![「ごみを減らしたい」という気持ちに真摯に向き合うごみ清掃芸人・滝沢秀一さん【Style2030】](/assets/out/images/jnn/1008811.jpg)
SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は、お笑いコンビ、マシンガンズの滝沢秀一氏。2023年、漫才の賞レースで準優勝に輝き、再ブレイク。芸人をやりながら11年間ごみ清掃員として働き、環境省から広報大使にも任命されたごみのスペシャリスト。ごみに関する本を多数執筆。講演などを通した子どもたちへのごみの教育、「ごみ育」にも全国各地で積極的に取り組んでいる。
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知識ゼロでごみの世界に衝撃。「恐ろしい話をしましょうか?」
――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題して話していただくテーマを、SDGs17の項目の中から選んでいただきます。滝沢さん、まずは何番でしょうか?
滝沢秀一氏:
12番の「つくる責任、つかう責任」でございます。
――この実現に向けた提言をお願いします。
滝沢秀一氏:
はい、「誰かのせいにしない」ということでございます。
――ごみ清掃芸人と名乗る前の段階をお話ください。
滝沢秀一氏:
僕はごみ清掃員になって11年になりますが、芸人をもう26年ぐらいやっているんです。元々はお笑い芸人としてご飯を食べていきたいなと思っていたんですけど、それだと食べられないので、ごみ清掃員になったということで、今ではごみ清掃員が本職みたいな感じになりました。
――なぜごみ清掃員に?
滝沢秀一氏:
僕が36歳のタイミングで妻が妊娠したんです。出産費を稼ぐためにアルバイトをしようかなと思ったら、36歳だと東京でもアルバイトが見つからないですね。年齢不問の9社ぐらいをピックアップして片っ端から電話したんです。もう全部落とされるんですね。
――たまたま採用してもらったのがごみ清掃のお仕事だった。
滝沢秀一氏:
知識ゼロだったからこそ、本当にごみの世界に衝撃を受けました。ごみ清掃ってハードワークなんですよ。走ってごみが山積みのところを回収していくと、夏とか熱中症になりそうになったりするわけです。1日をこなすだけでも精いっぱい。
1月4日が一番大変なんです。12月31日から1月3日はごみ清掃は休みで、1月4日から回収を始めるわけです。この日が例えば缶回収だったらもう地獄なんですね。大量の発泡酒だとかビールの缶が出るんですけど、朝8時から回収して普段であれば大体3時ぐらいには終わるのが、そのときは夜の7時半ぐらいまで。人間、こんなにもお酒飲むのかって。
――SDGsをごみから感じられることがありますか。
滝沢秀一氏:
SDGsが浸透しているかどうかはちょっとわからないんですけども、11年前はペットボトルの分別一つにしてもなかなか大変でした。ラベルもはがしてくれないし、キャップも取らないし。そもそもペットボトルが何かわかっていませんでした。シャンプーとかお弁当の空き容器とか似たような素材だったらいいだろうみたいな、何でもかんでも突っ込まれていたんですね。一般の人からするとまだまだ伝わっていないということはありますので、同じことを繰り返し伝えるのは大事ですね。例えばごみって何袋ぐらい出していいと思いますか。
――三つ?一つか二つ?
滝沢秀一氏:
3から4のところが多いです。理屈として1日1袋と考えたら週2回回収すると、例えば月火水曜日の分で3袋。コロナの頃、大片付けをみんないっせいにやったんですよ。家のごみがすごく出てきて、1家庭で20袋ぐらい出すんですね。自分のところはそれでいいのかもしれないですけども…。
――清掃車がいっぱいになっちゃう。
滝沢秀一氏:
なっちゃうんですね。ちなみにパッカー車って言うんですけど、清掃車1台にどのぐらい入ると思いますか。
――1トンぐらい?
滝沢秀一氏:
最大2トンです。袋でいうと900個入ると言われています。1日で6回満杯にするんです。清掃車1台で10トンから12トンのごみを回収するわけなんです。満杯になったら清掃工場に行って降ろして、またさっきの続きから始める。自分の出しているごみってこんなものかなんて、町のごみを回収するとこんなに出るのかって思いますね。
――ちょっと恐ろしい感覚になってきました。
滝沢秀一氏:
恐ろしい話をしましょうか?日本はごみを捨てられる年数はあと23.5年です。24年後にはもう日本はごみを捨てられなくなります。
――捨てる場所がない?
滝沢秀一氏:
おっしゃる通りです。僕も小学校の講演会とか行ったりするんですけども、例えば「ごみって出したらどこに行くと思う?」と聞いたら「清掃工場に行く」、「清掃工場で何する?」「燃やす」って、そこまではわかっているけど、「燃やした後どうなる?」って聞いたら、みんな答えられないです。正解は灰になるんです。元々の大きさが40分の1になるんですけども、それでも灰が残るんです。この灰を埋めるところが最終処分場です。これが東京であと50年の寿命で、日本全国の平均で言うと23.5年です。
――最終処分場はもう増やせないんですか。
滝沢秀一氏:
そうなんです。例えば自分の家の隣が明日から最終処分場になりますよって言ったら、正直いい気持ちはしないじゃないですか。灰を運ぶにしてもダンプで運んでくるから騒音問題になるとか、通学路だったら安全は大丈夫かみたいなことで、どこへ行っても反対されるんです。だからこれ以上は増やせないと言われています。
――どうすればいいですか。
滝沢秀一氏:
ごみをなるべく少なくするということで寿命を延ばすのが一番大事です。今、脅しているようですけども、23.5年って、ちょっと寿命が延びているんです。元々僕が調べたときには21.4年だったんです。それが22.4になって今23.5になっているわけです。
――それはごみの量が減っているからですか。
滝沢秀一氏:
そうです。いい意味でも、悪い意味でも減っています。良い意味で言えば、皆さんがちゃんと分別をやってくれるようになったので、ごみが少なくなった。ごみって何種類あると思いますか。
――資源ごみ、スプレー缶とか危険ごみとかいろいろあるから、7種類ぐらい?
滝沢秀一氏:
正解は2種類です。可燃ごみと不燃ごみしかないです。基本的には。
世界の焼却炉の8割が日本に。有吉弘行さんのアドバイスとは
――資源ごみは?
滝沢秀一氏:
ペットボトル、瓶、缶とかは資源なんです。僕、最初資源ごみって言ったら怒られたんです、先輩に。資源であってごみじゃないだろうって。最終処分場に行くのは灰と不燃ごみを砕いたもので、埋め立てごみとも言うんですけれども、基本的には最終処分場の容量を圧迫するのはその二つだけです。それ以外にダンボールだとか全部資源にすれば、最終処分場に行かず、もう1回使われるわけです。基本的にごみは2種類。ここの区別がつくということが一番大事です。
――自分はごみだと思って出しているけれども、実は資源。
滝沢秀一氏:
そうなんです。なので、ちゃんと分別をしたりすると、いい意味でごみが減るんです。そしてもう一つ、悪い意味のごみが減るということは高齢化。高齢の方ってあんまり消費しないので、ごみが減っているんです。
日本って焼却炉が世界で一番多いんです。世界の焼却炉の8割が日本に、1000個以上あるんですよ。かつてはモノをいっぱい使ってごみにして消費を生み出していたんですけども、今はそういう時代でもなくなってきているんです。焼却炉の数が僕は多すぎると思う。
焼却炉はめちゃめちゃお金がかかるわけです。作るときも何百億ってかかりますし、すごい高温で燃やしたりするので、壁が消耗品みたいな感じで修繕しなきゃいけないんで、年間で6億とか10億ぐらいかかったり。これも税金だったりするわけなんです。ごみをいい意味で少なくしていって、焼却炉の数もちょっとずつ減らしていくのが僕は大事だと思うんです。
――芸の材料という以上に、ごみそのものに向き合っているという感じがします。
滝沢秀一氏:
ごみのことを広めるために面白おかしくみたいなこともやっていたんですけど、先輩の有吉弘行さんから、もっと真剣にごみと向き合えっていうアドバイスをいただいたんです。ふざけていたりすると、ごみの現状を勘違いされる可能性もあるから、真剣に語れと言われたんです。その日からごみを減らしたいっていう気持ちにだけは真摯に向き合うことがテーマになっています。
――真剣に向き合い始めて、変わったことがありますか。
滝沢秀一氏:
人格が変わったと思います。本当に180度。回収する立場の清掃員としても、プライベートで言えばごみを回収してもらう立場なので、自分が出されたら嫌だなっていうごみの出し方を自分がしたくないなって。例えばごみ汁をちゃんと絞る。ごみ汁って専門用語なんですけど、例えば生ごみを全く絞らないで出す人って世の中にいっぱいいるんです。ビチャビチャ。中には味噌汁をそのまま入れる人がいるんです。そうなると、(清掃車で)圧縮されたときにビシャって出てくるんですよ。これが1滴でもかかるともう1日中臭いんです。僕のごみを回収してもらう人にはそういう思いをしてもらいたくないので、1回ギュッと絞ろうみたいな。
ギュッと絞ると税金の無駄遣いをしなくて済むっていうところもあるんです。生ごみって水分が70~80%なんです。日本の法律は850度以上で燃やさなきゃいけないっていうルールがあるんですけど、高温で燃やしたら何でも同じだろうと思ったら、やっぱり水をぶっかけているようなもので、温度が下がるわけです。温度が下がるとダイオキシンが発生したり、燃えやすいように重油をかけたりするんです。みんなが絞ってくれたら温度が一定になって、重油を使わなくて済んだりするんです。
――提言で「誰かのせいにしない」という言葉がありました。その意味は?
滝沢秀一氏:
例えば捨てにくいものがあったら、自治体で何とかしてくれよとなったり、自治体の方は住民さんもっと分別してくれよ、みたいなところもあったりするんです。かと思えば法律で何とかすればいいんじゃないかみたいな。どれも正解ですけど、どれもが誰かのせいにしているところがあって、国も企業も住民も、皆さん一体でごみを減らそうってならないと、本当の意味でごみが減ることってないんじゃないのかなと思っております。自分で責任を持つということはやっぱり大事かなと思います。その積み重ねで絶対ごみは減ると思います。
――では、「わたしのサステナライフ」ということで、ゲストの方がずっと続けたいと思う趣味や日課について思いを語っていただきます。滝沢さんが続けたいものは何でしょう。
滝沢秀一氏:
マイボトルです。僕がごみ清掃員になった11年前に7000円でした。当時全くお金がなかったんで、ちょっと背伸びしたと言いますか、あのときあの思いで買ったって思うと、なかなか捨てられないですよね。いまだにこれを使っているんです。
――使い込んでいますね。
滝沢秀一氏:
そうなんです。アメリカの思想で「ラストロング」っていう言葉があるんです。愛しているものだったら命がなくなるまで使うっていう考え方です。買うときに最後まで使えるかなって考えて買い物をする。そういった言葉みたいなものが日本で流行るともっとごみが減るんじゃないのかなと。
――私も水筒を持っていて、ペットボトルを買うのに罪悪感が…。
滝沢秀一氏:
ペットボトルはスーパーに持って行くのが一番いいです。ラベルをはがす、キャップも取る、中身もちょっと洗ったりするじゃないですか。「水平リサイクル」するのが一番いいと思っていて、きれいなペットボトルからまたペットボトルは生まれ変わることができるんです。ペットボトルは例えば洋服とかネクタイとか卵パックに変わったりするんです。これもリサイクルなんですけど、「カスケードリサイクル」ってランクがどんどん下がっていく。
スーパーに出すのはペットボトル、トレー。もう一つは牛乳パック。あれって結構いい紙なんですよ。6枚でトイレットペーパー1ロールになるんです。
(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2024年2月25日放送より)