化を背景に、地域企業にとって一つの事業だけに依存し続けることのリスクは小さくない。

一方で、新しい事業へ進出すれば、その分だけ人材や資金、管理の負担も増える。多角化は必ずしも経営の安定につながるわけではなく、本業との関係をどのように設計するかが重要になる。

埼玉県所沢市を拠点とする株式会社吉村は、空間設計・施工や家具事業を基盤としながら、カフェ、ファッション、スポーツなどへ事業領域を広げている。

なぜ異なる分野へ進出するのか。同社代表取締役の吉村久朋氏に、多角化を進める背景について聞いた。

家具・建築会社がなぜカフェやファッションを手掛けるのか

株式会社吉村は1952年に設立され、空間づくりの設計・施工や家具の企画・卸販売などを手掛けてきた。

現在は、そこから事業領域を広げ、ファッションやカフェ、スポーツ関連の取り組みなども行っているという。

一見すると、それぞれ別の事業に見える。

しかし吉村氏は、建築や家具、インテリア、ファッション、コーヒーなどを個別の商品としてではなく、「空間をどうつくるか」という視点で捉えていると話す。

例えばカフェの場合、飲食物を販売するだけでなく、家具や内装、照明などを実際に人が使う場所にもなる。空間づくりを本業とする企業にとっては、自社で店舗を運営することで、利用者がどのように空間を使うのかを確認する機会にもなる。

同社がPMやコーディネートを担当した建築物「Grove」は、2023年度グッドデザイン賞を受賞している。設計・デザインは御手洗龍建築設計事務所が担当した。

こうした案件では、設計者や施工会社、家具、設備など複数の関係者を調整する必要がある。同社では現場管理にも携わりながら、空間全体をまとめる役割を担っているという。

ただし、事業領域を広げるほど、必要となる専門知識や人材も増える。

本業で培ったノウハウを別事業へ応用できる部分がある一方、すべての分野で同じ経営手法が通用するわけではない。どこまでを自社で担い、どこから外部の専門家と組むのかという判断も必要になる。

多角化は本当にリスク分散になるのか

多角化は本当にリスク分散になるのか

複数の事業を持つことには、一つの市場が低迷した際の影響を分散できるという考え方がある。

例えば建築需要が落ち込んでも、飲食や小売など別の事業が収益を補うことができれば、企業全体への影響を小さくできる可能性がある。

一方、多角化には逆のリスクもある。

事業ごとに顧客も競争相手も異なり、必要な人材や運営ノウハウも変わる。事業数が増えるほど経営者が把握すべき範囲が広がり、管理コストが増える。

重要なのは「事業を増やすこと」そのものではなく、それぞれの事業にどのようなつながりを持たせるかだ。

株式会社吉村の場合、空間設計や家具を基盤として、カフェやファッションなどを組み合わせることで、自社の空間づくりを実際の店舗やサービスとして展開する考え方をとっているという。

この構造が継続的な相乗効果を生むのか、それとも個別事業の集合にとどまるのかは、今後の運営によって見えてくる。

所沢に根ざしながら外へ広げる理由

同社は、本拠地である埼玉県所沢市で地域との関係を持ちながら、活動範囲を外部へも広げている。同社によれば、2026年度にはプロ野球の埼玉西武ライオンズとオフィシャルスポンサー契約を締結した。

地域を代表するスポーツチームとの取り組みは、所沢を拠点とする企業として地域との接点を増やす手段の一つと位置づけられる。

一方、事業展開は所沢だけにとどまらない。

2026年9月には、石川県金沢市のひがし茶屋街で「COFFEE GALLERY ひがし茶屋街」をオープン予定だという。また、東京や九州、海外を含むネットワークも活用しているとしている。

地域企業にとって、本拠地との関係を維持しながら他地域へ進出することには意味がある。

地元市場だけに依存しなければ、新たな顧客や取引先を獲得できる可能性がある。一方、拠点が離れるほど、人材管理や品質管理、ブランドの統一といった課題も増える。地域密着と広域展開をどう両立するかも、多角化を進める企業にとって重要な論点となる。

老舗企業は「本業」をどこまで広げられるか

70年以上続いてきた企業にとって、新規事業への進出は単に売上を増やすためだけの問題ではない。

これまで蓄積してきた技術や顧客基盤をどこまで生かせるのか。一方で、過去の成功モデルに依存せず、新しい市場にどう対応するのかという二つの課題がある。

株式会社吉村の多角化も、家具や建築とは無関係な事業を次々に始めるというより、「空間」という既存事業の延長線上に別の要素を加えていく考え方だという。

ただし、事業を広げれば経営資源も分散する。

カフェ、ファッション、スポーツなど、それぞれの事業が単独でも一定の収益性を確保できるのか。本業との相乗効果を具体的に生み出せるのか。長期的にはそうした点も問われる。

人口減少や市場縮小が進むなか、地域企業にとって多角化は一つの選択肢になる。

重要なのは事業の数ではなく、本業で培ってきた強みをどこまで新しい市場へつなげられるか。株式会社吉村の展開は、地域企業が成長領域をどう探すのかを考える一つのケースといえそうだ。

【取材協力】
株式会社吉村
代表取締役 吉村久朋
https://yoshikagu.com/