「見る防災」から「参加する防災」へ。AR・SNSで広がる「ふるちゃーじ」の新たな挑戦
防災情報をより多くの人に届けるために、デジタルの力をどう活用するのか。全国石油商業組合連合会が展開する「満タン&灯油プラス1缶運動」は、10周年を迎えた2026年、これまでの啓発活動に音楽やダンス、SNSなどを組み合わせた新たな取り組みを展開しています。
その中心となるのが、防災啓発デジタルアイドル「ふるちゃーじ」です。新曲『日本満タン計画 -満タン運動10th-』とミュージックビデオを公開するだけでなく、TikTokでは一緒に踊れるARフィルターを用意するなど、情報を見るだけではなく、自分でも参加して楽しめる仕掛けが取り入れられています。
難しくなりがちな防災というテーマを、デジタルコンテンツによって身近な体験へと変えていく今回の試み。デジタルアイドルやSNS、ARをどのように組み合わせ、新しい防災コミュニケーションを生み出しているのか、その仕組みと狙いを見ていきます。
10周年を機に変わる防災の伝え方。「満タン運動」がデジタル体験へ

「満タン&灯油プラス1缶運動」は、大規模災害が発生した際の燃料不足や給油待ちに備え、日頃から燃料に余裕を持っておくことを呼びかける防災活動です。2017年にスタートし、車のガソリンは残量が半分程度になったら満タンに、灯油は1缶多く備えておくという、日常の中で実践できる備えを全国へ発信してきました。
2026年に10周年を迎えた同運動が掲げるのは、「防災を“義務”から“カルチャー”へ」という考え方です。節目を祝うだけでなく「次の10年への出発点」と位置づけ、これまで防災への関心が薄かった人にも活動を知ってもらうため、新しいコミュニケーションに取り組んでいます。
そこで活用されているのが、音楽や映像、SNSなどのデジタルコンテンツです。防災情報を一方的に届けるだけではなく、楽しんだり、自ら参加したりする中で「満タン運動」を自然と知ってもらうことを目指しています。10年間続いてきた防災活動にデジタルならではの体験を加えることで、「満タン運動」の伝え方も新たな段階へ進もうとしています。
デジタルアイドル×MVで、防災啓発を「見たくなるコンテンツ」へ

新しい情報発信の中心を担うのが、ガソリンスタンド発の防災啓発デジタルアイドル「ふるちゃーじ」です。全石レン、満島ボタン、藤油ひとかの3人で活動し、2026年10月1日には第2弾となる新曲『日本満タン計画 -満タン運動10th-』とミュージックビデオを公開しました。
今回の映像で目指したのは、情報を一方的に伝える「啓発VTR」ではなく、思わず見たくなる「アイドルの新曲MV」です。キャラクターや音楽、ダンスを入り口にすることで、防災に関心のある人だけでなく、普段はあまり意識していない人にも自然とメッセージが届くコンテンツを目指しています。
楽曲には「満タン!満タン!それ満タン運動でしょ!」という掛け声や、真似しやすい「満タンダンス」を取り入れています。サビ部分は短い動画にも展開しやすい構成とし、見るだけでなく、踊ったり真似したりする楽しみ方も意識されています。
さらにMVには、全国から集まった参加者が「満タンダンス」を踊る様子をアニメーションにして収録。「ふるちゃーじ」だけがメッセージを発信するのではなく、参加者も映像の一部になることで、「みんなで防災文化を育てていく」という今回のテーマを表現しています。
ARやSNSで「見る」から「参加する」防災コミュニケーションへ

ミュージックビデオで興味を持ってもらうだけでなく、その先に「自分も参加できる」仕掛けを用意しているのも今回の特徴です。X、Instagram、TikTokと、それぞれ性質の異なるSNSを活用しながら、「満タン&灯油プラス1缶運動」に触れる機会を広げています。
なかでもTikTokでは、新曲『日本満タン計画』に合わせて「ふるちゃーじ」と一緒に踊れるARフィルターを公開。「#満タンダンス」を付けて動画を投稿できる仕組みにすることで、見る側だったユーザー自身がコンテンツに参加し、発信する側にもなれる設計です。デジタル上のキャラクターだからこそ実現できる、現実のユーザーと一緒に楽しめる体験となっています。
Instagramでは、3人の日常を描いた4コマ漫画「ふるちゃーじ通信 4コマで、ちょっとだけ。」を展開。Xでも10周年に合わせたキャンペーンを実施するなど、一つのSNSだけに限定せず、それぞれ異なる方法で防災との接点をつくっています。
情報を読んだり動画を見たりするだけで終わらず、踊る、投稿する、キャラクターの日常を楽しむといった体験へつなげる今回の取り組み。デジタルを活用することで、防災啓発を一方向の情報発信から、ユーザーも参加できるコミュニケーションへと広げています。
デジタルからリアルへ。駅や全国イベントにも広がる防災体験

オンラインで展開するデジタルコンテンツだけでなく、実際の街やイベントにも接点を広げています。2026年10月1日から11月29日まで、東京メトロ千代田線・乃木坂駅のコンコースでは、「ふるちゃーじ」を起用したポスターが掲出されています。
ポスターに採用されているのは、見る角度によって絵柄やメッセージが変化する「レンチキュラー」と呼ばれる特殊な印刷技術です。駅構内を歩きながら見ることで異なるビジュアルが現れる仕掛けとなっており、デジタルとはまた違った方法で「満タン運動」に触れられる場をつくっています。
さらに10月から11月にかけては、鳥取、東京、愛知、広島、福島、愛媛で開催される6つのイベントへの出展も予定されています。デジタル上での発信に加え、リアルな場所でも「満タン運動」に触れられる機会が広がっていきます。
MVやAR、SNSから駅広告、全国各地のイベントまで、オンラインとリアルの両方に接点を設けている今回の取り組み。さまざまな場所や方法で防災に触れられる環境をつくることで、「満タン&灯油プラス1缶運動」を知るきっかけを広げています。
防災情報を「伝える」から「参加したくなる」へ
災害への備えは大切だと分かっていても、普段の生活の中で防災を意識し続けるのは簡単ではありません。だからこそ「満タン&灯油プラス1缶運動」が10周年を機に目指しているのは、防災を「やらなければならないこと」だけで終わらせず、日常の中で自然と触れられるものにしていくことです。
そのために今回活用されているのが、デジタルアイドルやミュージックビデオ、SNS、ARといったさまざまなコンテンツです。動画を見る、キャラクターを知る、一緒に踊る、SNSに投稿するといった複数の入口を用意することで、防災に関心がなかった人にも「満タン運動」を知ってもらうきっかけをつくっています。
さらに、デジタル上だけで完結させず、駅広告や全国各地のイベントにも接点を広げているのが今回の取り組みです。オンラインとリアルを行き来しながら、防災情報をただ受け取るだけではなく、自ら参加したり楽しんだりできる体験へとつなげています。
防災啓発にデジタルを取り入れる意味は、新しい技術を使うことそのものではなく、それによって人との接点や伝え方を増やせるところにあるのかもしれません。「伝える防災」から「参加したくなる防災」へ。「ふるちゃーじ」の取り組みは、防災をより身近な文化として広げていく新しいコミュニケーションの形を見せています。