数字から読み解く「狂犬病」の真実

「毎年なんとなくワクチンを打っているから、もちろん、病名は知っているけど、かかったらヤバイってことくらいで、『狂犬病』のことは実際、どんな病気なのかよく知らないんですよね。でも、日本は安全なんでしょ。だから、あまり関係な […]

「毎年なんとなくワクチンを打っているから、もちろん、病名は知っているけど、かかったらヤバイってことくらいで、『狂犬病』のことは実際、どんな病気なのかよく知らないんですよね。でも、日本は安全なんでしょ。だから、あまり関係ないかも…。防疫体制もしっかりしてそうだし」

もしかしたら、狂犬病に対してこのような認識や危機意識を持っている人は多いのかもしれません。確かに日本では、1957年(昭和32年)を最後に、国内での狂犬病の感染の報告はありません。

でも、ちょっと待って!

確かに、日本は狂犬病のない「狂犬病清浄国」のひとつです。しかし「国内での発生がゼロだから」や「防疫体制がちゃんとしているだろうから」という理由だけで、日本は安全といえるでしょうか?

4年前、新型コロナウイルスは日本の防疫体制をくぐり抜けて、国内に入ってきてしまいましたよね? 狂犬病も同じ。すぐにでも狂犬病ウイルスが日本国内に侵入する可能性がゼロではないのです。

だから、コロナ禍が去り、再び自由に海外に行けるようになった今こそ、狂犬病についてちゃんと知っておいてください。

なお、1957年(昭和32年)、日本で最後に狂犬病が確認されたのは、犬ではなく猫でした。狂犬病は、多くの哺乳類に感染することが知られているように、犬だけの感染症ではありません。

しかも、今はたまたま都市部の犬や猫への感染が見られないだけで、もしかしたら、山林で息を潜めているのかも…。現実に2013年には、清浄国だったはずの台湾で、野生のイタチアナグマから狂犬病ウイルスが検出されたのですから。

『59,000人』 ドジャー・スタジアムの収容人数以上?!

59,000人。この数字が何を表しているかというと、世界における1年間の狂犬病による死亡者数です(2017年WHO調べ)。世界では毎年50,000人以上の人が、狂犬病の犠牲になっています。

59,000人という数字はとても大きいものですが、いまひとつピンとこないかもしれませんね。たとえば、大谷翔平選手や山本由伸選手が加入したドジャースの本拠地「ドジャー・スタジアム」の収容人数は、56,000人。

観客席を埋め尽くす56,000人と外に溢れた3,000人でどよめくスタジアムの光景を想像してみてください。そして、そのすべてが狂犬病で亡くなった人たちだとしたら…。恐ろしいですよね。

狂犬病の発生はアジア・アフリカ地域で多く、アジアでは、インド、中国、パキスタン、バングラデシュ、インドネシア、ミャンマー、フィリピンなどで特に多く発生しています。

<参考資料>
狂犬病の世界での発生状況(厚生労働省)

『95%』 犬が哺乳類の中でもダントツ!

前述したように、狂犬病は犬だけが感染する病気ではありません。狂犬病は、人と動物に共通の「人獣共通感染症」です。犬や猫はもちろん、コウモリ、サル、アライグマ、イタチ、アナグマ、タヌキなど、ほぼすべての哺乳類に感染します。

狂犬病は、さまざまな動物から感染する可能性があるわけですが、狂犬病に感染した人の約95%が犬に咬まれるなど、犬が原因だといわれています。そのため、狂犬病対策は犬に対するもの(毎年のワクチン接種など)が中心となります。

今回掲載した写真は、すべてベトナムで撮影されたものです。ベトナムは狂犬病の常在国です。

街にはかわいらしい小型犬もいれば、人懐こそうな犬もいます。そして、写真の犬たちはどの犬もノーリードであることがわかりますよね。街中を犬たちが自由に歩く姿は、ベトナムではよく見る光景です。ちゃんとワクチンを打っていれば良いのですが…。

かわいい犬に会うと、犬好きの習性で、ついヨシヨシナデナデしたくなって…。

って、ダメダメ。ダメですよ!

