外国人観光客が殺到している北海道ニセコ。人手不足を補うため、ニセコのアルバイトの平均時給は1742円と東京を上回っています。こうした賃金の高い観光業などに働き手が流れ、ヘルパーなどの介護業界は人手不足で危機的な状況に…じつは、これニセコだけの話ではなさそうです。
【写真を見る】“ニセコバブル”の裏で起きていた介護危機 高い賃金の業種に働き手が流れ…人手不足なのに「訪問介護」基本報酬引き下げで全国から悲鳴 ヘルパーが来なくなる日も?【news23】
カツカレー3200円 時給は東京超え “ニセコバブル”の現場
世界一と言われる上質な雪質を求め、世界中から観光客が殺到している北海道ニセコ。円安の影響もあり“ニセコバブル”とも呼べる現象が起きています。
スキー場の横にあるホテルのレストランでは、普通のカツカレーが3200円、また他の場所でも肉うどんが2500円など日本とは思えない価格です。
それでも外国人観光客からは、「自分の国(オーストラリア)より少し安くて手頃な価格」などの声がありました。
さらに高いのは食べ物の値段だけではありません。物価上昇や人手不足などからアルバイトの時給も高くなっているといいます。
HTMグループ ゼネラルマネージャー グレッグターナーさん
「コロナ前と比較すると50%くらい、清掃の給料は上げています。今は時給1900円~高い人は2000円ちょっと」
ニセコのアルバイト時給の平均は2月の時点で1742円で、1481円の東京を上回っています。
「こんな金額を出せるわけない」“ニセコバブル”の裏で人手不足の介護業界
この“バブル”の裏で苦境に立たされているのが介護業界です。
ニセコエリアにある訪問介護の事業所では、現在40~50代の4人のホームヘルパーが働いています。全国的に人手不足にあえぐ介護業界ですが、こちらの事業所でも人材確保に苦しんでいて10年間スタッフは全く変わっていません。
業務時間を柔軟にするなどし5年間、求人を出し続けてきましたが応募は一件もありません。現在、2023年末に閉鎖された訪問介護事業所の一部の利用者を引き継ぎ、4人のヘルパーで65人の介護をしている状況です。
そこに追い打ちをかけているのが今回の“ニセコバブル”です。
ホームヘルプステーション 斉藤俊子さん
「(街中の求人を見て)もう言葉がないというか。大きなところがこんな金額を出して来たら『そっちに行ってしまうよね』というので納得。うちではこんな金額を出せるわけない。私たちも一時1500円まで募集出したが、新しい応募は来ないなと」
介護業界の賃金は国が定める介護報酬を前提としているため賃上げには限界があるといいます。
ホームヘルパーを16年続けている野崎さん。1日に10人あまりの利用者をまわっています。
介護訪問を利用している工藤明文さん(71)は、元々2023年に閉鎖されたニセコの訪問介護事業所を利用していて、かつては週に3回サービスを利用できていましたが、今は週に1回になりました。
工藤明文さん
「さびしくなったね。(料理を)自分で作るのと人に作ってもらうのは違うから」
ホームヘルパーを16年続けている野崎昌意さん
「ヘルパーに多く来てほしいという利用者もいっぱいいるが、そこだけ多く入るわけにはいかないし」
斉藤さんは今後もこの状況が続くことに危機感を抱いています。
ホームヘルプステーション斉藤俊子さん
「(介護事業所は)厳しくなる一方だと思っています。このサービスをどこまで皆さんに持続して提供していけるか。緊急があった時、何かあったときの対応ができなくなる」
こうした事態に地元住民は…
倶知安町の住民(82)
「介護が受けられない…介護受けられなかったら困るね」
倶知安町の住民(77)
「この先のことを考えれば、どんどん高齢者が増えて行って、国が(予算を)出さない限り難しいのではないかと思う」
慢性的な人材難 介護ヘルパーが来なくなる日も?
