生成AI時代のクリエイティブ論――Visual EXPOで語られた「脱・平均化」と人間によるディレクションの極意
今では誰でも手軽に高品質なビジュアルを生成できる時代。しかしその裏で、クリエイティブの現場が直面しているのは表現の平準化による「既視感」の氾濫という壁です。
そんな中、映像×ビジネスの可能性を探るイベント『Visual EXPO by BRANDED SHORTS』にて、AIをブランドクリエイティブの世界でどう活用すべきかをテーマにしたセミナーが行われました。
AIに表現を丸投げするのではなく、ブランド独自の美意識を言語化してコントロールする「これからのクリエイティブとAIの向き合い方」――。現場のリアルな声と提案が語られました。
誰もが作れる時代に生じた「無難さ(クリシェ)」の壁

人間の言葉による指示で高精細な画像や動画を出力できる環境が整った反面、出力がどこか似通ってしまう「平均化」「紋切り型」。これはクリエイティブの現場では懸念材料として残されている課題ではないでしょうか。
生成AIを使った制作では、条件や方向性を十分に定めないまま指示すると、どこかで見たような「無難な表現」に寄ってしまうことがあります。
しかし、ブランディングの現場においてこの「無難さ」は致命的ともいえます。どれほど高品質なビジュアルでも、企業独自の文脈や美意識が伴っていなければ消費者の記憶には残りません。
ツールが平準化したいま、問われているのは「AIで何を生成するか」ではなく「AIが導く平均値からいかに脱却し、独自の価値を構築するか」という点です。
アマナが実践する「ブランドらしさ」を映像化する3ステップ


セミナーに登壇したのは、株式会社アマナのエグゼクティブプロデューサー・林 宏介氏と、アートディレクター・コンスタンス リカ氏。

自社で制作した映像事例を交えながら、AIを用いて「その企業らしさ」を表現するための3つのプロセスを提示しました。
ステップ1:人格を「発見する」(企業のアイデンティティの把握と理解)

企業の理念や実績、文化、美意識といった「本質的な人格」を整理し、AIが理解・解釈できる言葉へと再構築します。AIとの対話を通じて企業の本質を深く掘り下げ、軸となる「人格の定義」を確立させる作業です。
ステップ2:人格を「表現する」(AIディレクションモデルの設計)

人格が定まったら、AIの出力をコントロールする構造を設計します。ここで重要となるのが、「クリシェの禁止」と「固定と自由の切り分け」です。
まずAIにあらかじめ世の中に溢れる「テンプレ的な表現」をリストアップさせ、それらを出力させないための禁止ルール(ガードレール)を設定します。その上で、企業の人格や着地点といった核心部分は「固定」し、演出手法や舞台設定には「自由」を与えることで、AIならではの偶発的なアイデアを生かしつつも、軸のぶれない方向性を維持します。
ステップ3:人格を「語る」(演出技法による映像化)

確定した人格とルールに基づき、実際のビジュアル生成を行います。
今回の事例では、前後のカットの形状や光を滑らかに繋ぐ「マッチカット」や、絵画のような強い明暗のコントラストで立体感を表現する「キアロスクーロ」といった演出技法が採用されました。長年の写真制作で培われたアマナ独自の美意識をAIへの指示やルールに反映することで、抽象的なブランド概念を1本のストーリーとして表現しています。
AIと人間の役割分担――「枠作り」と「非言語な仕上げ」

本セッションを通じて明確になったのは、AI制作における「人間」と「テクノロジー」の明確な役割分担です。
セミナーでは、AIの強みとして、アイデアの試作(プロトタイピング)や選択肢の提示を高速で行える点が示されました。AIを、人間が設定した「枠の中を効率的に埋める道具」と捉える考え方です。
一方で人間には、AIが進むべき方向を示す「意図を持った枠組み(ルール)の設計」と、最終的な「感覚的な品質(非言語領域)の担保」が求められます。
音と映像が噛み合うタイミングや、微小な「間(ま)」の調整といった人間の感情を揺さぶるニュアンスは、AIでのコントロールが困難です。
どれだけAIの精度が向上しても、最後の細部の微調整や手作業による仕上げ(ポストプロダクション)を行うのは、人間の感性に他なりません。
AIをパートナーとして乗りこなす未来

AIを単なる自動化ツールではなく、思考を深め表現を広げるパートナーとして乗りこなす――。
今回のセミナーで提示された実践的なワークフローは、これからの時代にクリエイターや企業がどうAIと向き合うかを考える、一つの具体的なアプローチを示していました。
テクノロジーがどれほど進化しようとも、常に問われるのは、すべてをAIに任せることからいかに“脱却”し、独自の“意志”を吹き込むかという、人間の創造力と伝える力(編集力)なのかもしれません。
【Visual EXPO by BRANDED SHORTSとは】

今回セッションが行われた『Visual EXPO by BRANDED SHORTS』は、企業のブランディングにおける映像活用の最前線を探る展示会イベントで、2026年9月28、29日の2日間にかけて都内にて開催されました。
米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭「SSFF & ASIA」から生まれたブランディング映像カテゴリー「BRANDED SHORTS」が11年目を迎え、映像上映に加え、ビジネスマッチングや各種セミナーを統合した新たなプラットフォームとしての初開催でした。
<取材・撮影・文/櫻井れき>