![緊迫“最強の盾”イージスを独占取材 保有の背景は、加速する日本の防衛力強化【報道特集】](/assets/out/images/jnn/986363.jpg)
中国の海洋進出や台湾有事を想定して、防衛力強化が加速しています。政府は南西諸島に次々とミサイルを配備しています。そしてこれまで、専守防衛を逸脱するとされてきた、事実上の空母保有にも踏み切りました。大きく変化する安全保障、現場からの報告です。
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“事実上の空母”保有の背景は
海面すれすれでホバリングするヘリ。小銃を携帯した隊員が次々に飛び込んでいく。“日本版海兵隊”と言われる水陸機動団の離島奪還訓練だ。
“離島”とは明らかに中国が領有権を主張する尖閣諸島を指す。中国の海洋進出に対抗する防衛力強化が、予想をはるかに上回るスピードで進んでいる。そして、政府は専守防衛の下で、これまで封印してきた“事実上の空母”の保有に踏み切った。
戦前から海軍の街として発展してきた広島県呉市。至る所に“海軍”が染みついた街だ。
120年前に建築された呉鎮守府は海上自衛隊呉地方総監部としてそのまま使われている。建物内部には真珠湾攻撃を指揮した司令官達の名前も並ぶ。
早朝、行動が極秘の事から“海の忍者”と呼ばれる潜水艦が帰港してくる。
呉基地は神奈川県の横須賀基地と共に潜水艦部隊の拠点でもある。戦艦「大和」が建造された造船所で、ある艦船の改修が進んでいた。
海上自衛隊最大の護衛艦「かが」。防衛省は同型の「いずも」と共に2隻を“事実上の空母”として配備する。
これは造船所を出て試験航行中の「かが」を捉えた映像だ。大きさは巨大戦艦「大和」に匹敵する。F35B垂直離着陸戦闘機を搭載する為に甲板はジェットエンジンの高熱に耐えられるように張り替えられた。
船首部分は戦闘機が発艦の際に発生する気流を可能な限り弱める為に、台形から四角形に改修された。
ブリッジには巨大な艦船を監視する30台のモニターが並ぶ。空母の心臓部、航空管制室。ここから戦闘機の離着艦をコントロールする。
どこから見ても“空母”なのだが、政府は一貫して否定し続けている。
元航空支援集団司令官 永岩俊道氏
「空母ですよ。世界中の軍事に関連するリストには空母と載っている」
しかし空母に離着艦できるパイロットの養成にはかなりの時間が必要だと語る。
元航空支援集団司令官 永岩俊道氏
「パイロットの訓練も4、5年かかる。明日明後日すぐに、作戦可にはならない」
伊藤俊幸元防衛省情報分析官も、本格的な空母として運用するにはパイロットの養成が大きな課題だと指摘する。
元防衛省情報分析官 伊藤俊幸氏
「パイロットの育成が急務。海上での離発着は怖くてしょうがない」
中国の海洋進出の抑止には、空母が不可欠だと分析する。
元防衛省情報分析官 伊藤俊幸氏
「日本の真南に中国の空母が常時1隻いるという状況が起こる。ということは、そこから戦闘機が発進してくる。昔の東京大空襲のように南から飛んでくる」
空母は、専守防衛を逸脱するもので憲法違反だと国会で議論になった事もあった。
社会党 久保亘 議員(参議院予算委員会 1988年)
「日本の自衛隊に空母を導入することは絶対にないと言い切れますか?」
防衛庁 瓦力 長官
「我が国の専守防衛を踏まえまして、攻撃型空母は持ちえない。防衛のための空母は持ちうる」
社会党 久保亘 議員
「それじゃあ、攻撃型空母と防御型空母の区別を説明してください」
この時の議論は平行線のまま、うやむやに終わった。
しかし、集団的自衛権を閣議決定した安倍政権は、議論を尽くさないまま“攻撃型空母ではない”との答弁で押し切ってしまった。
“爆買い”と揶揄された戦闘機を運用する意図も
