猫は群れを作らずに縄張りを守りながら暮らすため、犬のような社会性がないと誤解されていますが、他者の侵入を決して許さないエリアや他者と上手に棲み分けながら共有するエリアの双方を縄張り内に持ち、猫なりの社会性の下で、極力平和を保てるように暮らしています。そんな猫の縄張りに関する基礎知識をご紹介します。
飼い主として知っておきたい猫の「縄張り」に関する基礎知識
猫は単独で縄張りを持ち、その中にいることで安心して暮らすことができる動物だということが知られています。猫の縄張りの中には、決して他者の侵入を許さないエリアや上手に他者と共有できるエリアがあり、猫社会のルールやマナーに則って平和的に暮らしています。
それは、野良猫でも飼い猫でも、基本的には同じです。つまり完全室内飼いの猫は、家という縄張りの中で飼い主さんや一緒に暮らす他の猫たちと上手に共存しながらも、それぞれの縄張りを守って暮らしているのです。
今回は、飼い主さんが愛猫と一緒に快適に暮らすために知っておきたい、猫の縄張りに関する基礎知識をご紹介します。
1.自分の縄張りを他者に知らせるための方法
人は塀や表札などの目に見えるものを使って自分の敷地を主張します。猫は、目に見えるもので縄張りを主張することはありません。変わりにニオイで縄張りを主張します。
ニオイをつける主な方法は、尻尾を高く掲げて後方の上側に勢いよく噴霧する、スプレーと呼ばれるおしっこが有名です。スプレーは主にオスが行いますが、スプレー以外にも、爪とぎや体のこすりつけといった方法で、猫たちは縄張りのパトロール中に自分のニオイを縄張り内の境界や要所に残します。これを、マーキングと言います。
マーキングに関してはいくつかのルールが知られています。例えば、ニオイは新しいものほど他者への侵入を強く警告するサインとなっていて、1日以上経過したものよりも新鮮な方を先に嗅ぐのだそうです。
また、新しいスプレーの上に自分のスプレーを重ねることはせず、2日以上経過したものの上にだけ重ねてスプレーをするといった行動も観察されています。
2.縄張りの範囲の決め方
基本的に、オスはメスの約3.5倍の広さの縄張りを持っていると言われています。広さに違いが出るのは、縄張りの決め方がオスとメスで異なるからです。
基本的に、縄張りは食料や繁殖相手を獲得するためのエリアです。特にメスは餌の量で縄張りを決め、オスは繁殖相手の数で縄張りを決めることが知られています。
猫は一夫一婦制ではないため、オスはより多くのメスと繁殖する機会を得るために、複数のメスの縄張りを取り囲むように自分の縄張りを作るため、メスよりも広くなるのです。
また、野良猫と比べると、自由に外に出られる飼い猫たちの縄張りは、総じて狭いことも分かっています。これは、家に帰れば飼い主さんが用意している餌を食べられるからだと考えられています。
3.縄張りの中にも異なるエリアがある
一口に縄張りと言っても、その中には猫たちが日常的に生活するための「ホームエリア」と、餌や繁殖相手を得るための「ハンティングエリア」に分けることができます。
ホームエリアは猫が普段生活するためのエリアなので、ごく狭く、また他者の侵入を強く拒むエリアです。
ハンティングエリアは餌や繁殖相手を確保する広いエリアなので、他者と上手に棲み分けて共有しながら縄張りとして守るエリアになります。
4.多頭飼育における縄張り
完全室内飼育で、複数の猫を飼育されているというご家庭もあるでしょう。その場合も、よく観察してみると、猫たちが共に仲良く過ごしている場所と、それぞれの子のお気に入りの場所があることに気付くと思います。
この部屋は太郎くん、あの部屋は花子さんといったように、きれいにスパッと棲み分けているわけではありませんが、北側は太郎くんが、南側は花子さんがいることが多く、真ん中の居間では太郎君も花子さんもくっついてお互いにグルーミングしている姿が見られるといったような感じです。
我が家は3匹の猫と一緒に暮らしていましたが、居間はみんなでくつろぐ部屋、長男猫は北側の部分、次男猫は南側の部分、末娘猫は寝室という具合に、それぞれがよくいるエリアがありました。夜は皆で同じ布団に寝ていましたが、それぞれ私の右側、左側、股の間と、寝る位置も決まっていました。
5.猫にもあるパーソナルスペース
初対面の方に、顔を近付けられたり肩などに触られたりして、不快に感じたり警戒したりした経験をお持ちではないでしょうか。人には「それ以上近付かれると不快に感じる」というパーソナルスペースがあり、その領域に踏み込まれたため、不快になったのです。
猫も、人のパーソナルスペースと同じような距離感を持っています。
見知らぬ猫や人がいると愉快ではないが我慢できる「社会的距離」、無用なケンカを避けるために逃げ出してしまう「逃走距離」、やむを得ず攻撃に転じてしまう「臨界距離」、ごく親しい間柄の猫や人にしか接近を許さない「個人的距離」などが知られています。
家に迎えたばかりの猫は、簡単に撫でさせてくれません。しかし、少しずつ時間をかけて信頼を勝ち得ることで、徐々に猫との距離を縮めることができ、最終的には個人的距離への侵入も許されて、撫でさせてもらえるようになるというわけです。
愛猫と「縄張り」を共有するための秘訣
完全室内飼いの場合、猫の縄張りは家の中です。早期に去勢・避妊手術をしている場合、スプレーをすることはあまりないと思いますが、爪とぎや体をこすりつけるといった行動で、部屋の要所要所に自分のニオイでマーキングを行い、縄張りを主張します。
特に他の猫や飼い主さんと共有するエリアの境界には、頻繁にマーキングを行います。我が家も、猫たちが共有している椅子の脚や、居間とそれぞれの猫のエリアの境目となる柱やふすま、壁などは、爪をとがれてぼろぼろでした。
頻繁に爪とぎを行う場所は、個々の縄張りに関連していることが多いので、爪をとぐ場所を変えさせるのではなく、よく爪をといでいる場所に猫用の爪とぎ機を設置することが、家具への被害を抑える解決策になるでしょう。
また高い場所に、縄張りの広い範囲を見渡せる見張り台を作ってあげることも、上手に縄張りを共有することに役立ちます。縄張りの境界近くに棚などがない場合は、キャットタワーを設置するなどで、見張り台を作ってあげるとよいでしょう。
まとめ
飼い主さんが問題だと感じる猫の行動の殆どは、「狩り」と「縄張り」に関する猫の習性に由来しています。今回は、その中の「縄張り」に関する基礎知識をご紹介しました。
猫の習性を理解することで、お互いに気持ちよく暮らせる方法を見つけられることでしょう。
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