森を歩き、木に触れ、未来を考える。広島工業大学の学生が学んだ「木を活かす」ということ
森は、私たちの暮らしから少し離れた場所にあるようで、実は水資源の保全や二酸化炭素の吸収など、日々の生活や地域の環境と深くつながっています。そして、その森を未来へ残していくためには、ただ守るだけではなく、木を活かしながら適切に管理していくことも大切です。
2026年9月15日、東広島市で「学生のための木を活かす仕事体験ツアー」が開催されました。ひろしま木づかい推進協議会(事務局:広島県)が主催し、広島工業大学SDGs推進センターが後援。県内の大学生が参加し、広島工業大学からも13人の学生が参加しました。
教室で森林について学んだ後は、実際の里山へ。森林整備の現場を歩き、ドローンによる森林管理を間近で学び、薪割りにも挑戦しました。「森を知る」から「森に触れる」へと広がっていった一日の学びを、学生たちの体験とともにたどります。
森を「知る」ことから始まった、学生たちの一日

ツアーのスタートは、東広島市の久芳地域センターで行われた講義から。まず賀茂地方森林組合の児玉さんが伝えたのは、森林が持つさまざまな役割についてです。森から得られるのは、建物や家具などに使われる木材だけではありません。水資源を守り、二酸化炭素を吸収するなど、私たちの暮らしや環境を支える役割も担っています。近年広がっている、企業による森林保全活動についても紹介されました。
続いて登場したのが、森林管理の現場で活用されているドローンです。株式会社和幸設計の岸下さんから、上空からデータを取得することで樹木の分布状況などを高い精度で把握できることが紹介されました。広い森林を効率よく管理していくために、デジタル技術を活用する「森林DX」が進んでいます。昔ながらの林業というイメージとは少し違う、テクノロジーと森が結びついた現在の姿が見えてきます。

さらに、土井木工株式会社の土井さんからは、広島県産の広葉樹を使った家具づくりをはじめ、森林資源を循環させながら利用していく考え方について説明がありました。木材がどこで生まれ、どのような経路をたどってきたのかを確認する「トレーサビリティ」の取り組みも、そのひとつです。
森を守ることと、木を使うことは、決して反対側にあるものではありません。適切に管理しながら資源として活かし、次の森へとつないでいく。午前中の講義を通して得たさまざまな視点を胸に、学生たちはこのあと、実際の里山へと向かいます。
教室を飛び出して里山へ。目の前の森から学ぶ

午前中に森林の役割や資源の活かし方を学んだ学生たちは、午後になると東広島市内の里山へ。ここからは、教室で得た知識を実際の森と重ね合わせていくフィールドワークが始まりました。訪れたのは、ANAファシリティーズが所有する「ANA Forest」。企業や地域団体がどのように森林整備に取り組んでいるのか、現地を歩きながら学んでいきます。

里山では、生活デザイン・工学研究所による活用事例も紹介されました。そのひとつが、近畿大学の学生と制作したツリーハウスです。森をただ眺めるのではなく、人が関わり、新しい使い方を考えることで、里山にはさまざまな可能性が生まれます。午前中に学んだ「森林資源を活かす」という言葉が、実際の風景を通して少しずつ具体的なものになっていったのではないでしょうか。

さらに学生たちは、自然の中に隠された人工物を探す「ネイチャーゲーム」にも挑戦しました。楽しみながら周囲に目を凝らすことで、普段なら何気なく通り過ぎてしまいそうな森の様子にも意識が向きます。森林について学ぶといっても、その方法は机に向かって知識を得ることだけではありません。
自分の足で森を歩き、目で見て、そこに関わる人たちの話を聞く。そうした体験が加わることで、森林と地域とのつながりも、より身近なものとして感じられます。学生たちにとって今回の里山は、午前中に得た知識を実際の風景へとつなげる、もうひとつの教室になったようです。
ドローンから薪割りまで。「木を活かす」を体験する

