年間10万人超の介護離職が問う地域医療の役割――在宅医療と精神科訪問診療の現状
総務省の調査によると、2022年までの1年間に介護・看護を理由に離職した人は約10.6万人にのぼり、家族の負担軽減が課題となっている。東京23区などで訪問診療を行う「さくらひだまり訪問クリニック」の加藤久普院長は、通院が困難な患者や精神疾患を抱える患者とその家族を支える取り組みを進めている。専門チームの早期介入によって介護の孤立を防ぎ、患者と家族双方の生活を支えることが重要だという。同院の取り組みから、在宅医療の役割と今後の課題を探る。
年間10万人超が介護離職――通院を断念する家庭の現実

高齢化が進む日本では、厚生労働省の2023年の患者調査によると、精神疾患を有する総患者数は約603万人にのぼる。こうしたなか、「通院介助が限界に達している」という切実な声が医療現場に多く寄せられていると、さくらひだまり訪問クリニックは説明する。
足腰の衰えによる移動困難だけでなく、認知症に伴う行動・心理症状や精神的な不安から、患者本人が外出を強く拒否するケースも少なくない。病院の待合室でパニックを起こしてしまい、周囲の目を気にして通院を断念する事例もあるという。
患者本人の苦悩に加え、仕事や日々の介護に追われ、「どこに相談すればよいのか分からない」と孤立を深める家庭もある。同院によると、精神疾患や認知症を抱える患者の場合、従来の外来診療だけでは十分な対応が難しいケースもあるという。
こうした背景から、患者の自宅を直接訪問し、専門的な医療を提供する訪問診療の役割が重要になっている。一方、在宅医療における家族への支援体制や、専門的なケアを担う医療従事者の確保など、課題も残されている。
24時間365日体制の意義――家族の介護負担を軽減する取り組み

「自宅で最期まで診てもらえるのか」。夜間の緊急対応への不安もあり、在宅医療の利用にためらいを感じる家庭は少なくないとみられる。
さくらひだまり訪問クリニックでは、家族だけで介護を抱え込まず、専門の医療チームに頼ることを重視している。同院は24時間365日の対応体制を整え、夜間も相談できる仕組みを通じて、家族の不安軽減を図っている。
在宅医療では、痛みの緩和などの対応も可能だ。同院は家族の心理的負担を軽減するため、生活リズムに合わせた診療方針の提案や、相談窓口の整備に取り組んでいる。
医療者が関わることで家族の介護負担を軽減し、患者と穏やかな時間を過ごせる環境づくりを進めているという。ただし、地域によっては夜間や緊急時の受け入れ体制が十分でない場合もある。複数の医療・介護機関がどのように連携していくかも課題となっている。
在宅医療を身近な選択肢に――早期相談の重要性
在宅医療は「通院ができなくなった末の手段」だけではなく、住み慣れた自宅で日常生活を続けるための選択肢でもある。
加藤院長は、家族が「自分が頑張らなければならない」と介護を抱え込み、限界を迎える前に専門家へ相談することが重要だと話す。早い段階で専門職の支援を取り入れることで、家族が介護だけに追われる状況を減らし、患者と家族双方の生活の質を保つことにつながるという。
さくらひだまり訪問クリニックでは、本格的な訪問診療が必要になる前の段階でも、将来を見据えた事前相談を勧めている。
今後は行政や地域の介護事業者、福祉機関との連携を深め、医療と介護が一体となった包括的なケア体制の構築を目指すという。患者が地域で暮らし続けられるよう、啓発活動や地域医療への参加も継続する方針だ。
一方、制度面の整備や地域住民への在宅医療の周知など、解決すべき課題は少なくない。
訪問診療には、患者への医療提供だけでなく、介護を担う家族の生活を支える役割もある。家族だけで介護を抱え込まないためにも、医療機関や介護事業者、行政による連携が欠かせない。

【取材協力】
さくらひだまり訪問クリニック
院長 加藤 久普
https://sakura-hidamari.com/