当時の安倍総理が護衛艦「かが」で出迎えたのはトランプ大統領だった。太平洋戦争で史上初めて空母を主力として戦った日米。その首脳が艦上に立った。
トランプ大統領(2019年5月 横須賀基地)
「日本は最近新しいF35ステレス戦闘機105機を買ってくれると発表した」
1機120億円。空母保有の背景には、“爆買い”と揶揄された戦闘機を運用する意図もあったのではないかと囁かれている。成蹊大学の遠藤教授は“空母は移動する基地”であり、確実に専守防衛を崩すと強い危機感を訴える。
成蹊大学 遠藤誠治 教授
「船首防衛は、基本的には“専ら守る”。自分からは攻撃にはいかないということ。(空母は)戦闘機を載せて遠くまで出かけられる。これは空母としかいえない。ドカンと増やした防衛費でお買い物リストができて、説明しないで進めていくのがよくない」
護衛艦の空母化には、今なお制服組の間に根強い反対論が燻っているのも事実だ。海上自衛隊のトップだった古庄幸一元海上幕僚長は当初から反対の立場だった。
古庄幸一 元海上幕僚長
「反対ですね。何のために空母にしたのか分からない。空母の時代じゃない。もう装備じゃない。ハイブリット戦で、情報とか色々な分野を強化する必要がある」
2021年10月3日、「かが」の同型艦「いずも」に、遂にアメリカのF35B垂直離着陸機が着艦した。
成蹊大学 遠藤誠治 教授
「アメリカ軍の飛行機が日本の船に着艦するというのが、普通のことのように行われている。日米一体化の象徴」
最強の盾 イージスを独占取材
2017年、北朝鮮との軍事的な緊張が高まる中、 朝鮮半島を目指すアメリカの航空母艦「カールビンソン」。
空母は潜水艦や偵察機で周辺を捜索、 上空からは偵察衛星で監視し、 半径300キロの制海権を完全に掌握しながら動く。
護衛の“要”は防空能力が高いイージス艦だ。イージスの名前はギリシャ神話に由来する。都市の守護神アテナが持つ武器が、万能の盾イージスだ。
日本が保有するイージス艦は現在8隻。空母の本格的な運用のために増強する計画もある。
長期間、北朝鮮の弾道ミサイルへの警戒を終え、横須賀に帰港したばかりのイージス艦「きりしま」にカメラが入った。
畳8枚の面積のスパイレーダー。イージス艦の眼だ。半径500キロ以上。どの角度の飛行物体も瞬時に捉える。垂直発射ミサイル90発を搭載、20近い目標への同時攻撃が可能だ。速射砲は1分間に40発を発射出来る。
担当者
「射程は23キロ、東京ー横浜間ぐらい。あたります」
日本初のイージス艦の艦長を務めた本多宏隆氏。初めて乗ったイージス艦の能力には驚かされたと言う。
初代イージス艦艦長 本多宏隆氏
「(図上演習で戦闘機が)高度を下げて突っ込んでくる。キル(撃墜)キル、キルと全部墜とした。鉄砲の弾が飛んでいるのが(レーダーに)映る。関門海峡を出ると朝鮮半島の上空の飛行機が全部わかる」
イージス艦は1隻1500億円。年間の維持費は100億円を超える。弾道ミサイルを迎撃するSM3は1発50億円とも言われる。
イージスシステムはメンテナンスを含めて全てアメリカに依存している。
古庄幸一 元海上幕僚長
「アメリカから買って、一番大事なところだけアメリカでやってる訳です。日本にオープンできない部分が未だにある。それくらい相当な予算が必要」
限られた乗組員しか入れないCIC・戦闘指揮所。 訓練は毎日繰り返し行われる。
CIC担当乗組員
「12~13人、1チームでローテーションを組んで、常に日本海を見ています」
イージス艦は日米同盟に基づく“秘密の塊”だ。
CIC担当乗組員
「自分の普段の行動や発言でも情報に繋がるのでかなり気を付けている。イージスシステムは日本だけの秘密ではない。気を遣っている」
攻撃を受けた際に被害を最小限に抑えるシステムもある。
乗組員
「イージス艦独特のゾーンディフェンス。4ゾーンに区切られていて、1ゾーンで被害があったら、1ゾーンだけで(被害を)食い止める」
