![素敵なデザインの製品作る「B型事業所」って何? 「儲けはなくても…」色々な人の居場所になっている現状](/assets/out/images/jnn/1085206.jpg)
ある日、東京駅の近くでやっていたイベントをのぞいてみたら、おしゃれなヘアゴムが目に入ってきた。デザインしているのは著名なデザイナーではなく、「B型事業所」というところの人らしい。聞いたことはあるがどんな場所なのか。利用している人や支える家族に話を聞いて取材した。
【写真を見る】 B型事業所に課題 工賃だけでは生活できない 東京都の月額平均は1万6320円
就労継続支援「B型事業所」ってどんな場所?
筆者が気になったハンドメイドのヘアゴムを作っていたのは、東京・荒川区にある就労継続支援B型事業所「studio753」。
B型事業所とは、障害のある人が仕事をしながら知識や能力を向上していく場所で、利用者と事業所の間には雇用契約がない。報酬は「給料」ではなく「工賃」として受け取る。一方、雇用契約を結ぶA型事業所は、最低賃金が「給料」として保障されている。
studio753は主に精神疾患を抱える人が通う事業所で、心理系の資格を持つ職員も支援をしている。その定員は20代〜60代の20人。仕事として、弁当やアクセサリーなどを作る。
調子が悪い日は失敗も そこから生まれた“ミータソース”
studio753のキッチンで作る弁当は1日10個ほど。コミュニケーションが苦手な人もいるが、自分でスーパーで買い物をし、弁当の販売で接客も担当する。
キッチン担当の職員・宇田川愛里さんは「本当に自立しなきゃいけないとき、絶対に役に立つんですよ。買い物や接客も就労支援につながるんです」と話す。
気圧の変化などで調子が悪い日は、粉の分量や買う材料を間違ってしまうこともあるというが、そんな失敗から生まれたメニューもある。
ある利用者が豚ひき肉と間違えて買った合びき肉で“ミートソース”を作ってみたら好評で、そのレシピを考案した40代の男性利用者の名前をもじって“ミータソース”という名前のメニューが誕生したという。
少し緊張しながら話す考案者の男性が見せてくれたノートには、料理のメモがびっしり書かれていた。
男性はstudio753に2年半ほど通っているが、将来については「ここにずっと通いたいけど、そのうち就職といいますか働くところを見つけなきゃいけないんで…」と言葉少なに話してくれた。
居場所としてのB型事業所 「儲けはなくても…」
studio753では日々、利用者自身がデザインも行っているので、個性的な色遣いでクオリティが高い製品が多い。
しかし、一点モノの作品となってしまい、大量生産はできない。
例えば、青森の伝統工芸「こぎん刺し」のヘアゴムは3人がかりで1日5個程度しか作れず、1個1000円で売っても、材料費を考えると儲けはほぼ出ない。
利用者に「もっと値段を高くしたら?」と職員が勧めても、売れない時の心配をしてしまい「儲けがなくても、買った人に使ってほしい」と言う人もいる。
それでも仕事で得たスキルを活かし、大手コスメティック会社やデザイン会社、農園、食堂に障害者雇用などで就職した利用者も何人かいるという。
studio753の所長で精神保健福祉士の梅津正史さんは「ここは能力が高い人が結構いるので、その人たちの意見も取り入れて作業を進めます」と説明する。
B型事業所の役割について、梅津さんは「仕事をこなすスキルはあるけれど普通の就労は難しい人も来るので、そういう人の居場所としての役割も大きい。本人が一番やりやすいことを考えて支援するのはB型の仕事だと思います」と話す。
工賃だけでは生活できない 東京都の月額平均は1万6320円
B型事業所には「工賃が安い」という課題がある。東京都の場合、工賃の月額平均は1万6320円(2022年度)で、全国平均の1万7031円(同)に届いていない。
工賃だけでは生活できないので、ほかに障害年金や生活保護などを受給している人は多い。
都内のB型事業所を利用する人に聞いたところ、色々なパターンがあるようだ。
全員共通で一番かかるというのが食費。カップ麺で済ませる人も多く、外食や旅行をしない人もいるという。
ある利用者の場合、毎月の収入は▼障害年金と▼工賃のみで約7〜8万円。「自立支援医療」による医療費の助成、障害者手帳の所持による携帯電話料金や交通費などの割引、さらに、公営住宅に入居することなどで、なんとか生活できているという。
別の利用者の場合は▼生活保護と▼工賃で毎月の収入は約16万円。家でテレビを見て過ごすことが多く、たまに洋服店やファミレスに行くのが楽しみだそうだ。
また別の利用者は、病気になってB型事業所に通えるようになるまで数年かかったという。その後、就職が決まらずに10年、20年と過ぎるうちに、定年のないB型事業所にずっと通いたいと考えるようになったという。
「この子を残して先に死ねない」 支える家族の思いは…
一方で、家族の思いは少し違う。
墨田区精神障害者家族会の会長を50年ほど務めている三浦八重子さん(83)によると、「いつかは自立してほしい」と願う家族は多いそうだ。
子どもが病気になった当初は親もわけが分からずショックで希望を失うこともあるが、そのうち「何でもしてあげたい」と考えるようになり、それが30年も経てば「この子を残して先に死ねない」との思いが強くなるという。
できれば工賃も上がってほしいし、一般就労をして結婚や子育てもしてほしい──。家族は「病気になる前に何かできなかったか」と後悔して、責任を感じて、自立できるように何かしら残してあげたいと奔走することもある。
三浦さんは1980年からB型事業所にも携わっている。
面倒を見てくれる家族が亡くなった後、孤立しないためにも事業所のような場所とつながりを持つことは大切だと話す。一人暮らしを迫られる50〜60代の利用者も増えているそうだ。
工賃については「studio753のような売れる自主製品を作れる事業所はいいが、孫請けの軽作業だと単価が1円以下のものもあるし、知的や身体も含め重度の障害者が多い事業所もあるので、こうした事業所が売り上げで工賃を上げるのは難しい」と指摘する。
三浦さんは「精神障害についてもっと理解してほしい。B型事業所にもまずは関心を持ってほしい」と願う。
B型事業所で作られた菓子など、気がつかないうちに手に取っているものもあるはず。まずは関心を持って、作り手たちの思いを受け取りたい。