小川彩佳キャスター:
命を預かる現場で、余力を持ってしかるべきなのに、ギリギリという状態がずっと続いています。
伊沢拓司さん:
そうですね。対応が難しくなっている現状はすぐ変えなければいけないにも関わらず、法制度の改正は、人材の流動に比べると遅いですね。
藤森祥平キャスター:
現在、40歳以上の国民は原則、毎月介護保険料を払っていますが、将来、保険料を払っていても介護サービスを利用することができなくなるかもしれません。
一つは慢性的な人材難です。厚生労働省によりますと、2022年の介護分野での新規就職者は54万8000人でした。一方で同じ年の離職者は61万700人となり、番組が調べたところ、2012年以降、初めて離職者の方が上回ったことが分かりました。
厚労省の推計では、2040年度までに約280万人の介護職員が必要だとしています。2019年度で比べると、プラス約69万人です。
大きな要因の一つが、介護職員の賃金の低さです。厚労省の資料によると、全産業の平均月給が36万1000円に対して、介護職員は平均29万3000円と、7万円近くも差が開いています。人が集まらないどころか、離れてしまうのは当然という流れです。
小川キャスター:
現在、賃上げムードの中、大手企業では春闘で満額回答も相次いでいます。介護職の給与は民間には追い付いていかないのでしょうか。
淑徳大学 社会福祉学者 結城康博教授:
介護事業所に入る収入と、介護職員が貰う賃金は、国が定める「介護報酬」から支払われます。今回政府は介護報酬の改定で、賃上げ率約2.5%(2025年度見込み)という財政措置をしましたが、民間企業の賃金が上がると、他産業と介護職員の賃金に差が開き、ますます介護職員の賃金の低さが問題になってしまいます。
小川キャスター:
介護からの離職がますます続いてしまいますね。
伊沢さん:
市場原理だけに任せておくのではなく、すぐにでも対応しないといけないのではないでしょうか。
「最大の失策」 人手不足も訪問介護報酬引き下げ
藤森キャスター:
結城教授は国の政策が「最大の失策」と指摘しています。それは訪問介護事業者の基本報酬の減額です。
介護の全サービスの平均利益率が2.4%に対し、訪問介護事業は利益率が7.8%となっているため、国は十分黒字だということで減額としました。ところが厚労省が新たに調査をしたところ、訪問介護事業所のうち36.7%が赤字経営ということが判明しました。なぜこのようなことになるのでしょうか。
結城教授:
大きな訪問介護事業所は組織化されているので、収益が良いのですが、地域密着の小規模事業所は大変な状況です。国はそこをきちんと分けて、介護報酬を決めないといけなかった。雑だったというのが原因だと思います。
ただ厚生労働省の言い分としては、介護報酬は、介護事業所に入る収入と、介護職員が貰う賃金は分けている、賃金の部分は上げているので事業所全体で頑張ってくださいということなんです。
しかし、小さい事業所の場合、赤字だと研修費用が出せない、人事管理もできない、リクルート活動もできない。そうすると、いくら賃金を上げても、事業所の体力がないと赤字経営で閉所してしまう事態が起きてしまうと思います。
藤森キャスター:
北海道・倶知安町の介護事業所「ホームヘルプステーション」の斉藤俊子さんは「基本報酬の引き下げでさらに求人が難しくなる」と話しています。
全国ホームヘルパー協議会、日本ヘルパー協会は「このままでは訪問介護サービスが受けられない地域が広がりかねない」として、2月1日に国に抗議文を出しました。
小川キャスター:
以前、地方の介護事業所を取材したのですが、資金繰りが難しく、自宅を担保に入れて借金をするなど、非常に厳しい現状となっていました。
こうした事業所が倒産すると、介護保険料を支払っている国民が、将来サービスを受けられないことになってしまうのではないでしょうか。
結城教授:
この問題は全国に波及しています。方針の見直しは原則3年に一度ですが、臨時に見直すこともできるので、考えていただきたいですね。
伊沢さん:
負担したのに受益することができない人がいるのは、そもそも制度上の問題です。台湾のTSMCの工場が熊本にできましたが、そこでもまたニセコのように賃金格差が出て、同じようなことが起こり得るかもしれません。
日本の経済が停滞している中、外国の資本を入れていこうという流れが止まってしまう可能性もあるわけですから、こういった問題をしっかりと対処しなければいけません。1回失われたサービスというのは、なかなか復活しませんので、本当に急ぐ必要があると思います。
介護職員不足 解決策は?「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『介護業界の人手不足』などについて「みんなの声」を募集しました。
Q.介護職員不足の解決策 何が必要?
「賃上げ」…79.0%
「外国人職員の増加」…6.1%
「高齢職員の増加」…4.5%
「ロボットの活用」…7.0%
「その他・わからない」…3.5%
※3月14日午後11時26分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは15日午前8時で終了しました