![原発敷地内でヒラメ飼育?「景色が全く違う」福島第一原発 広大な森林は1000基のタンク置き場に変貌…処理水放出と風評被害のあいだで #知り続ける](/assets/out/images/jnn/1030528.jpg)
処理水の海洋放出が始まった、東京電力福島第一原子力発電所。
福島では風評被害が広がっていて、漁業者を取り巻く環境は厳しさを増しています。
Nスタの井上貴博キャスターが福島の漁師と福島第一原発の双方を取材し、思うこととは?
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(TBS/JNN「Nスタ つなぐ、つながるSP 〜いのち〜」蓮井啓介)
「全然違う場所に」10年ぶりに福島第一原発を訪れて
井上貴博キャスター
「防護服なしで立っている・・・ちょっと受けとめられない感じですね。以前、お邪魔した時は完全防護服でしたので」
10年ぶりに訪れたNスタ・井上貴博キャスターは「景色が全く違う」とつぶやきました。
構内はコンクリートなどで地面を覆う作業がほとんど完了していて、10年前とは見違えるほど整然としていました。
また、こうした作業で放射線量が下がり、敷地全体の約96%では、防護服を着用する必要がなくなりました。
そのため、今回の取材では、マスクやメガネなどの簡単な装備だけで、敷地内の取材を行うことができました。また、被ばく量を測定する積算線量計も1人分ずつ手渡されました。
厳しかったセキュリティーチェック
一方で、厳しかったのは、原発構内に入る際のセキュリティーチェックです。
本人確認書類に記載されている住所などの情報は、一字一句正確に届け出る必要がありました。今回の取材では、事前に登録した内容と相違があったので、修正作業が必要になりました。
また、構内に持ち込むものも厳しく制限されていて、スマートフォンやスマートウオッチ、パソコンなど通信機能を有するものは、セキュリティーゲートの手前のロッカーなどに置いていかなければなりませんでした。
構内にはテロ対策などの安全管理上、撮影禁止のエリアが多くあるからです。
そのため、今回の取材では東電の担当者の立ち会いのもと、許可された範囲内でのみ映像撮影を行いました。
廃炉作業の「本丸」にたどり着けてすらいない
井上キャスターがまず最初に訪れたのは、1号機から4号機までの原子炉建屋が見渡せる高台です。
井上貴博キャスター
「線量は10年前に入った時は今回の取材とは桁違いの数字でしたし、変わりましたね」
「ここに立つと相当長い年月をかけてということにはなりますが、一歩一歩進んでいるんだなと感じます」
以前、原発を訪れた時は4号機の内部に入り、核燃料プールから使用済み核燃料が取り出される現場を取材しました。
あれから10年…。今も作業は続いています。3号機と4号機は、使用済み核燃料の取り出しが完了している一方で、1号機と2号機はまだ、使用済み核燃料が原子炉建屋の中に残されたままです。
それ以上に難しいのが「燃料デブリ」の取り出しです。
燃料デブリとは、原子炉格納容器の中で核燃料などが一度溶け落ちた後に、冷えて固まったもの。
1号機から3号機で合わせて880トンに上ると推定されています。
東電担当者
「燃料デブリの取り出しが、今後の福島第一原発の“廃炉作業の本丸”ということになっていきます」
最長で40年かかる廃炉作業の本丸と位置付けられている燃料デブリの取り出し。
東電は2号機から燃料デブリの取り出しを始める予定で、試験的に数グラム程度の燃料デブリを遠隔操作で取り出し、敷地内に専用の容器を設置して保管する計画です。
ただ、2023年度中としていた燃料デブリの取り出しの開始時期については、作業が難航していることなどから開始時期を延期し、2024年10月までの開始を目指しています。
取り出し開始の時期を延期するのは3回目で、廃炉に向けた本丸には、まだ辿り着けてすらいないのが実情です。
敷地を埋めつくす処理水タンク「これ以上増えると廃炉作業の支障に」
9階相当の高さまで階段で上がると、息つく間もなく、大量の処理水タンクが視界に飛び込んできました。
