国連トップの“右腕”中満泉事務次長に聞く“人道危機”ガザ・ウクライナ国連の役割は?【news23】

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2024-05-15 17:18

国連トップの“右腕”中満泉事務次長が「news23」に生出演。終わりが見えないガザやウクライナの紛争。今、問われる国連の役割とは。

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“人道危機” イスラエル・ガザ地区では国連スタッフも190人以上が死亡

藤森祥平キャスター:
中満さんは早稲田大学を卒業されたあとに、アメリカの大学院を経て国連(UNHCR)に入職されました。湾岸戦争やボスニア紛争では、最前線に立って人道支援にあたられています。そして2017年からは、国連の軍縮部門のトップであり、“グテーレス事務総長の右腕”の立場で活躍されています。

小川彩佳キャスター:
ここから中満さんにはさまざまなことをお伺いしていきますが、「国連は機能不全に陥っているのでは」などという批判の声も上がっています。さまざまな視点から、できる限りお答えいただければと思いますが、まずはガザをめぐる情勢からです。

藤森キャスター:
イスラエル側で約1200人、ガザ地区では3万5000人以上が亡くなっています。そして、がれきの下にはまだ1万人を超える遺体が眠っているという、ガザ保健当局の情報もあります。

そして、中満さんのお仲間でもある国連のスタッフ190人以上も、人道支援にあたりながら命を落としてしまいました。この人道危機の悪化する状況を、どのように受け止めていらっしゃいますか。

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
正直なところ、お話しする言葉も見つからないような感情を持っています。

これほど短い間にこれだけの人々が犠牲になったという状況は、これまでありませんでした。国連スタッフも含めてですが、市民の犠牲があまりにも多すぎます。

しかも、3万5000人以上のうちの7~8割ぐらいが女性と子どもということで、私は国連の分野が人道支援も含めて長いですが、このような形で行われる紛争は、これまで経験したことがないです。言葉が見つからないぐらいの衝撃です。

news23ジャーナリスト 須賀川拓 記者:
それだけの方が亡くなっていることももちろんそうですが、そういった紛争についても話し合わなくてはいけません。国連の舞台が、パフォーマンスの舞台にもなりかけてしまっているという現状もあると思います。

5月10日、パレスチナの国連の加盟を支持する決議を採択した際に、イスラエルの大使が国連憲章をシュレッダーにかけるという、非常に過激なパフォーマンスをしました。

それ以外にも、イスラエルの現状を批判した国連のグテーレス事務総長に対して、イスラエルの国連大使が辞任を要求しました。こういった形で自国の正義をパフォーマンスに移す現状について、どのようにお考えでしょうか。

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
長い国連の歴史のなかでは、さまざまなパフォーマンスは何回もありましたので、今回このことについて、特にコメントを申し上げることはありません。

シュレッダーにかけられたのは国連憲章がプリントされているものですので、それがシュレッダーにかけられたからといって、国連憲章そのものがなくなったということはまったくなくて、むしろ逆です。

大多数のほぼすべての国連加盟国が「国連憲章というのはやはり国際法の一つの大きな基盤として、非常に秩序のために必要なんだ、重要なんだ」ということをむしろ痛感したような、そういった瞬間ではないかと私は個人的に思っています。

news23ジャーナリスト 須賀川拓 記者:
一方で、国連が加担したのではないかという疑惑もあります。イスラエルは、パレスチナの難民の支援機関(UNRWA)の、かなりの数の職員がテロ組織のメンバーだと主張しました。

それに対しては実際、証拠というのは一切出されていないわけですが、当日の攻撃に加担したとされる人がいる。今はまだ調査中だということで、非常にセンシティブな話ではありますが、とても大切な議題だと感じています。その点についてはどのようにお考えですか。

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
事務総長がすぐに反応して、独立した形できちっとした調査をすると。

それは国連機関として当然のことながら不偏不党、そして中立の形できちっとした活動をしていく。それをある意味保障していく、これからも守っていくということに関しても、非常に重要です。

ただ、今おっしゃったように、証拠は出ていないということです。今のガザの状況を見ると、いかに人道援助が今こそ必要とされているかということが本当にわかる映像が、いろんなところから出てきているということですので、日本がUNRWAへの拠出を再開してくださったことも、非常に私たちとしては心強く思ったこともありました。

“核使用”ちらつかせるロシア 軍縮をめぐっては足踏み状態?

藤森キャスター:
ガザ情勢と同時にもう一つ、私たちが考えなければいけないのはウクライナ情勢です。

ロシアが軍事侵攻を開始してもう2年以上が経つなかで、ロシアのプーチン大統領は、核兵器の使用についてもちらつかせています。軍縮部門トップの中満さんにぜひ伺いたいのですが、こういったロシアの姿勢はどうなのでしょう?

