女子やり投に北口榛花ら世界陸上ブダペストのメダリスト3選手が全員出場 パリ五輪前哨戦に【ゴールデングランプリ展望】

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2024-05-18 22:36
女子やり投に北口榛花ら世界陸上ブダペストのメダリスト3選手が全員出場 パリ五輪前哨戦に【ゴールデングランプリ展望】

ゴールデングランプリ(以下GGP)に世界大会メダリストたちが来日する。
GGPはワールドアスレティックスコンチネンタルツアーの中でも、14大会のみに与えられた「ゴールド」ランクの競技会。今年は東京五輪会場だった国立競技場で5月19日に開催される。中でも注目は女子やり投で、金メダルの北口榛花(26、JAL)を筆頭に、昨年の世界陸上ブダペスト大会のメダリスト3人全員が出場し、パリ五輪前哨戦の様相を呈している。

ウルタドのブダペスト1投目は歴史的な価値

金メダルの北口、銀メダルのフロル・デニス・ルイス・ウルタド(33、コロンビア)、銅メダルのマッケンジー・リトル(27、豪州)。昨年8月の世界陸上ブダペスト大会のメダリスト3人が国立競技場に集結する。3人のブダペストの成績(試技内容)をまずは紹介したい。(記録は左から 3回目終了時、5回目終了時、6回目終了時)

◆リトル
5位(61m41=3回目)、5位(61m66=5回目)、3位(63m38=6回目)

◆北口榛花
2位(63m00=3回目)、3位(63m00=3回目)、1位(66m73=6回目)

◆ウルタド
1位(65m47=1回目)、1位(65m47=1回目)、2位(65m47=1回目)

驚かされたのはウルタドの1投目である。
ウルタドのブダペスト大会前の自己記録は63m84。南米記録だが、7年前の16年に出したものだった。その記録を含め63m台を4試合で投げていたが、その全てが中南米の国での競技会だった。世界大会やダイヤモンドリーグで62m以上を投げたのは、9位だった16年リオ五輪の予選(62m32)しかなかった。

そのウルタドがいきなり65mスローを見せたのだ。ウルタド自身「言葉がありません」と競技後にコメントしている。

「私は夢見て、夢見て、夢見て、そしてようやく夢が現実になったんです」

そのくらいウルタドにとって、南米の選手にとって歴史的な1投だった。
その1投に、ウルタド自身が感激してしまった可能性がある。他にも要因はあったのかもしれないが、ウルタドはその後5回の試技では62m台しか投げることができず、北口に6投目で逆転を許してしまった。

3人全員に意味があったブダペストのメダル

北口の6投目も、日本の女子投てき種目にとって新たな歴史を開いた1投だった。そのときの様子は多くの記事が出ているので省略するが、北口の感動もまた大きかった。

リトルにとっても、特別な意味のある銅メダルだった。豪州は女子やり投の強豪国で、自己記録65m70のリトルより記録の良い選手が歴代で4人もいる。現役では世界陸上で19年、22年と2連勝したケスリー・リー・バーバー(32、豪州。自己記録67m70)にビッグゲームでは負け続けていた。
リトルにとっても、バーバーの不調(7位)があったとはいえ、世界陸上という大舞台でバーバーを破っての初メダル獲得は大きなことだった。

それぞれに意味があったが勝負に関していえば、特にウルタドは金メダルの千載一遇のチャンスを逃したことになる。ブダペストの激戦の後、選手たちはその点を語り合ったりしなかったのだろうか。北口に9カ月前のことを思い出してもらった。

「(負けた悔しさを口にするようなことはなく)みんなおめでとう、という雰囲気になっていました。3人それぞれが国として初めてのことだったり、個人で初めてのことを成し遂げたりして、1人1人に大きな意味があるメダルでしたから。マッケンジー(・リトル)は『メダル交換しない?』って言ってきましたけど(笑)」

ブダペストは翌シーズンに向けて、リベンジをしたいと思った戦いではなかった。お互いの健闘を称え、来季またお互いに頑張ろうと思える戦いだった。

ダイヤモンドリーグ蘇州は北口が勝利も、5月に入ってウルタドが今季世界最高

今季に入って3人は早くも直接対決した。4月27日のダイヤモンドリーグ蘇州(中国)大会で1~3位を占めたのだ。優勝は24年最初の対決も北口で、6回目に62m97を投げ、2回目の62m12でリードしていたリトルを逆転した。2位がリトル、3位が4回目に60m70を投げたウルタドだった。リトルはブダペストでは6回目にその試合の最高記録を投げたが、蘇州ではファウルに終わった。

「マッケンジーには『今度からあなたには、最後まで気をつけるわ』って言われました(笑)」

北口の6回目が終わるまで喜ばないようにする、という意味だろうか。
それにしても「メダル交換しない?」に続いてのジョークである。リトルとはダイヤモンドリーグではよく同室になり、何でも話せる間柄になっている。冗談に本気も混ぜて話してくるようになったのだろう。

蘇州では60m70に終わったウルタドだが、5月12日には66m70とブダペストで出した自身の南米記録を1m以上更新した。大会前日の会見でウルタドは、記録更新の理由を「数カ月前にケガをしていたのでフィジカル面の練習にも力を入れましたが、テクニック面を重点的に練習してきたことが大きかった」と話した。

北口とウルタドの対決は蘇州で4回目だが、北口が全勝している。GGPでの対決も北口優位と思われたが、66m70を投げたことでウルタドが今シーズンの実績で1つ飛び抜けた。ただ66m70を投げた場所もブラジル開催のイベロアメリカ選手権で、世界トップレベルの選手が集まっていたわけではない。昨年のブダペストで殻を破った可能性もあるが、世界大会やダイヤモンドリーグで再現できるとは限らない。

対戦成績では北口とリトルも、北口が9勝3敗と圧倒的に勝ち越している。だがリトルが勝った試合の1つが東京五輪(北口12位、リトル8位。国立競技場)で、昨年のGGP(横浜開催)でもリトルが優勝(64m10)したのに対し、北口は4位(61m34)に終わっている。

「マッケンジーにGGPの開催場所が、オリンピックと同じ国立競技場だよと言ったら、すごく喜んでいましたね。好きなんだと思います、国立競技場が」

メダリスト3人それぞれに、誰が勝ってもおかしくない実績がある。勝負の行方は本当に6回目の試技が終わるまでわからない。ブダペストの戦いを受けての戦いになるが、前述のようにリベンジマッチではなく、パリ五輪など今後の3人の関係性を占う意味の大きな大会になる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左からウルタド選手、北口選手、リトル選手

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