海外では日本にいる時のように、気軽に犬に触れることは避けてください。これも狂犬病対策の一つです。

しかし、万が一旅行先で犬に咬まれてしまった場合は、すぐに現地の病院でワクチンを打ってくださいね。潜伏期間が長い病気なので、噛まれた後でもワクチンが効果的といわれています。

『70.9%』 ワクチン接種率は東高西低?

WHO(世界保健機関)では、2030年までに犬から人への狂犬病感染をゼロにするための世界戦略計画「Zero by 30」という目標を掲げ、狂犬病清浄国を含む各国に「ワクチン接種率70%以上」の維持を求めています。この「70%」という数字には、ちゃんと根拠があります。

皆さんは「集団免疫」という言葉を聞いたことがありますか?

集団免疫とは、ある集団の中に、特定の病気に対する抗体を持った個体が70%以上いることで、集団としての免疫力を獲得できるということです。集団免疫を獲得すると、その病気の流行が抑えられるといわれています。

そこで、私たちの国の狂犬病ワクチン接種率はというと、2022年度(令和4年度)の全国平均は「70.9%」(厚生労働省調べ)。

あ~良かったぁ、70%をクリアしています…と、安心している場合ではありません!

確かに全国の平均値は70%を超えています。直近8年のデータを見ても、すべて70%をクリアしています。しかし、微小ではありますが、ワクチン接種率は減少傾向にあります。そして、接種率1位の県と最下位の差が35%以上というのも問題です。

また、未登録の犬の接種状況がわからないため、実際には接種率が50%以下ではないかという分析もあるのです。

狂犬病のワクチン接種は、愛犬を守るだけでなく、社会を守る(集団免疫の獲得)ための重要な対策でもあります。そのことを、ぜひ忘れないでおいてくださいね。

なお、狂犬病ワクチンは「狂犬病予防法」という法律で「年1回のワクチン接種」が義務付けられているということもお忘れなく。「完全室内飼育だから」や「日本は狂犬病清浄国だから」ということは、ワクチンを接種しなくていい理由にはならないということを理解しておいてくださいね。

まとめ

あまりにも怖い数字なので書こうかどうか迷っているうちに、「まとめ」まできてしまいました。

「ほぼ100%」

これは、狂犬病を発症してしまった場合の致死率です。つまり、発症したら、ほぼ確実に死亡してしまうということ。しかも、狂犬病は罹患動物との接触から1年後に発症する場合もある、潜伏期間の長い感染症です(通常、潜伏期間は1~3ヵ月)。

むやみに怖がることはかえってマイナスになりますが、狂犬病を正しく知って、必要最低限の危機感は持ってくださいね。

ちなみに、毎年9月28日は「世界狂犬病デー」です。ぜひ憶えておいてください。

ご長寿わんちゃん・ねこちゃんとご家族を表彰します!

イベント「インターペット」(4月4~7日/東京ビッグサイト開催)のペットフード協会ブースでは、人とペットの共生のお手本となっている元気なご長寿わんちゃん・ねこちゃんと、そのご家族の功労を称えて、表彰状の展示と授与を行います。

この連載では、ペットの健康のことや人とペットの暮らしについての「正しい」情報を発信していきますので、「ウチの子」との幸せな暮らしのヒントにしてくださいね。

ペットフード協会のウェブサイトではペットに関する多くの情報を見ることができます。

一般社団法人ペットフード協会

記事の監修
獣医師
徳本一義
  • 一般社団法人ペットフード協会 新資格検定制度実行委員会委員長
  • 一般社団法人ペット栄養学会 理事
  • 有限会社ハーモニー 代表取締役
  • 日本獣医生命科学大学、帝京科学大学、ヤマザキ動物看護専門職短期大学非常勤講師

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