「2024年問題」。物流面での人手不足のイメージがありますが、実は医療の分野でも差し迫った問題となっています。残業時間が実質「青天井」となっていた医師たちにも、4月から上限が課されることになりました。この影響で、入院患者の受け入れを休止した病院も出ています。
【写真を見る】「2024年問題」入院患者の受け入れ休止も…労働時間とみなされない「宿直」も増加 難しい「働き方改革」と「医療体制の維持」【news23】
「医師の働き方改革」で入院できない患者も
数年前まで関西地方の総合病院で働いていた30代の男性医師。 休みは週1日しかなく、長時間労働が常態化し、体は悲鳴を上げていました。
数年前まで総合病院勤務 男性医師
「命の危険を感じることはゼロではなかった。扁桃炎だったりとか、心臓が痛くなったりとか。その働き方自体に当時は疑問に思わなかったですけど、イライラしていますよね、常に」
過酷な労働環境を改善するため、4月から始まる「医師の働き方改革」。医師の残業時間が原則として年間960時間までに規制されます。
ただ、こうした規制により病院が入院患者を受け入れられなくなる恐れも…
宮城県の石巻市立牡鹿病院。
入院病床25床を持つ地域にとって欠かせない医療機関ですが、届いた通知には…
「来月以降、応援の医師を派遣できません」
実は、この病院に常勤する医師は1人だけ。県内6つ病院から医師の派遣を受け、24時間の診療態勢を維持してきました。しかし、勤務医の残業に規制がかかる4月を前に「応援医師の派遣打ち切り」が伝えられたのです。
このままでは医師がいない時間帯が生じるため、4月から入院患者の受け入れを休止する見込みとなりました。
利用者
「入院をしなければならない時、ここ以外の病院は石巻(駅前)に行かなきゃないでしょ。だからね、ちょっと不安ですね」
別の利用者
「先生が少ないから仕方がないんじゃないかなぁ、って思いますけど。先生も先生で大変だと思いますよ」
医療体制の維持と働き方改革の両立は簡単ではありません。
「宿直」は労働時間に含まれず ある医師の一日
さいたま市の総合病院で消化器内科の医師として働く市原さん。朝9時前に出勤すると早速、外来患者の診察に入ります。
研修医の指導をしながら患者の処置をしていると、救急からの呼び出しがありました。
市原医師
「もしもし、じゃあこっちで診ます」
外来や救急の患者の対応、内視鏡による検査など休みなく働き続けた市原さん。午後5時半、ようやく勤務終了の時間を迎えましたが…
そのまま宿直勤務に入り、翌朝まで働きます。宿直中は救急の患者や入院患者の急変に対応しながら、空いた時間で食事や仮眠をとります。
市原医師
「当直明けで普通に勤務がある日はその日一日働いて帰ります」
一見、長時間の残業に見える働き方ですが、この「宿直」は実は原則労働時間としてみなされません。病院が「宿日直許可」を取っているためです。
「宿日直許可」は業務の内容が軽度で睡眠も十分に取れる場合、病院が労働基準監督署に許可を取れば、宿直や日直を「労働時間とみなさない」仕組みです。
4月から勤務医の残業時間が規制されるのを前に「宿日直許可」を取る病院が増えているのです。
彩の国東大宮メディカルセンター 藤岡丞院長
「もちろん宿日直と言っても、病院にいて患者に対応する時間は(労働時間に)カウントされていくんですけれども、(残業時間を)960時間に収めるための、やや方策みたいなところもあります」
ただ、医師からはこんな本音も…
市原医師
「勤務時間も制限しなければ、我々医者の健康も守れないというのはご理解はしていただきたいなと」
「医療体制の維持」と「働き方改革」ギリギリの綱引きが続いています。
「医師の働き方」と「医療体制」どう両立?
