早期流行、今年のインフルエンザはなぜこんなに早い? 8月から始まった異例の流行、その背景とは
「インフルエンザに気をつけるのは、寒くなってから」。そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。ところが今年は、まだ厳しい暑さが続いていた8月の段階で、すでにインフルエンザが流行入りしました。過去10シーズンの流行入りの中央値と比べると、その差は約15週間。およそ3か月半も早いスタートです。埼玉県では9月25日、2023年以来となる、9月時点でインフルエンザ流行注意報を発令、ほか沖縄県では10月2日、県内全域にインフルエンザ警報を発令した。9月21日~27日(第39週)に報告された1定点医療機関当たりの患者数は42.50人となり、警報の発令基準30人を超えるなど、すでに流行目前の危機的状況にあります。
なぜ、今年はこれほど早く流行が始まったのでしょうか。その背景として考えられているのが、記録的な大雨や日照不足による疲労、猛暑による生活スタイルの変化、そして海外との人の往来などです。これまでの「インフルエンザ=冬」という感覚だけでは捉えにくくなっている今年の流行。感染症対策に詳しい寺嶋毅先生の解説をもとに、その背景と今から意識しておきたい対策を紹介します。
今年は8月から流行入り。例年より約3か月半早いスタートに
例年、インフルエンザは12月から3月頃が流行シーズンとされています。しかし今年は、かなり早い段階から感染が広がり始めました。
厚生労働省の集計では、8月17日から23日までの第34週に、全国の定点当たり報告数が1.11となり、流行入りしています。現在の集計方法になった1999年以降では、2009年の新型インフルエンザ流行時に次ぐ早さです。さらに、過去10シーズンの流行入りの中央値は第49週。今年は約15週間、約3か月半も前倒しとなっています。

寺嶋先生も「冷房を使用している時期から、インフルエンザが流行したことは今まで経験がありません」とコメントしており、今年の早さは異例といえます。
こうした通常の流行時期から外れたタイミングで広がるインフルエンザは、「オフピークインフルエンザ」とも呼ばれています。なお、これは医学用語ではなく、オフピークに流行するインフルエンザを表した造語です。
なぜこんなに早い? 背景のひとつに「多雨疲労」
今年の早期流行には、さまざまな要因が関係している可能性があります。そのひとつとして挙げられているのが、夏から秋にかけての「多雨疲労」です。今年は厳しい残暑に加え、ゲリラ豪雨や台風、秋雨前線による長雨など、不安定な天候が続きました。9月上旬の関東甲信では、降水量が平年の365%に達した一方、日照時間は平年の31%にとどまっています。雨の日が多かったので当然のように日照時間は少なく、東京都心は今日9時の時点で45.8時間に留まっています。平年の3分の1で1988年の39.2時間に次ぐ観測史上2番目の少なさです。1日の日照時間が5時間を超えた日は3日しかなく、秋晴れはほとんどない1か月でした。※1
こうした環境も感染症のリスクを増加させてしまうと言います。

こうした気温や気圧、湿度の大きな変化が続くことで、自律神経のバランスが乱れ、疲労が蓄積しやすくなるとされています。疲労と感染症の関係を示した研究もあり、疲労度が高い人ほどインフルエンザ様疾患が多くみられた例や、疲労度が増すほどウイルスに感染した細胞などを攻撃する免疫細胞の一種のNK細胞の活性が低下する傾向も報告されています。
多雨疲労だけが早期流行の原因というわけではありませんが、体に疲れがたまりやすい環境が続いたことも、背景のひとつと考えられています。
猛暑や大雨で変わった「夏の過ごし方」
今年の天候は、私たちの行動にも影響を与えました。猛暑や大雨が続くと、外出を控え、冷房の効いた屋内で過ごす時間が長くなります。多くの人が屋内に集まれば、感染者と近い距離で過ごす機会も増え、感染が広がりやすくなる可能性があります。
今年の夏は、とくに子どもを中心にインフルエンザの流行が拡大しました。寺嶋先生は、子どもは過去の感染経験が少なく免疫が低いことに加え、保育園や夏のイベントなど、集団で過ごす機会が多かったことも理由として挙げています。
「冬だから広がる」というだけではなく、猛暑や大雨によって変わった夏の生活スタイルも、今年ならではのポイントといえそうです。
海外では夏にも流行。人の移動も影響か
インフルエンザの流行時期は、世界中で同じではありません。南半球では日本の夏にあたる時期に流行し、熱帯地域では年間を通して流行することもあります。そのため、人の国際的な移動が活発になれば、海外で流行しているウイルスが国内へ持ち込まれ、オフピークでの流行に影響する可能性も考えられます。
さらに、8月から10月にかけては訪日外国人旅行者が増える傾向があり、直近3年間では、10月の訪日客数は8月と比べて約13〜17%増加※2しています。
国内の天候や生活環境だけでなく、こうした海外との人の往来も、今年の早期流行を考えるうえで無視できない要素です。
早く始まった分、流行が長引く可能性も
今年のインフルエンザで気になるのは、流行開始の早さだけではありません。8月から始まった今年の流行は、長期化する可能性があります。一度感染者数が減ったとしても、再びピークを迎えたり、シーズン中に何度も波が訪れたりすることも考えられます。また、流行が長引けば、1シーズンの間にA型やB型など、異なるタイプのインフルエンザに複数回感染する可能性もあります。
一度かかったからと安心せず、その後も流行状況を意識しておくことが大切です。
今からできる、日常の感染対策
感染予防の基本は、できるだけウイルスを体に取り込まないことです。マスクの着用や手洗い・手指消毒、うがい、こまめな換気など、日頃の基本的な対策を続けることが大切です。さらに、体調を整えるためには、7〜8時間程度の質のよい睡眠や適度な運動、ストレスをため込まない生活も意識したいところです。
食事では、特定の食品だけに偏らず、栄養バランスを整えることが基本です。そのなかでも、とくに意識したいのが「たんぱく質」です。たんぱく質は、体内で免疫細胞や抗体がつくられる際の代表的な材料です。朝食や昼食は主食だけになりやすいため、卵や乳製品など、手軽に摂りやすい食品を取り入れるのもひとつの方法です。

たんぱく質と乳酸菌を一緒に摂れるヨーグルトも
日常の食生活に取り入れやすい食品として、ヨーグルトもひとつの選択肢です。ヨーグルトには、免疫細胞や抗体の材料となる「たんぱく質」と、腸内環境を整える「乳酸菌」の両方が含まれています。腸には多くの免疫細胞が集まっており、腸内環境を整えることも、免疫機能を維持するための習慣のひとつです。
朝食や間食などに取り入れながら、無理なく続けられる食生活を意識するのもよいでしょう。

寺嶋毅(てらしま たけし)先生プロフィール
国際医療福祉大学市川総合病院呼吸器内科部長、同大学医学部教授。慶應義塾大学医学部卒業、医学博士。呼吸器学会専門医だけでなく、がん薬物療法専門医、緩和ケア専門医、感染症専門医などの資格を持ち、多くの経験と新しい知見を踏まえた医療を提供している。
「冬になってから」ではなく、今からできる備えを
今年の8月からの流行は、「インフルエンザは冬のもの」というこれまでの感覚を少し見直すきっかけになりそうです。早期流行の背景には、天候による疲労や生活スタイルの変化、海外との人の往来など、さまざまな要素が関係している可能性があります。だからといって、特別に難しいことを始める必要はありません。手洗いや換気、睡眠、食事など、日々の基本的な習慣を少し丁寧に続けることが大切です。
「冬になったら気をつけよう」ではなく、流行している今から。季節の変わり目で疲れも出やすい時期だからこそ、自分の体調にも目を向けながら過ごしていきたいですね。
※1)https://weathernews.jp/news/202609/300081/
※2)日本政府観光局調べ