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
ロシアも含めてですが、核兵器の威嚇というような形で、核の使用の規範を傷つけかねないような発言は、やはり許されることではないと強く思っています。

いろんな国がそのことをいろんなところで、たとえばG20の枠組みのなかでも、核の威嚇は許されないというようなことを、きちっと書き込む形で反応を示しています。

核の不使用の原則というのを、きちっとこれからも維持していかなければいけない。広島と長崎を最後の地にしなければいけないと、ある意味確認をすることが、非常に重要なのだろうと思っています。

小川キャスター:
こうした発言も出てしまうなかで、核軍縮をめぐっては足踏み状態になってしまっているのではないですか?

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
そうですね。足踏み以上に、もっというと、もしかすると軍拡の方向に進みつつあるといっても過言ではないと思います。

今の状況は非常に私も憂慮しており、これをなんとか反転させて、まずはそのリスクを軽減していくこと、不使用を必ず守っていくこと。

そこから今の状況を反転させて、対話に戻って、いかに核軍縮を進めていけるのかということ。これはみんなの安全保障に関わる問題なので重要なポイントだと、何回も何回も、私たちの方からはメッセージを発信しています。

小川キャスター:
こうした争いを解決に向かわせることで期待されているのが国連のさまざまな機能なわけですが、街の皆さんは国連にどんな印象、どんな期待を持っているのでしょうか。

30代
「国連って何をやっているんだろう」

60代
「国連ですか?なんか中途半端だなと。もうちょっと介入してもいいんじゃないか。あれだけの犠牲が(戦場で)毎日毎日出ているので」

20代会社員
「国によって考え方・文化が違うので、全部の国が完全に一つにまとまるのは難しいだろうなと」

70代
「国連の機能はいま停止してしまっている。拒否権の乱用でみると、みんなそれぞれの思惑で乱用しちゃっている」

50代会社員
「アメリカと中国が対立関係にあるので、北朝鮮の問題を国連の場で解決するのは難しい。議論できる場がなければ、対立構造にしか陥らなくなってしまう。そういう意味では国連は無駄ではない」

街の人が抱く国連へのギモン…安保理は“機能不全”なのか?

小川キャスター:
さまざまな声があるなかで、国連が何をやっているか具体的なイメージが湧かないという声や、期待の声も聞かれました。率直にどのように聞かれましたか?

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
私たちは、「国連」といったときにいろいろな顔や側面があるということを、まず申し上げています。

確かに、非常に機能していないところは国連の安保理なのですが、安保理もすべてのテーマについてまったく機能停止に陥っているかというと、実はそうではありません。

いろいろな紛争を国連安保理は扱っていますが、いまだにきちっと合意がなされて、決議案が通過するような、さまざまなテーマもあるわけです。

他方、ウクライナやイスラエル、ガザの問題と、常任理事国同士のなかで一致していない部分に関しては、拒否権の乱用があって、その結果、合意が形成されない。その意味では、安保理というのが非常に難しい状況にあることは事実です。

ただ、たとえば1950~60年代のように、1年のうちに決議が1本しか通らなかったような時代もありました。それに比べると、今も機能している部分もあると思います。ですので、まったく機能しないということではありません。

藤森キャスター:
合意が形成されないから、ニュースになってみんなに知れ渡るということになっていますね。

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
そして私たち国連、たとえば人道支援機関や、事務局の政治的なさまざまな舞台裏での交渉のお手伝いといったことで国連もしっかり頑張って、いろいろ活動している部分もたくさんあります。

人道支援に関しても、14日もセキュリティのスタッフが1人亡くなりましたが、いまだにガザに入って、何とか支援を届けたいと毎日努力をしているスタッフが本当にたくさんいます。

ある意味本当に国連がライフラインになっていますので、なくてはならない。国連が仮になかったとするとどういう状況になるのだろうかということを、やはり覚えておかなければいけないということもあります。

小川キャスター:
そうしたなかで先ほどの安保理の話につながってくるのですが、街の声のなかには「北朝鮮の核ミサイル開発の問題を国連の場で解決するのは難しいのではないか」というものもありました。この声はどのように聞かれて、どう答えますか?

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
どのテーマについても、国連だけで何をやって、これだけをやれば解決するという単純な状況では、もはやありません。

国連はいわゆる話し合いの場の一つであって、何か舞台裏で、しかもたくさんのさまざまなところで、いろいろな積極的な働きかけをして、その結果、直接関与があって、対話があって、少し熟してきたところで国連に持ってきてというような、さまざまな努力を組み合わせてやっていくというのが、北朝鮮もそうですが、現在のさまざまな外交上の課題のあり方だと思います。

ですので、国連だけがやればいいということではなくて、関係諸国、そして国連総会の多くの加盟国の力も借りながら努力をしなければいけない問題なのだろうと思います。

小川キャスター:
北朝鮮をめぐっては先日も、制裁の履行を監視する安保理の専門家パネルが活動停止となってしまいました。これもロシアの拒否権によるものですよね。どのようにお感じになっていますか?

