10代の青少年には当たり前の存在であるSNS。しかしそこには多くの危険がある。青少年を守るために何をすべきか。ITジャーナリストの高橋暁子氏がアドバイスする。
はじめに
友人・知人と交流したり、情報を調べたりする際に使われるSNS。ところがSNSの利用で、10代の青少年に様々な危険が及んでいます。どのような危険があり、どのような対策が必要なのでしょうか。
インスタ・TikTokはメンタルヘルスに悪影響
10代は、他の世代よりSNSの利用時間が長い傾向にあります。SNSの利用で、10代のメンタルヘルスに悪影響があると言われています。Instagramを運営するメタ社の自社調査でもわかっていたことであり、同社はこれを隠していたことで非難されました。
10代の好むInstagramやTikTokなどのSNSには、多くの自撮り写真が投稿されています。美しい人ほど「いいね」が多くつき、フォロワーも増え、称賛されます。若者たちは、SNSから「美しくなければ」「痩せなければ」という強いメッセージを受け取ります。
自分自身と比較することで、自分の顔や体にネガティブな感情を抱き、落ち込んだり、摂食障害になったり、自殺念慮を抱いたりするようになってしまいます。実際は、そのほとんどの画像は加工されているのですが、見えているものが真実と思い込み、落ち込んでしまうのです。
利用時間制限機能の活用を
海外ではこのようなSNSの10代への悪影響が問題視され、SNSの禁止や制限が進んでいます。
米フロリダ州で14歳未満の子どもにSNSのアカウント取得を禁じる法案が成立するなど、35州が規制など子どもの保護策を導入しています。オーストラリアでも、16歳未満のSNS利用について保護者の同意を義務付ける「オンライン・プライバシー法案」が提出されています。
日本ではそのような制限はないため、周囲の大人が見守り、管理する必要があります。SNSで見えている世界は加工されたものであり、真実そのものではないということを教えるべきでしょう。
SNS等では、検索履歴や視聴履歴からユーザーが好みそうな情報が優先的に表示され、それ以外の情報から隔離された「フィルターバブル状態」になります。TikTokなどには誤情報や、摂食障害につながる過度なダイエット情報、健康に被害を与える間違った医療情報なども多く表示されます。SNS以外のメディアも利用させるなど、10代が誤った情報や偏った情報にのめり込みすぎないよう、見守るべきでしょう。
SNSへのはまり過ぎを防ぐためには、利用時間の制限も有効です。InstagramやTikTokには利用時間制限機能が用意されているので、子どもと話し合って導入するのもおすすめです。ペアレンタルコントロール機能またはフィルタリングサービスなどでも、利用時間は制限できます。
SNSきっかけで性被害、自画撮り被害も
SNSは、未成年の性被害等において被害者と加害者が知り合うきっかけになっています。
警察庁の発表によると、両者はX(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどの10代に人気の高いSNSを通じて知り合っています。オンラインゲームやLINEのオープンチャットなどを通じて知り合うケースもあります。その結果、令和4年におけるSNSに起因する事犯の被害児童数は1732人と、ここ数年高止まりしています。
どのSNSやゲームも、不特定多数と交流できる仕組みがあります。10代にとってネット友達を持つのが当たり前であり、ネット友達に会うことにも抵抗がないことがほとんどです。デジタルアーツの「第13回未成年者の携帯電話・スマートフォン利用実態調査」では、ネット友達と会った、または会いたいと希望する女子高校生は65.5%に上っています。
東京都生活文化スポーツ局の「家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査報告書」(2024年2月)によると、小中高生のうちインターネットやSNSを通じて知らない人とのやり取りが「ある」割合は全体の 19.0%に上り、「わからない」割合は 24.1%でした。
やり取りがあった子どもに対して、知らない人とどのようなやり取りをしたかについて聞いたところ、「SNS のダイレクトメッセージやメール、LINE 等でメッセージの送受信をした」(61.7%)が最多であり、次いで「ゲームで対戦したり、チャットをした」(37.5%)などとなりました。「音声通話、ビデオ通話をした」(27.7%)、「直接会った」(14.2%)など、知らない人と直接やり取りをしている例も少なくありませんでした。
SNSやゲームでは、加害者が10代の子どもたちにやり取りを通じて信用させてから、直接会ったり裸の写真を遅らせたりしているのです。一緒にゲームをしたり、趣味の話で盛り上がったり、相談に乗ったり、「好き」「かわいい」などの言葉で騙しているのです。
ネットでは、年齢・性別・職業・顔写真・名前等、すべて偽ることができます。加害者の中には、年齢・性別・職業などを偽っている人は少なくありません。SNSやゲームではいい人でも、それだけで信用してはいけないのです。