井上貴博キャスター
「事故前は、違った景色だったわけですよね?」
東電担当者
「事故前は森のような状態になっていました」
井上貴博キャスター
「うっそうとした生い茂った木を、ある程度伐採しながら・・・?」
東電担当者
「そうですね。エリアを確保して、タンクを徐々に建設していったという状況ですね。これ以上、敷地の中に建設すると廃炉作業が進まなくなってしまう」
かつて「野鳥の森」と呼ばれた敷地内の森林は、1000基以上の処理水が入ったタンクで埋め尽くされていました。高さは10メートル以上、およそ1000トンの処理水が入ります。
福島第一原発では、高濃度の放射性物質を含む「汚染水」が、1日およそ90トン発生していて、汚染水を浄化処理して、大部分の放射性物質を取り除いたものが「処理水」です。
ただ、「トリチウム」と呼ばれる放射線を出す水素の一種は、現在の技術では取り除くことができず、海洋放出が始まるまでの間、「処理水」が敷地内に保管されてきたのです。
東電としては、廃炉作業を進めていくためには増え続ける処理水の海への放出は不可欠だという立場で、2023年8月からこれまでに4回、放射性物質トリチウムの濃度を、国の基準の40分の1以下に海水で薄めて放出しています。
原発でヒラメ飼育なぜ?「水族館並みの施設」
次に、井上キャスターが訪れた施設にいたのは・・・
井上貴博キャスター
「おお元気!!」
餌をあげると水面から飛び上がってくるほど元気なヒラメです。
福島県の沿岸で獲れる魚介は”常磐もの”と言われ、中でもヒラメはこの地域の特産品。
東電は2022年から原発敷地内でヒラメやアワビといった海洋生物を飼育しているのです。
東電担当者
「まさに水族館並みの施設になっています。処理水を入れた海水でも、魚が元気だよっていうのをお見せするのがこの施設の第一の目的。」
処理水の海洋放出による風評被害で、福島の漁業者が再び苦境に立たされるなか、東電は「風評被害の抑制」のために、処理水が海洋資源に与える影響を分析しているといいます。
施設では、実際に海に放出する濃度まで海水で薄めた処理水と、普通の海水のそれぞれに区分けして飼育し、比較分析しています。
東電担当者
「普通の海水で飼育しているヒラメと、大きさ、身長体重、成長の度合いは全く変わりありませんし、死亡率も変わりありません」
東電によると、これまでの実験の結果、処理水のなかで飼育すると、エラなどを通して体内にトリチウムが取り込まれます。しかし普通の海水に戻すと、少なくとも体液に取り込まれたトリチウムは排出され、蓄積されないことが分かったということです。
また、そもそも海洋放出しているトリチウムの濃度は、WHOが定める飲料水基準の7分の1程度で、海洋資源にはまったく問題ないという考えです。
東電担当者
「飼育している状況を発信することで、風評被害の抑制に貢献したい」
取材を終えて、井上キャスターが感じたこと
「福島の漁師と東電の双方の取材を終えて、私が思ったのは『答えがないことだが、それぞれがよりよく折り合いをつけるために、どうすればいいのか、何か落とし所を見出せないか』ということ。
私が取材した相馬の漁師の方は冷静に考えていらっしゃって『処理水の放出も仕方ないことはわかっている』と。
『今までどうしても東京電力といがみ合ってきたところがあるけれども、これから先、何十年と続く中で、自分の子ども、その次の世代も、漁師を続けるために、どうにか協力して、福島の魅力を発信できれば』とおっしゃっていました。
ただその漁師の方も、『そもそも原発事故がなかったら、風評被害は生まれなかった』と複雑な思いを抱えています。そして、東電に対しては『これ以上のトラブルを起こしてほしくない』と切実に願っていました。
こうしたなか、福島第一原発の施設内では2月に、作業員のミスによって汚染水が屋外に漏れ出すトラブルが発生しました。
東電は処理水放出の安全性をアピールするだけでなく、廃炉作業に向けた作業をミスなく丁寧に行うことが求められているように感じます。
そうした姿勢こそが、最長40年続くとも言われる廃炉作業での風評被害を最低限に抑える方策ではないでしょうか」。