「なんでここにシカがいるの!?」クマにイノシシも…多発する獣害 広がるナラ枯れ 問題の根っこは“森の放置” 「森の国」日本はどこへ?

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2024-03-13 06:05
「なんでここにシカがいるの!?」クマにイノシシも…多発する獣害 広がるナラ枯れ 問題の根っこは“森の放置” 「森の国」日本はどこへ?

「サステナ・フォレスト」 “持続可能な森づくり”

“木の伐採”問題と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 中古車販売大手「ビッグモーター」店舗前の全国の街路樹が枯れたり伐採されたりした問題でしょうか。それとも東京・明治神宮外苑の再開発をめぐる、数百本の樹木の伐採計画がどうなるか、といった問題でしょうか。森林政策の専門家に聞くと、「あまり報じられていない、さらにスケールの大きな森林伐採に関する問題がある」と指摘。『サステナ・フォレスト』、つまり「持続可能な森づくり」の視点が必要だと訴えています。一体、どういうことなのか。

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 川上敬二郎(TBSテレビ「news23」編集長、ドキュメンタリー映画『サステナ・フォレスト~森の国の守り人たち~』監督)

“森の国”日本で何が起こっているのか?

日本は、国土の7割が森林です。先進国では、サンタクロースを生んだフィンランド、家具のIKEAで有名なスウェーデンに次ぐ、まさに「森の国」です。ところが、九州大学の佐藤宣子教授(森林政策学)によると、「日本の森は今、非常に不健全な状況にある」と言います。

かつて森はコンビニでありガソリンスタンドだった

かつて森は、日本人にとってもっと身近な存在でした。必要なものが揃うコンビニであり、栗や茸やイノシシなどの食材が採れるスーパーマーケットであり、燃料となる木材が確保できるガソリンスタンドでした。人々は都市部の会社に出勤するのではなく、森に通い、様々なものを得ていたのです。でも、森の役割は大きく変わりました。建築用の木材を得るためにスギやヒノキが多く植えられましたが、海外から木材が大量に輸入され、国内の森は放置されるようになりました。その結果、今、森は深刻な状況にあります。多発する獣害のニュース、夏なのに森が赤く染まる「ナラ枯れ」の背景にも、放置の問題があるのです。

野生鳥獣による農作物の被害 4割はシカ

「なんでここにシカがいるの!?」。街に住む人がシカを目にして驚いたときの言葉です。ニュースでも報じられました。今、多くの野生動物が街や里にあらわれて、住民や農家に被害をもたらしています。農水省によると、2022年度の野生鳥獣による全国の農作物被害は約156億円。中でも全体の4割を占め、最も大きいのはシカによる被害です。

イノシシによるけが人は過去最多 捕獲数も20年で約4倍

シカの次に大きいのは、イノシシによる農作物の被害です。中山間地域の畑に監視カメラを設置すると、夜、入り込んで、キャベツを美味しそうに食べる様子が撮影されていました。さらに近年、イノシシが人に危害を加えるケースも目立っています。環境省によれば、イノシシによるけが人は、2022年度、過去最多の85人に上りました。獣害としてのイノシシの捕獲数は2000年代に入って、20年余りで約4倍に。昨年度は約59万頭が捕獲されています。

クマによる人的被害も過去最多 「指定管理鳥獣」に追加へ 

今年度、クマによる被害も過去最多になっています。環境省によりますと、去年4月から2月まで、クマの被害に遭った人の数は全国で218人(うち死者6人)に上りました。環境省の検討会は、絶滅のおそれが高い四国以外の地域で、クマを「指定管理鳥獣」に追加する対策案をとりまとめました。指定されれば都道府県がクマの捕獲などをする際に、国から補助金などの支援を受けられるようになります。

人を怖がらない「アーバンベア」 

クマによる人的被害が増えた理由として、ブナの実などの凶作が指摘されています。エサを求めて行動範囲が大きくなり、街に降りてくる危険性が高まりました。また、『アーバンベア』というクマの存在があります。アーバン(街)にもクマが出てきているのです。威嚇の爆発音にも動じず、車の通り過ぎる音にも反応しないケースも報告されています。クマは本来、警戒心が強いはずですが、人に慣れてきたのでしょうか。

狩猟免許保持者や林業従事者の減少 過疎化や高齢化も

シカ、イノシシ、クマ…。動物たちは森にかかわる人たちや、その周辺の中山間地域で暮らす人たちの減少を知っているかのようです。環境省によると、狩猟免許の保持者は1975年、51.8万人でしたが、現在(2019年)は21.5万人。当時の約4割に減っています。狩猟免許者の6割は60歳以上で、高齢化もすすんでいます。さらに林業従事者も減っています。農水省によると1960年には68万人いましたが、現在(2020年)約4万4000人に激減しました。こうして人が森に関わらなくなり、森の“不健全”化が進んでいます。それに加えて里山の過疎化による耕作放棄地の問題もあります。森や付近の田畑の管理が行き届かなくなり、動物たちの住処と人の居住地との境界がますます曖昧になっているのです。

“ナラ枯れ”急増の首都圏 倒木による事故も

先に述べた通り、かつて森は燃料となる木材を確保できるガソリンスタンドでもありました。実は、ナラ枯れも 、森の放置が関係しています。ナラ枯れとは、コナラなど広葉樹が次々と枯れることですが、近年、特に首都圏で急増していて、倒木による事故も起きています。ナラ枯れは、体長5ミリの昆虫「カシノナガキクイムシ」、通称「カシナガ」が幹に大量に入りこみ、病原菌であるナラ菌を増殖させ、水の吸い上げる機能を阻害して枯らす伝染病です。

“ナラ枯れ”拡大の背景にも森の放置が

京都府森林技術センターの小林正秀・主任研究員によると、カシナガが狙うのは、繁殖に適した弱った木。その弱った木が増えてしまったのです。ナラ枯れは日本に昔からある自然現象ですが、1980年代以降に拡大した原因は、私たちの生活の変化にあります。かつて風呂や食事に使っていた炭や薪ですが、1960年代からのエネルギー革命で、ほとんどは電気やガスに置き換わっていきました。木材がエネルギーとして使われなくなり、ナラなどの広葉樹は放置され、老木化が進んで弱体化。カシナガたちの格好のターゲットになったのです。

森の国の“守り人たち”が置かれた厳しい現状

獣害もナラ枯れも、森の放置が大きく関わっていることを理解いただけたでしょうか。これ以上の放置を防ぐためには、改めて、“森の国”日本という認識が必要です。その上で、森に関わりながら生計を立て、森を見守ってきた“守り人たち”が置かれた厳しい現状を改善する必要があります。例えば林業従事者の平均年収は、危険かつ重労働であるにも関わらず、他の業種より低く、343万円(2017年)。成り手が減ってしまった原因でもあります。それでは、私たちはどうすればいいのか。佐藤教授や小林研究員などの専門家や実践家を取材したTBSのドキュメンタリー映画「サステナ・フォレスト~森の国の守り人たち~」(3月中旬から東京・大阪・福岡・名古屋・札幌・京都で上映)は、こうした森の現状を映像で描き、対策を探っています。映画をきっかけに、“森の国”に住む私たち一人一人がじっくりと考えていけたらと願っています。

執筆者:TBSテレビ「news23」編集長 川上敬二郎

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