なお、「グルーミング罪(十六歳未満の者に対する面会要求等罪)」により、16歳未満の者に対して、わいせつの目的で面会を要求したり、わいせつな映像を送ることを要求する行為は罪に問われるようになっています。
会わない約束、会うときは相談する約束を
「ネットやSNSで知り合った人とは会わない」約束をしておきましょう。しかし、それでもやり取りを通じて親しくなり、会いたくなる子どもはいます。隠れて会ってしまい被害に遭う事態を避けるために、「それでもどうしても会いたくなったら相談して」と伝えておきましょう。
「いつどこで誰と会うか」を必ず伝えさせること。その上で、「会う前に通話/ビデオ通話させて」「会う場所まで送り迎えさせて」など、事前に相手が信頼できるかどうか確認するようにしましょう。会う場合も、日中、人が多い場所や公共の場所で、できれば複数人で会うことを約束させましょう。
なお、ほとんどすべてのSNSは利用規約で13歳以上対象、LINEは12歳以上推奨となっています。オンラインゲームのうち、小中学生にも人気の高いバトルロイヤルゲーム「フォートナイト」なども15歳以上対象です。
ところが対象年齢外の子どもがこのようなサービスを使い、被害につながっているケースも目立ちます。中には、年齢を偽って登録しているケースもあります。周囲の大人はサービスに対象年齢が決められていることを知り、対象年齢外の子どもには使わせないようにするべきでしょう。
闇バイトに応募して特殊詐欺に巻き込まれる
22年5月から23年1月にかけて起きた広域強盗事件により、X(旧Twitter)などのSNSで闇バイト募集がされていることが広く知られるようになりました。高額な報酬に釣られて応募した人たちが特殊詐欺に手を染め、逮捕されました。このように、最近の闇バイトは、SNSで募集されることが多くなっています。
マイナビの「大学生アルバイト調査(2024年)」では、SNSでアルバイト応募経験がある割合は26.5%、SNSで怪しい求人の勧誘を受けた経験がある割合は6人に1人に上りました。
大人世代がアルバイトや転職を考える場合、求人サイト等で調べることが多いでしょう。一方最近の10代は、あらゆることをSNSで検索して探します。アルバイトもSNSで検索して探すことが多く、闇バイトに巻き込まれるリスクが高まっているのです。
警察庁によると、2023年に特殊詐欺事件で検挙された少年は431人に上り、総検挙人員に占める割合は17.6%であり、特殊詐欺事件で検挙された約6人に1人が少年となっています。受け子になった経緯の半数以上が、「SNSから応募」となっていました。中高生が応募して検挙されることも増えています。
うまい話はない、事前の相談を
闇バイトの多くは、「物を運ぶだけ」「お金を受け取るだけ」「電話をかけるだけ」など、簡単なものです。しかしこれは特殊詐欺に協力することです。特殊詐欺は重い罪に問われる行為であり、中高生でも逮捕・勾留されて少年鑑別所に送られ、少年院送致されることがほとんどです。
「リスクがない高収入なバイト」などのうまい話はないこと、SNSでは闇バイトが多いこと、重い罪に問われることなどを教えましょう。
アルバイトはSNSではなく、求人サイト等で探すほうが安全です。また応募する前に、仕事内容や求人情報などが問題ないものかどうか周囲の大人に相談したり、インターネットで評判を調べたりすると安心です。
今回ご紹介したトラブルや事件はすべて、ニュースなどで報道されています。つまり、普段からニュースを見たり読んだりすることで、あらかじめ危険に気付けるようになる可能性が高いのです。
しかし、10代はニュースをほとんど見ていません。周囲の大人がこのような事件などをニュースで見かけるたびに、安全な使い方について話し合うことで、このようなリスクは防げるはずです。
今回ご紹介したことで、「SNSは怖いものだから使わせたくない」と考えた方もいるかもしれません。しかし、SNSを使わないと連絡ができないことも多く、10代がSNSを使わないことは現実的ではありません。使うことを前提に、どのように使えばリスクが抑えられるのか、適切な使い方を知るべきなのです。
<執筆者略歴>
高橋 暁子(たかはし・あきこ)
ITジャーナリスト。成蹊大学客員教授。
SNSや情報リテラシー教育が専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育事情に詳しい。東京学芸大学卒業。東京都で小学校教諭、Webの編集者などを経て独立、現在に至る。
『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)『子どもにケータイもたせていいですか』(インプレスジャパン)など著書多数。
全国の小中高校大学、自治体、団体、企業などを対象に毎年 50回ほどの講演・セミナーを行っている。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。