「アナログの豊かさを未来へ」音の研究開発を進める歌手・野口五郎さん【Style2030】

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2024-05-05 11:00
「アナログの豊かさを未来へ」音の研究開発を進める歌手・野口五郎さん【Style2030】

SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は歌手の野口五郎氏。実は複数の特許を持つ発明家でもある。コロナ禍前からいち早くQRコードを使ったライブ動画配信システムを開発。今、大学教授らとともに研究開発を進めているのが脳の活性化や認知症治療の有効性も期待されているという「音」だ。研究の内容はイギリスの科学誌にも掲載された。その正体とは? 2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。

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体が喜ぶ音とは?「会話のないところに豊かさはない」 

――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題して、話していただくテーマをSDGs17の項目の中から選んでいただいています。野口さん、まずは何番でしょうか?

野口五郎氏:
ちょっと俯瞰で、相対的に全部かなっていう。 

――全部は初めてですね。SDGs17項目の実現に向けた野口さんの提言をお願いします。

野口五郎氏:
「未来へ引き継ぐべきは豊かさ」ということでお願いします。

――ということは、野口さんからご覧になって、今の社会は豊かではないと。

野口五郎氏:
これから先どんどんそうなっていくんでしょうねっていうふうには思います。アナログの世界で生きていたときには、いいものって時間はかかるけど評判って大事だよなとか、いろんなことを自分の中で考えたりしたんですけど、そういうものを全て飛び越えて、デジタルの世界になってくると、便利にかなうものはないなって思ってくるんですね。便利になっていけばいくほど、何かすごく大切なものを置き去りにしていくような気がするんです。

――便利になることを否定するのは難しいと思いますが、それをあえておっしゃっている。

野口五郎氏:
そうですね。食べることに関してもすごく慎重だったはずなんですよね。ところが、だんだんそういうことを置き去りにして、もっと便利を選択するようになってしまったんですよね。クリックすれば来る。例えば、中華丼を一つ頼むにしても、お店に入る前にウィンドウを見て、サンプリングで大体こうなんだろうなと思いながら、それを目安にして頼んだりしたんですけど、全く見ないで食べますでしょう。

――店主とコミュニケーションすることもありません。便利さを手にした代わりに、本来私達がやっていたことを省略しているということですよね。

野口五郎氏:
会話はないですよね。そこに「豊か」があるかなっていう。便利に拍車が今かかっています。それを止めることもできないし、今それをやめて昔に帰ろうよっていうわけにはいかないんですよ、みんながもうそっちを見ているわけですから。ただ、僕らはとりあえず「豊か」を感じているし、目で見ているし、知っているし、それを疑似でもいいから残しておかなきゃいけないんじゃないかと。全く豊かさも知らない世代になっていってしまったときに、僕らが取り返しのつかないことをしてしまっているんじゃないかなと思っちゃうんですよね。

――戻れない代わりに何を付け加えていくかということですね。

野口五郎氏:
たとえそれが別のものであったとしても、疑似であったとしても、僕はどうやってその豊かさを残していけるかなっていうのを今ずっと考えているっていうか、自分が歌ってきているからこそ、余計にそれを考えるんです。

――いつごろから豊かさが失われていると感じるようになったんですか。

野口五郎氏:

一番わかりやすいところで言いますと、ずっと僕はレコードだったんですね。レコードってすごいのは溝の中に本当に音が入っているので、再現性という意味では本当に再現性だと思うんです。CDになったときには、一度コンバーターを使って信号に変換するんです。もう1回コンバーターを使って元に戻して音を再現するんですけど、これを本当に再現っていう言葉を使えるのかな。角ばっちゃっているんですよ、「0」と「1」ですから。99.9%ニアだけど、別物なのかなって思えるんですね。

アナログのレコードは音の振動が刻み込まれた溝に針が触れることで音が出る。波形は滑らかな曲線。一方、デジタルのCDは音を0と1の情報に置き換えて表現するので、波形はカクカク。野口氏はレコードは再現、CDは限りなく近いけど別物だという。この違いは音にどんな変化をもたらしたのだろうか。

野口五郎氏:
最初にCDを聞いたときには耳が喜んだんです。すごくクリアできれいだな。今までレコードで聞こえない音が聞こえた。でも、本当は聞こえない音が聞こえちゃいけなかったんですよね。クリアに聞こえるから耳は喜んだんですけど、実は体は喜んでいなかった。

――体が喜ばないってどういうことですか。

野口五郎氏:
CDは容量が重いので、13Hz以下の低い音は消しているんです。人間の可聴域は20Hzから20kHzなんですけど、20Hz以下は非可聴で聞こえないから13Hz以下は消しちゃってもいいだろうと。土台がなくなっちゃったわけです。非可聴であったとしても、一番低い音がないっていうことです。

――人間が聞こえないだけで、音はあるわけですね。

野口五郎氏:
クリアっていうことは、その辺はいらないだろうって勝手にデジタルの方で判断して消しちゃっているんですね。デジタルの音って人間が誕生して今初めて聞く音なんです。倍音であったり、アンビエンス、響きであったりとか、そういったものを消してしまっていると思ったら、それはストレスが溜まると思いませんか?演奏者が思いを乗せるじゃないですか。この思いというのは、アンビエンスとか倍音に乗せるんだと僕は思っているんです。

聞こえない音を「浴びている」。エンジンは浅草と父の後ろ姿

野口五郎氏はCDや配信など、音楽をデジタル化することによってなくなった低音にこそ、人間にとっての豊かさがあるという。なぜ低い音に注目するのだろうか。

野口五郎氏:
僕は15歳でデビューして、世の中はスターの時代だったんです。僕のあとからアイドル世代が始まって、スター世代の末っ子だったのが、今度はアイドルの長男なんです。その世代に巻き込まれていったときに、キャーって言われるんですよ。届け!って歌っているときにあごが上がるんです。それが年齢とともにだんだん下がっていくんです。「思い」というのが「重い」とだんだんイコールになって、下の方に下の方に行くんです。そうすると、そういうところに何かあるのかなって、だんだん気持ちが下へ行くようになったんです。

例えば、野外でライブがあるとします。ハードロックがバーっと鳴っています。そこにもし重低音がなかったとしたら、若者が狂喜乱舞している姿って想像できますか。昼間、同じような音量でリハーサルするんです。そのバンドのマネージャーがたまたまお腹いっぱいで、太陽が気持ちいいし、鳥のさえずりなんか聞こえて、その爆音を聞いていると寝ちゃうんです。振動で。低い音っていうのは自分に都合の良い方向に自分の思いを変換してくれませんか。聞こえない世界とか、見えない世界とか、臭わない世界とか、そういう不思議な世界に興味を持ちます。そこにすごいパワーがあるんじゃないかとか。

野口氏が研究開発中の深層振動は、人の耳には聞こえない低音をデジタル技術に置き換え、失われた豊かな音を補おうというもの。しかし、実際には聞こえない。どう感じ取ればいいのだろうか。

野口五郎氏:
イチゴがモーツアルトを聞いて甘くなるって不思議じゃないですか。

――不思議です。

野口五郎氏:

ですよね。イチゴって耳はないですよね。だとしたら、音を浴びているって思えば、何となくなるほどなって。

――聞いているというのはその一部のことで、聞こえていないものも含めて音は全体でシャワーのように当たってきている。

野口五郎氏:

細胞レベルでそれを浴びていると思えば、人間も聞いているのと浴びているのと二つあったとしたら、もしかして体にいいんじゃないのって。

――そうなると聞こえない音を削っちゃまずいんじゃないのってなりますね。

野口五郎氏:

音楽そのものに触れさせることが人間の体に良かったとしたら、ただ音がよくなるだけではなくて、こういう音楽を次世代に繋げることができたとしたら、それがたとえ疑似であったとしても、害は何もない。日常にそれを取り入れればいいだけのことですから。

――では、ゲストの方にとっての原動力、活動の源になっていることについて伺うコーナー「わたしのサステナ・エンジン」です。野口さんのエンジンを紹介してください。

僕の原動力となっている場所、浅草です。13歳で歌手を目指して上京して、最初に住んだのが浅草だったんです。気持ちの整理とか、そんな度に僕は浅草へ行かせていただいていて、台東区の観光大使もやらせていただいているんです。浅草寺の御本尊の正面から右の方に浅草神社があって、その右に被官稲荷神社があります。年々ここで手を合わせる時間が長くなってくるんです。

――上京されたときから行っているんですか。

野口五郎氏:

はい、13歳の5月の大型連休のときに両親と一緒に3人で浅草に行ったんです。で、ここに迷い込んだんです。3人で。絵かきさんがいて、記念に絵を書いてもらったんです。

これなんですけど。1969年5月5日。入れ物も割れちゃっていますけど、全部そのままです。

浅草へ行った1週間ぐらい後ですかね、先生のところにご挨拶行って。もうじきレコーディングだから歌ってみようかって言われて、レッスンしたところが、声が出なかったんですよ。変声期になっちゃったんです。クビだと思っちゃって、勘違いして。だから、僕は13歳で軽い人生の挫折を知った、ですかね。この絵を見ると当時の夢との錯綜といいますか、思い出します。

――13歳の野口少年がもう少しやってみようと思ったのは?

野口五郎氏:
父親の後ろ姿です。月に1回、仕送りと言いながら、母親に会いに来ていたんだと思うんですけど、お金を持って東京に来てくれるんですね。母親は従業員の人たちの食事を作ったり、洗い物をしていたりなんかしていて、そういうのを見ていて耐えられなくて。自分は声が出ないし。親父が来てくれて帰るときに、もう俺ダメだよって言おうと思って、あとを追っかけて行ったんですよ。一度も振り返ることなく、稲荷町駅を降りて行くんですよね。振り返ってくれたら言えたんだけど、振り返ってくれないから我慢するしかないかなっていう。10年ぐらい前に親父の走り書きが仏壇から出てきたんですけど、それを見たら、親父は気づいていました。「夢を叶えさせるために振り返ることができなかった」って書いてあって。あそこで振り返られていたら、夢の続きはなかったなって思いますね。

――見つけたときはどんな気持ちでしたか。

野口五郎氏:

尊敬しましたね。そのときは僕も子どもがもういたので、僕にはできないと思いました。

(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2024年4月28日放送より)

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