里山でのフィールドワークでは、午前中の講義で紹介されたドローンが実際に森林上空を飛行する様子も見学しました。森林管理の現場では、ドローンから得られるデータを活用することで、樹木の分布状況などを把握しやすくなります。講義で聞いた技術が目の前で動く姿を見ることで、学生たちにとって「森林DX」がより具体的なものとして感じられる機会になったことでしょう。

そして、ドローンによる最新技術に触れた後は、賀茂バイオマスセンターへ。ここでは薪割りを体験し、地域の広葉樹を熱エネルギーとして利用することの意義について学びました。自分の手で木に触れながら、森林から生まれた資源がエネルギーとして活かされていく流れを知る。午前中に学んだ森林資源の循環を、また違った角度から考える時間となりました。

空を飛ぶドローンと、自分の手で行う薪割り。一見すると対照的な二つの体験ですが、どちらもその先にあるのは、森林を適切に管理し、地域の資源として活かしていくことです。新しい技術を取り入れることも、地域にある木を無駄なく使うことも、持続可能な森を考えるうえで大切な視点につながっています。
森について「知る」ことから始まり、実際に森へ入り、最新技術を目にして、自ら木にも触れる。さまざまな角度から森林と向き合ったことで、学生たちにとって「木を活かす」という言葉の意味も、ツアーが始まったときより少し身近なものになったのではないでしょうか。
一日の体験から、その先へ。広島工業大学が育む実践的な学び

講義で知識を得て、実際の里山を歩き、ドローンの実演を見学し、自ら薪割りも体験する。今回のツアーでは、森林についてさまざまな角度から触れることで、学生たちが森林と暮らし、地域社会とのつながりを考える機会がつくられました。
こうした現場での体験は、SDGsという大きなテーマを自分たちの身近な問題として考えるきっかけにもなります。「持続可能な社会」と聞くと少し難しく感じますが、地域の木を家具やエネルギーとして活かすこと、森林を守るために新しい技術を取り入れることも、その未来につながる取り組みのひとつです。
今回のツアーを後援した広島工業大学SDGs推進センターでは、産学官が連携した実践的な学びの場づくりを進めています。大学の中だけで学びを完結させるのではなく、企業や行政、地域と関わりながら社会にある課題に触れることは、学生たちが自分なりの視点を育てていくうえでも貴重な経験になりそうです。
森へ足を運んだからこそ見えるものがあり、実際に木に触れたからこそ気づけることがあります。今回の一日も、学生たちが森林について知識を得るだけではなく、その先にある地域や社会の未来まで考えるきっかけになったのではないでしょうか。広島工業大学が大切にする実践的な学びは、こうした一つひとつの経験から広がっていきます。
森を知ることから、未来を考える一歩へ
普段の暮らしの中で、森林について立ち止まって考える機会は、それほど多くないかもしれません。しかし、私たちが使う木材も、身近な水や環境も、その先をたどれば森とつながっています。そして森を未来へ残していくためには、守るだけではなく、地域の資源として上手に活かし、次の世代へつないでいくことも大切です。
今回の「学生のための木を活かす仕事体験ツアー」には、そんな森林と人との関係を考えるヒントが詰まっていました。講義で知識を得るだけでなく、里山を歩き、ドローンによる森林管理を学び、自ら薪を割る。実際の現場に触れた一日だからこそ、学生たちの中にもそれぞれの気づきが生まれたのではないでしょうか。
一本の木を見る目も、その背景にある人や地域、技術を知ることで少し変わるかもしれません。今回得た経験が学生たちのこれからの学びにつながり、いつか地域や社会の未来を考える力になっていく。そんな一歩が、東広島の森から始まっていくのではないでしょうか。
広島工業大学 概要
広島工業大学は、広島県広島市佐伯区にキャンパスを構える私立大学です。1963年に開学し、現在は工学部・情報学部・環境学部の3学部を設置。工学や情報、建築、環境など幅広い分野で専門教育を行っています。また、地域や企業との連携を通じた実践的な学びにも力を入れ、社会で活躍できる人材の育成に取り組んでいます。