最強の護衛艦と言われるが、全く歯が立たないものある。
記者
「コロナのような感染症があった時は対処できる?」
乗組員
「一時的に止めることはできるが、通風が各区画に通っているので(ウイルスが広がる)」
艦船の天敵、潜水艦に対する能力も高い。
記者
「イージス艦は魚雷も持っている?」
担当者
「はい、能力は高い。(射程)距離は言えないが、潜水艦を沈めることができるくらいの能力」
北朝鮮の弾道ミサイル発射は予測できない。 洋上でひたすら待機する。
乗組員
「いつ撃ってくるか緊張感がある。ベッドに入っているときも」
艦内で唯一の個室は艦長室だ。
イージス艦きりしま 石寺隆彦艦長
「例えば100回撃って100回日本に落ちなかった。でも101回目はわからない。いつでも撃破できるように毎日訓練している」
1998年、日本の安全保障関係者を震撼させる事件が起きた。北朝鮮のミサイルが日本列島を飛び越えて三陸沖に達したのだ。事件は極秘にされた。
初代イージス艦艦長 本多宏隆氏
「日本の上空を通過したので大変だなと。1、2年遅れて発表されたと思う」
ミサイルの航跡を捉えたのはイージス艦「みょうこう」だった。しかし…
防衛省幹部
「航跡のデータは内調(内閣情報調査室)に押さえられました。防衛省は全く手を付けていません。内調からCIAを経て最終的にアメリカ軍に渡されたと聞いています」
データはそのままアメリカ側に渡され、日本政府は蚊帳の外だった。この事件を契機に アメリカが北朝鮮のミサイルに危機感を持つ事になった。
反撃能力の強化は今、“空母保有”にとどまらず、予想を上回るスピードで日本列島全土に広がっている。
加速する日本の防衛力強化
攻撃を受けて基地が使用不能となった事を想定し、離島の民間空港に自衛隊の戦闘機が姿を現した。
住民
「怖いですよ。戦争が始まったら全滅でしょ。こういうところは」
「音がすごかった。自衛手段で必要かなと思う」
沖合の輸送艦から海岸を目指す陸上自衛隊の水陸両用車。島の静寂を破るように大規模な離島奪還訓練が続いている。上空からはパラシュートで武装隊員が降下する。
南西諸島には次々に基地が建設されている。
鹿児島県西之表市の馬毛島。アメリカ軍の空母艦載機の訓練滑走路や自衛隊の護衛艦用の埠頭、戦争を継続する為の燃料庫などの建設が始まった。1兆円近い予算が注ぎ込まれ、4年後には島全体が巨大な基地に変身する。
そして、長崎県佐世保市では、最新式の小銃を携帯してアーケードを水陸起動団が行進した。在日アメリカ軍も参加した。
市民
「実際に持っている装備を市民が見るのは良いと思う」
「武器では平和は守れないと思うんですよ」
基地を見下ろす海軍墓地。太平洋戦争で海底に沈んだままの軍艦の慰霊碑が並ぶ。イージス艦「金剛」「霧島」「妙高」そして、空母化された「加賀」の先代もここに眠っている。
遺骨も遺品もない。戦没者17万6000人の名簿が残っているだけだ。
加賀会代表 井上秀敏氏
「遺骨が海の中にある。ここに何か分かるものがあるでしょうかとお見えになる人がいる」
空母「加賀」と乗組員はハワイ諸島沖水深5400メートルに沈んだままだ。
加賀会代表 井上秀敏氏
「抑止力として持っている分には構わないが、攻撃用になった場合大変なことになる。二度とこんな慰霊碑が建たないようにしてほしい」
政府は地対艦ミサイルの射程200キロを大幅に伸ばす計画だ。 石垣島に射程1000キロのミサイルを配備すれば、中国沿岸部がすっぽり入る。
そして1月18日、アメリカとの間である契約が交わされた。ピンポイントで敵基地攻撃が可能な巡航ミサイル・トマホーク400発をおよそ1700億円で購入する。射程は1600キロ。イージス艦や潜水艦に搭載すれば射程はさらに拡大する。
岸田政権が押し進める反撃能力の強化は今、際限のない“軍拡競争”の様相を呈している。