カワイイけど不気味!?頭だけのミイラとナスカの地上絵【世界遺産/ナスカとパルパの地上絵(ペルー)】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-04-21 10:00
カワイイけど不気味!?頭だけのミイラとナスカの地上絵【世界遺産/ナスカとパルパの地上絵(ペルー)】

世界遺産の中でも人気のあるナスカの地上絵。正式には「ナスカとパルパの地上絵」といって、ペルーのナスカ台地とパルパ地域の大地に描かれた数々の絵です。近年では、日本の山形大学の研究チームが新たな地上絵をたくさん発見して、ニュースにもなっています。番組「世界遺産」では滅多に許可が出ないドローンを使って、有名な地上絵や新発見の地上絵をいろいろと撮影しました。

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“不思議な愛嬌”人の姿のような地上絵

おなじみの「ハチドリの地上絵」もドローンを使って撮影すると、人との大きさの対比がしやすく、全長約95メートルという巨大さがよく分かりました。ナスカの地上絵というと、こうした鳥やサル、クモなどの生物がモチーフのものがよく知られていますが、実は人の姿のようなものもあります。

たとえばパルパ地域で見つかった地上絵。頭飾りをつけた神官たちとも、聖なる世界の存在を描いたものとも言われています。丸い目に丸い口…不思議な愛嬌があります。

山形大学が発見した地上絵の中にも、おかっぱ頭みたいなカワイイ感じの人らしき絵もありました。しかし、中には不気味なものもあるのです。

直立して、笑みを浮かべた人物のように見える地上絵。上には、人の頭らしきものが三つ。足元にも二つ描かれています。実は「首切りの儀式」を描いたものではないかと言われています。

雨乞いのため「首切りの儀式」か 遺跡からは人の頭部のミイラ発見

ナスカには、地上絵だけではなく、同じ頃に築かれた神殿などの古代遺跡もあります。

その遺跡から人の頭部のミイラがいくつも見つかっていて、神に捧げる首切りの儀式が行われていたと考えられているのです。山形大学が新たに発見した地上絵の中にも、人の首を持つ人物の姿を描いたものがありました。

一見カワイイけれど実は不気味な地上絵…首切りの儀式は、雨乞いのために行われたと考えられています。ナスカは極端に雨が少なく、そのために雨乞いが行われました。その儀式の様子を大地にも描いたと思われます。

ちなみに、約2000年も前に描かれた地上絵が今も残っているのは、雨が少ないことに加え、水が流れたり、自然の影響で壊されたりしない場所に描かれたためとされています。

このように素朴な絵が、実は深い意味をもっている…そんな例は他の世界遺産にもあります。

先住民族の聖地に「自動車を目にした衝撃」を描いた絵

カナダの世界遺産「ライティング・オン・ストーン」。アルバータ州の渓谷沿いに広がっている州立公園ですが、断崖の上にキノコのような奇岩が林立する不思議な場所です。

ここは先住民族ブラックフットの聖地で、彼らはキノコ状の石の柱は、ひとつひとつに魂が宿る「聖なる存在」だと考えています。そして今も、この「聖なる存在」と対話するために、ここを訪れるといいます。

さらにブラックフットは断崖に、2000年以上も前から絵を刻んで残してきました。まさに「ライティング・オン・ストーン」です。

描かれているのは、弓矢を使った狩りの様子など。番組でもこうした壁画を撮影したのですが、その中に不思議なものがありました。

車輪がある箱形の乗り物…自動車です。それも1908年に登場したT型フォード。実は20世紀初めまで壁画は描かれ続けてきて、ブラックフットは「自動車を目にした衝撃」を絵という形で遺したのです。

狩りやヨーロッパ人との戦い…2000年にわたる歴史を記録

壁画の中には、19世紀にカナダに入植してきたヨーロッパ人との戦いの様子を描いたものもありました。ライティング・オン・ストーンの壁画は、2000年にわたるブラックフットの歴史の記録でもあったのです。

ちなみに世界遺産に登録されるための大前提は、「不動産であること」です。ナスカの地上絵は大地に描かれている「不動産」、ブラックフットの壁画も断崖に描かれている「不動産」として世界遺産になりました。どんなに傑作でも、キャンバスなどに描かれた持ち運びのできる絵画は「動産」なので世界遺産にはならないのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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