小川彩佳キャスター:
働き方改革を進めれば、その結果として救急医療や地域医療などに影響が出てきてしまうかもしれない。ただどちらも犠牲にするわけにはいかない。本当に難しい問題ですが、宮田さんは「医学部の教授」という立場で、周りの医師や学生からどんな声が上がっていますか?
慶應大学医学部 宮田裕章 教授:
やはり同僚の医療現場に立つプロフェッショナルたちは、本当に意識が高くて、患者のためであれば、労働もとにかく身を粉にして行うんですが、ただ彼らの健康を守らなければいけないですよね。
私自身も外科と研究をしたことがありますが、「勤務状態が良い病院」というのは、患者のリスクなどいろいろな調整をしても治療成績が良かったです。つまり、良い労働環境というのは、医師だけではなく、患者にとっても必要である、と。
ただ、日本は病院が非常に多く、資源が分散していることにより、労働条件が逼迫してしまう。これは早く解決していかなくてはいけない、ということですね。
喜入友浩キャスター:
医師の働き方改革に伴い、地域医療にも影響がおよびそうです。富山県にある高岡市民病院では、4月から医師不足により「産婦人科の分娩の休止」を余儀なくされました。
厚労省が全国の7326医療機関を対象にした調査でも、457の施設が「働き方改革の実施に伴い、診療体制が縮小する見込み」と回答しています。
では、どうすればいいのか。
全国の勤務医の実態調査を行う、自治医科大学の小池創一教授は「これまでと同じやり方で勤務時間だけを短縮しようとしても、ひずみが生じる。業務の一部を医師以外に任せる『タスクシフト』やオンライン診療など、『ICT化』などで業務の効率化を図る必要がある」と指摘しています。
「医師の働き方」と「医療体制」両方を担保させる広島県のケースは
小川キャスター:
現場の働く環境と医療の体制、どちらも守っていくためには何が必要になってくるのでしょうか。
宮田教授:
一つケースとして、広島県の取り組みを紹介したいと思います。広島では都市圏の四病院を統合、さらに一部病院の高度医療を集約した新たな病院を、アクセスの良い場所に設置する、という構想があります。
これは、今まで病院同士で重複したことを診療としてやる、そうすると当直がそれぞれやらなくていはいけない、いろいろな労働がどうしてもかさんでしまいますが、これを連携することにより、マンパワーを集約して余力を持たせる、ということなんです。
小川キャスター:
ただそうすると、自宅の近くにある病院がなくなってしまう、ということですよね。
宮田教授:
これは同じ医療圏なので、あまり病院へのアクセスが問題にならないというケースではあります。しかし、それでもやはり不安というのは聞かれます。
そのときに小池教授の話にもあった、ICTで普段からサポートしながら、必要なときに病院に来てもらう、というような形で、今までよりもいい質の治療を地域で連携をしながら、「病院間の競争」というより、「地域を良くするためにどう協力できるか」。こういった視点の中で、医療の提供体制というのを整えていくことで、質とアクセス・勤務条件の両方を担保できるのではないか、と思います。
喜入キャスター:
こうした体制の整備の一方で、医療を受ける側の私たちに何ができるか。小池教授に伺いました。
▼緊急を要しない軽い症状で休日夜間などに緊急外来を受診する「コンビニ受診」を控える
▼救急車を呼ぶべきかどうか迷ったときは、相談窓口#7119を活用する(一部地域のみ)
▼かかりつけ医をもつ
こういったことが大事だと話されています。
小川キャスター:
利用者としても「意識の改革」というのが必要になってくるということなんでしょうかね。それぞれの立場で知恵を絞っていかなければいけません。
医師の「働き方改革」で一番必要なこと 「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『医師の「2024年問題」』などについて「みんなの声」を募集しました。
Q.医師の「働き方改革」一番必要なのは?
「病院の集約化」…24.2%
「業務の一部を看護師に」…22.1%
「デジタル化」…24.0%
「医学部の定員を増やす」…21.0%
「その他・わからない」…8.7%
※3月28日午後11時40分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません