「制度の“抜け穴”突かれた」 障害者支援で150億円不正受給 見えない実態…“厳格化”後も残る課題【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-04-02 14:51

障害者の就労支援をめぐり、大阪の企業による前代未聞の不正受給が発覚しました。その額150億円。原資はもちろん税金です。関係者への取材から見えてきた巨額不正のスキームに迫ります。

【写真でみる】事業所が得ていた給付金 利用者1人あたりの給付金は20万円ほどだが…10倍以上の額に

障害者支援で150億円不正受給 元利用者「罪悪感みたいなものもあった」

神妙な面持ちで取材に応じた大阪市の横山市長。

大阪市 横山英幸 市長
「制度の信頼を揺るがしかねない大変重大な事態だと思う。大切な税金ですから、我々は厳しい処分をせざるを得ないですし、ここは厳しい態度を持って臨んでいきたいと思う」

強い非難の言葉を投げかけられたのが、大阪市にある福祉事業会社「絆ホールディングス」グループです。

市によると傘下の4つの「就労継続支援A型事業所」が、国などからの給付金約150億円を不正に受給していたのです。

A型事業所とは、障害のある人が支援を受けながら働くことができる場所。

時短勤務など自分のペースで働くことや「一般就労」に向けたスキルを習得することが目的で、事業所には利用者1人あたり平均月20万円ほどの給付金が支払われています。

この支援制度をめぐり何が行われていたのか?

取材班は「絆ホールディングス」傘下の事業所の元利用者や職員など50人以上に話を聞きました。

発達障害のある20代のAさん。

「動画編集」や「ものづくり」のスキルが身につくと謳う事業所のホームページを見て、2025年4月から通いはじめましたが…

元利用者Aさん
「在宅でパソコンのスキルを学ぶ動画をみて学習していくような感じもあった。あまり稼いでいる感覚がなかったので、罪悪感みたいなものもあった」

命じられたのは自己学習やデータ入力ばかりで、スキルアップに繋がる支援はなかったと話します。

別の元利用者は、交通安全ポスターの制作などを命じられたといいますが…

元利用者の女性  
「他の利用者さんとかも同じもの作って、それが採用になったのか、不採用になったのか。ただ作って終わりみたいな。会社が意図的に、時間つぶしのために作った架空の仕事なんじゃないかなって私はずっと疑問に思っている」

また障害者らを支援する立場の職員も…

グループの現役職員
「利用者さんが何年後か何か月後かに就職する。その能力をつけるためにこういう支援をしましょうということは、今まで一度も言われたことがない」

浮かび上がったのは「就労支援の実態が見えない」状況。しかし、元利用者らが抱いた違和感はこれだけではありません。

給付金234万円 元利用者「あまりにも金額が大きすぎる印象」

元利用者のAさん
「誰が考えてもちょっとあまりにも金額が大きすぎるなという印象」

これはAさんを1か月間支援したことで、事業所が得ていた給付金の資料です。

下3桁が塗り潰されていますがその金額は「234万円」。利用者1人あたりの給付金は、全国平均で月額20万円ほどですが 、10倍以上の額になっています。

なぜ、これほど高額な給付金を受け取っていたのか。「ある制度」が関係しています。それが「就労移行支援体制加算」。

この制度は障害者がA型事業所で、スキルアップして一般企業などに就職し定着した場合、その人数に応じて翌年度に事業所が加算金をもらえる仕組み。いわば就労支援を頑張った「ボーナス」です。

「就労移行支援体制加算」が悪用されていた その手口は

グループで働いていた元職員は 「この制度が悪用されていた」と話します。

グループの元職員 
36か月プロジェクトという名前で、6か月ごとに一般就労と利用者雇用を切り替えていく形」

これは絆ホールディングスのグループ内で使用されていた内部資料。

「36か月プロジェクト」と書かれ、「A型就労期間」と「一般就労期間」を繰り返していくことを示す図が描かれています。

元職員によると事業所に通う最初の数か月は、A型事業所の「利用者」とし、次の半年は同じ事業所にいるのに契約だけを「一般就労」に切り替えることで、給付金の加算条件を達成したことにします。

そして再び「利用者」に戻して、さらに「一般就労」に切り替える。これを繰り返して、加算金を積み増していたというのです。

グループの元職員  
「自動的に一般就職という形に雇用が切り替えられて、また期間が経てば利用者雇用に切り替えられる。ただ環境も一切変わらず、仕事内容も変わらずのままが基本的」

150億円…巨額の不正 大阪市「制度の“抜け穴”突かれた」 計画的な不正として、取り消し処分

この手口について大阪市は…

大阪市の担当者
制度の抜け穴を突かれたところによるものが大きい」

市は「計画的な不正」として絆ホールディングスの4つのA型事業所の指定取り消し処分を決定。給付金の返還を求めています。

一方、事業所側は30日、利用者に向け説明会を開催。

出席者によりますと、4月末で事業所を閉鎖することなどが伝えられたということです。

――指定取り消し処分の受け止めは?

利用者
「来る時が来たなって感じ。納得できた説明はほぼほぼない」
「無責任だなと思う。この3月・4月分の給料がきちんと出るのかとか、今後の生活は非常に不安になってくる」

150億円にも上る巨額の不正。

JNNが「絆ホールディングス」に取材を申し込むと、こう回答が届きました。

まず、就労支援の実態があったのかについては…

絆ホールディングス 
「日々利用者の方々に向き合い、真摯に支援に取り組んできたものと認識しております。すべての利用者の方に対して十分な支援が行き届いていなかった可能性については、重く受け止めております」

また、大阪市が「計画的な不正」と指摘したことについては…

絆ホールディングス  
「当社としての認識と異なる部分があるものの、現在は行政の判断を重く受け止めております」

大阪市は今後、刑事告発も検討しているということです。

加算金の申請額が急増 厚労省が問い合わせるも…

小川彩佳キャスター:
制度の“抜け穴”という表現がありましたが、改めて今回の不正はどのような経緯で、どのような手口で行われたのか、整理していただけますか。

MBS 原田康史 記者:
A型事業所に通う障害のある方を、「A型利用者としての雇用」と「一般就労としての雇用」を計画的に何度も行き来することで、加算金を積み増していくという手口でした。

本来、就労支援というのは、障害のある方が10人いれば10通りの支援が必要なすごく繊細なものです。ただ職員の一人は、▼動画視聴など“自己学習”が中心で、▼個別支援が行われておらず、「支援より給付金が目的化していた」と証言していました。

トラウデン直美さん:
支援を受ける方にとっては、賃金の部分だけではなく、働くことから得られる社会との繋がりという実感や達成感が得られるという部分もすごく大きいと思うので、その機会を奪っていることだけでも、かなり憤りを覚えます。

どうしてここまで巨額の不正受給が、見過ごされてしまったのでしょうか。

MBS 原田康史 記者:
実は大阪市は、2022年度から加算金の申請額が急増し、これはおかしいということで厚労省に問い合わせはしていました。

ただ厚労省からは、この段階では「計画的に行き来することは問題ない」という見解が示され、そのときは制度上止めることができなかったことになります。

小川彩佳キャスター:
不正と判断できなかったのは、どういったことが背景にあるのでしょう。

MBS 原田康史 記者:
制度上行き来すること自体には、そのときは問題がないという見解が出ましたが、A型事業所に通い、スキルアップを頑張り一般企業に就職したが、馴染めずにまたA型事業所に戻るということはよくある話です。それを禁じてしまうと、真面目な事業所にも不利益が被ることから、制度は性善説に基づいて柔軟な設計をしていました。ある意味、今回はそれを抜け穴として使われてしまったことになります。

制度“厳格化”も残る課題

藤森祥平キャスター:
対策として国も動いていて、2024年度から「3年ルール」というものを作りました。これは原則として、利用者1人につき、3年間に1回しか申請を認めないというルールです。制度の厳格化を図るものになります。このルールが守られていればよいですよね?

MBS 原田康史 記者:
そうですね。大阪市からの相談等も受けて、厚労省は制度の見直しに踏み切ったわけですが、2024年度以降も、絆ホールディングスは3年間で重複する人の申請を続けていました。大阪市は2025年の8月から監査に入り、3月に指定取り消しの処分に至りました。

大阪市の調査では、3年ルールに違反する疑いがある事業者が現在34件確認されており、調査が進められています。

トラウデン直美さん:
そもそも就労支援の制度自体は、障害のある方もない方も、全員が社会を一緒に作り、共に生きていくことを目指す制度のはずですよね。

でもこうした問題が起こることで制度が厳しくなると、本来真面目に取り組んでいて、より開けた未来を得ていくはずの事業所や支援を受けている障害のある方々が、不利益を被ってしまう状況になってしまわないか心配ではあります。

MBS 原田康史 記者:
現在、絆ホールディングスの利用者は1300人以上いらっしゃいます。その方たちを次のA型事業所等に繋げていくために、厚労省の指示のもと、大阪府内のハローワーク全てに特別相談窓口が設置されるなどして、次に繋げていくための支援というのも始まっています。

小川彩佳キャスター:
大阪市は今後刑事告発を検討しているということですが、まっとうに事業を行っている方々にあらぬ疑いが向かないようにするためにも、どのような経緯で誰が進めていたのかなど、経緯をつまびらかにしていただきたいですね。

MBS 原田康史 記者:
就労は、お金を得るためではなく、それがやりがいや誇りに繋がって、初めて長続きしていくものです。やはり社会の役に立っているという実感が持てないような実態だったのは、本当に良い意味での“支援”ではなかったと思います。

==========
<プロフィール>
MBS 原田康史 記者
これまで大阪の警察・行政を担当
障害者支援の不正受給問題を継続取材

トラウデン直美さん
Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満」受賞
趣味は乗馬・園芸・旅行

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