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
これも非常に残念でした。このあと、どのような形で引き継いでいくのか。

安保理のなかではできなくなってしまいましたが、北朝鮮の問題を国連のなかで引き続きモニターして、そして解決につながるような努力を続けていけるのかということを今、加盟国、関係諸国が探しているような状況にあります。

常任理事国による“拒否権の乱用” どう改善する?

藤森キャスター:
押さえておくと、経済制裁や武力行使の許可など、法的拘束力のある決定を唯一できる世界的な機関が国連安保理です。

5つの常任理事国であるアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスには拒否権が与えられていて、1か国でも拒否をすれば否決されてしまうという取り組みです。

news23ジャーナリスト 宮本晴代 記者:
私も国連を取材させていただいて、やはり日本の皆さんが非常にフラストレーションを溜めていらっしゃるのが、この安保理の拒否権という部分だと思います。

最近でいえばウクライナ、これはロシアが当事者になってしまって、拒否権を使う。

ガザでいえば、イスラエルの後ろ盾であるアメリカが拒否権を使うということで、なんとかこの機能不全といわれている状況を打開したいと、皆さん思っていらっしゃると思います。

どのようにしたらこの安保理の機能を改善することができるか、中満さんのお考えをお聞きしたいです。

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
やはり常任理事国に関していうと、拒否権を乱用しないように、自制的な行動をとってもらうしかないですよね。そういったことを何回も私たちのほうから働きかけているのですが、なかなかそうなっていかないと。

ウクライナのロシアの幾度にもわたる拒否権の行使をきっかけに、総会が、拒否権が発動された場合には、その国が国連総会のほうに来て、なぜそういった行動をしたのか説明責任を負わせるような決議を通して、本当に小さいステップなのですが、なるべくP5(常任理事国)に拒否権を行使させないようなピアプレッシャーといいますか、実は国連総会のなかでも、そういったものを作っていこうという、いろいろな議論がなされています。

少しずつではありますが、国連の安保理そのもののあり方を改革していかなければいけないという機運は高まってきていると思います。

news23ジャーナリスト 宮本晴代 記者:
どうしても私たちが見たときに、国連安保理が何もしていないと思いがちですが、国連のなかで安保理は本当にごく一部で、他に加盟国がたくさんいて、みんな見ているわけですよね。

同じようにストレスを溜めていて、なんとかしなきゃというのは、世界各国、実は同じように思っているんですよね。

“非”常任理事国の日本に期待される役割とは

小川キャスター:
中満さんが、常任理事国ではない日本に期待する役割としては、どういったものがありますか?

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
日本は今、安保理の非常任理事国として非常に活躍してくださって、3月は議長国だったのですが、核軍縮の問題というのは、実は安保理のなかで議論するのは非常にセンシティブな問題です。

それを日本は取り組んでくださって、上川大臣が議長として議論をしていただいたということで、日本にとってできることはいっぱいあると思います。橋渡しといいますか、アメリカとも非常に近い同盟関係にありますし、いろいろなところで影響力を行使してほしいと思っています。

ウクライナもそうですが、特にガザの問題。日本の投票のパターンを見ていますと、私たちにとっては心強いパターンをしていますので、そういったことを、これからも引き続きアメリカに対しても、そして他の国々に対しても働きかけ、橋渡しとして影響力を行使してほしいと思っています。

小川キャスター:
そして日本に住む私たちとしては、どういったたたずまいで向き合っていけばいいのかというところにもつながっていきますが、中満さんから日本に住む若い人たちにメッセージがおありだということで、どんなことを伝えたいですか。

国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さん:
今、本当に国際環境が悪くて、私なんかも危機感を持って毎日仕事をしていますが、それではやはりだめだと思います。

若い人たちに、自分たちの世界は自分たちの力で変えられる、自分たちはそういう力を持っているのだと、まず信じてほしい。そして、希望を持ってほしい。将来、未来に対する夢と希望を、若い人たちこそ思い描いてほしいと思います。

AIもそうですが、本当に技術の進展はものすごいスピードです。それを上手く活用して、よりよい未来にできるようなポイントとなるのは、人間を中心に据えること。

そういったことを考えながら、自分たちに世の中を変えるパワーがあるのだということをしっかり信じて、自分事として、さまざまなところで活動して声を上げていってほしいと思っています。

小川キャスター:
力強い言葉をいただきました。どうもありがとうございました。

国連について「みんなの声」は

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Q.国連は国際紛争解決に機能している?
「機能している」…0.5%
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※5月14日午後11時24分時点
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<プロフィール>
中満泉さん
国連事務次長・軍縮担当上級代表
“グテーレス事務総長の右腕”

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