“静かな”「映画館」が苦手…トゥレット症患者大歓迎の「声出しOK」映画祭を名古屋で開催

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-03-13 07:00
“静かな”「映画館」が苦手…トゥレット症患者大歓迎の「声出しOK」映画祭を名古屋で開催

街中で突然、大きな声で"乱暴な言葉"を発する人を見たことがある人もいるのではないでしょうか?

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例えば「死ねよ!」とか「うるせえ!」だとか…。

私は電車の中でも窓を繰り返し叩く人を見かけたことがあります。まわりの人は席を立って離れていきました。

私も「変な人だな…。近づくのはやめておこう」

そんなことを思いながら距離を取っていました。

しかし、彼らが“病と闘っている人たちだったのかもしれない”と胸がざわついたのは去年2月。ある男性との出会いがきっかけでした。

私がその男性を取材するようになるまでの経緯。そして、男性と同じ病に悩む人たちを名古屋の映画館に招待し、上映会を開くまでの取材記です。

深夜に届いた配達員からのメッセージ

私が仕事終わりの深夜、自宅で頼んだウーバーイーツ。見たことのない長文のメッセージがスマホアプリに表示されました。

(アプリに表示されたメッセージ)
「ご注文ありがとうございます。この配達はわたくしREONが運ばせていただきます。チックという病気があり、身体の動きや声が出てしまうことがありますが、許していただけると幸いです」 

レオンを名乗る配達員から届いた突然のメッセージ。どんな人が来るのだろうか…?

“許していただけると幸いです”

「客」と「配達員」という短い時間の関わりの中で、そんなお願いを事前にする必要があるのだろうか…?色々と想像を膨らませているうちにマンションのインターホンが鳴りました。

「ピンポーン」 

インターホンのモニターに映る“レオン”さんは ヘルメットをかぶり、笑みをたたえていた。当時、私は25歳。モニターごしに(同じくらいの年齢だろうか…)と思いました。

「あ、あ、あいよ!」「あいよ!」「うるせえよ!」

“レオン”さんが近づいてくるのは、部屋にいてもすぐにわかりました。予想だにしなかった大きな声が、共用部分の通路から響いてきました。少しだけ怖さも感じました。

配達員の正体は、棈松怜音(あべまつ・れおん)さん。28歳。

自分の意思に反して大声が出たり、身体の動きが出てしまう“チック”の症状が重いトゥレット症という病と闘っていたのです。

恥ずかしながら私は配達員の怜音さんと出会うまで、トゥレット症について知りませんでした。

もしかしたら自分と同じように病気だと知らずに誤解してしまっている人が世の中には多くいるのではないか…?

怜音さんへの取材を試みることにしました。

会話の中でいきなり「うるせえよ!」

アポイントを取り、改めて会うことになったのは名古屋市内の公園。この日は、カメラは持って行かずに、ラフな形で話ができればと思っていました。しかし… 

「うるせえよ!」「死ねよ」

話をしている最中にも乱暴な言葉が飛んできます。これも「汚言」と呼ばれるトゥレット症の症状の1つだということですが、言葉を発する度に怜音さんは

「ごめんなさい…」

怜音さんが一番苦しんでいるのは声を出した時の“まわりの目”

公園で私と話をしている時も、通りかかる人たちから視線が飛んできます。やんちゃな若者2人組がたむろしてるように見られていたのかもしれません。

周囲の視線は冷たく、この時は(一刻も早くこの場を離れたい)と思っていました。取材を通して理解することができた今は、微塵もそんなことは思いませんが、当時は記者としてあるまじき姿勢だったと反省しています。

取材中「静かにして」と注意される一幕も

1年あまり続けた取材の中で、怜音さんの故郷・鹿児島を訪れたことがあります。怜音さんの友人や家族にインタビューするためです。

すっかり暗くなった地元の公園ではクリスマスのイルミネーションを大掛かりに飾り付けたイベントが行われていました。その公園内で怜音さんが同級生2人と座り込んで談笑していると、イベントの警備にあたっていた男性が近づいてきました。

(警備員)
「“声がうるさい”と苦情が入っていますので静かにしてもらえませんか?」
どうやら、怜音さんの「大きな声」が気になった人がいたようです。怜音さん自ら警備員の男性に事情を説明します。

(怜音さん)
『僕は声が出ちゃう病気なんです…わざとじゃないんです』

警備員の男性も病気だったとは全く思っていなかったようで、申し訳なさそうな表情をしていました。警備員の男性に「大きな声」を指摘した人も、トゥレット症のことを知っていたら、その場を受け流したり、違った対応ができたのかもしれません。

でも知らなかったら驚いたり、怖がってしまうのが当然。トゥレット症がまだまだ知られていない病であることを改めて実感した瞬間でした。

もし病気が治ったら行きたい場所は?怜音さんに聞いてみた

患者の中には年齢とともに症状が和らぐ人もいますが、怜音さんはそうではありませんでした。

意思に反して出てしまう大きな声。

苦手な場所がいくつもあることを教えてくれました。
飛行機や電車の中、レストラン、図書館…。

沈黙が求められる静かな空間です。我慢しようとすればするほど声が出てしまうと言います。

特に人目が気になり公共交通機関を使えない患者も多くいます。そこで怜音さんにある質問をぶつけてみました。

(記者)『Q症状が無くなった時に真っ先に行きたい場所はありますか?』

(怜音さん)
『映画館ですかね…。昔行ったことはありますが、上映後に、前の座に座る高齢男性に「誰かさんのせいで全然楽しめなかった」と言われてしまい、それ以来怖くて行けていないです。今は自宅でiPadの小さな画面で見てます』
取材した他のトゥレット症患者からも「映画館に行ってみたい」という声が多く聞かれました。

どうにかして患者たちの願いを叶えてあげられないか…

「声出しOKです」全国のトゥレット症患者を名古屋の劇場に 

CBCテレビでは5月、ある催しを計画しました。舞台は名古屋市東区の名演小劇場。1年あまり続けてきたトゥレット症患者への取材をまとめた約1時間のドキュメンタリー映像を上映することにしたのです。

当日は『自由に声を出しても大丈夫』というルールの元、全国からトゥレット症患者やその家族約60人が集まりました。

沈黙が求められる静かな空間が苦手な皆さんです。

劇場の大きなスクリーンに、臨場感のある立体音響。上映中、涙を流す患者もいました。

(トゥレット症の男性患者)   
「映画を見ている感じで…なのに症状を気にせずに見られたことが良かった。疲労感は少しあったが、それ以上に見終わったあとの感動が全然勝りました」

(トゥレット症の女性患者)
「普段長い動画が苦手で一時間見られるか不安でしたがしんどくなったり動きたくなったら出て良いのは気持ち的に楽でした」

(トゥレット症の男性患者)
「静かな空間を避けていたのですごく久しぶりの経験でした。懐かしいな…と思うと同時にこういうところにもっと行けたら楽しいのに…と思って」

トゥレット症患者大歓迎の「声出しOK!」上映は、名古屋のセンチュリーシネマで3月22日に開幕するTBSドキュメンタリー映画際でも実施します。

くしゃみと同じように…

私はこれまでに約30人のトゥレット症患者に話を聞いてきました。取材を通じて、患者の多くが、公共交通機関をはじめとする静かな空間や人ごみでの周りの目が気になって外に出られない現状も見えてきました。
トゥレット症の患者たちは口を揃えてこう話します。

「声が出たり身体が動いてしまう以外は皆さんと何もかわりません」

普段私たちは「くしゃみ」や「しゃっくり」をします。これは生理現象なので、どうしようもありませんし、周りもいちいち、反応することもないと思います。

声が出たり体が動いてしまうトゥレット症の症状もくしゃみなどの"生理現象"の1つと同じように、軽く、優しく受け流してあげられるような、そんな社会を一緒に作っていきませんか?

取材:CBCテレビ報道部 記者 柳瀬晴貴(27)
福岡県出身 報道部記者5年目 自身初の監督作品「劇場版 僕と時々もう1人の僕~トゥレット症と生きる」をTBSドキュメンタリー映画祭で上映。

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