「私の心にある香港は死んだ」200万人デモから5年…日本から「香港を自由に」訴えも当局の“監視の目”強化 香港を「脱出」動きも加速【news23】

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2024-06-12 14:16

2019年、香港でデモ隊と警察官が激しく衝突したデモ。民主化を求めたデモは香港の市民200万人が参加したとも言われています。あれから5年、現地を訪ねてみると、声をあげても立ち止まる人の姿はありません。香港は、どう変わったのでしょうか?

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200万人が参加した香港・大規模デモから5年…何が変わったのか

6月9日、東京・新宿で抗議の声をあげる人たちがいました。日本に住む香港の人など約100人です。

「香港を取り戻せ」と書かれた旗をかかげ、参加者の多くが身元が特定されないように、サングラスやマスクを着用しています。

主催者の1人(香港出身)
「日本では活動はできるんですけど、その代償として『香港に戻らない』、あるいは『戻ったら逮捕される可能性がある』ということを負わざるを得ない。すごく不自由な状態になっている」

2019年6月、香港で拘束した容疑者を中国に引き渡すことが可能になる条例の改正案をめぐって、デモ隊と警察官が衝突。

民主化を求めた抗議デモは、一時、香港の人口の4人に1人にあたる最大で200万人が参加したとされています。

しかし、2020年、反政府的な動きを取り締まる「国家安全維持法」が施行されました。

民主派政治団体の演説 周囲で警察官が撮影し“監視”

大規模デモから5年、香港は今はどうなっているのでしょうか。デモの拠点となっていた場所の一つを訪ねました。

マイクを握り演説をしている男性の姿がありました。民主派政治団体の副主席、周さんです。

民主派政治団体の副主席 周嘉発さん
「いまは選挙活動もできません」

周さんの周りにはカメラで撮影している人もいます。実は撮影しているのは警察官…周さんは監視されているのです。

周嘉発さん
「(Q.5年前の香港と何か変わりましたか?)デモや集会などはコロナが終わった後もできません。悲しい現実です」

香港にはかつて民主化を求める政治団体が数多くありましたが、次々にリーダーたちが逮捕され、解散に追い込まれていきました。

周嘉発さん
「(監視は)政府の私たちに対する強い警告です。家族や友達も心配しています」

香港の今を市民に聞くと「話せません」足早に去る人も…

現在の状況に、市民はどう思っているのでしょうか。

香港市民
「(デモ後の)変化は大きいです。昔に比べて話せることが少なくなり、言論の自由が狭まりました」

香港市民
 「(Q.5年前にここであったデモを知っていますか?)すみません、話せません」

多くを語らなくなった香港の市民たち…。

当局の監視はネットでも強まっています。

日本に留学していた23歳の学生がSNSで「香港独立」を主張する投稿をしたとして、2023年に香港に戻った際、逮捕されました。

日本での言動に「国家安全維持法」が適用された初めてのケースとみられ、不安が広がりました。

「私の心にある香港は死んだ」“監視社会”香港からの脱出が増加

こうした中、ある動きが急増しているといいます。

香港移民サポート会社 羅立光 社長
「移民申請数はデモの前と比べて20倍に増えました」

香港からの脱出です。抗議デモが厳しさを増した5年前から、移民の依頼が増えているといいます。

羅立光 社長
「香港の政治状況が不安定なことを心配し、海外に移民したいと思うようになったのです」

実際、台湾に移民をした男性に話を聞くと「香港は『監視社会』になってしまった」と嘆きます。

香港から台湾に移民した人
「市民がお互いを通報するようになり、人と人が信頼しないようになりました」

とはいえ、生まれ育った故郷を離れることに迷いはなかったのでしょうか。

香港から台湾に移民した人
「移民せずに香港に残ったとしても同じです。なぜなら、私の心にある香港はすでに死んだからです」

かつて、民主化を求める声が響き渡っていた香港の街。5年が経った今、香港は重苦しい沈黙に覆われています。

“自由”が奪われた社会で… 5年前に香港を取材した小川彩佳キャスターは

小川彩佳キャスター:
一連のデモから5年が経った香港の現状をどう感じますか。

ジャーナリスト 澤 康臣さん:
あっという間…坂道を転がり落ちるようですね。いかに自由や民主主義が、もろいものであるかということをはっきりと感じざるを得ません。

権利や自由を守り続けようとしなければ、あっという間にやられてしまうということを感じます。

小川彩佳キャスター:
私も香港で一連のデモの後に行われた区議会選挙を取材しました。普通選挙で、市民の皆さんが自分の意思を示す貴重な機会として、力を入れていました。選挙の日は一連のデモと打って変わって、静寂に包まれていて日常が営まれていた印象です。

暴動などが起きて当局が鎮圧に動くと、選挙が延期になったり、無くなったりする可能性があるので、選挙の日は静かに過ごそうとしていました。

自らの意志を1票に託すことができる選挙の機会を「何としても守りたい」という思いや、民主主義への強い思いを、デモの熱狂とは逆説的に感じるような瞬間でもありました。

当時取材した民主活動家の周庭さんに、「命を失うかもしれない恐怖の中でなぜ戦うのか」を問うと、「戦わなければ香港が終わってしまうから」と何度も繰り返していました。

大変な覚悟を持って戦っていた市民の希望を完全に打ち砕くような、今の香港の様子を見ると、悔しい思いでいっぱいになります。「自由」は当たり前ではないということを強く感じさせられます。

ジャーナリスト 澤さん:
我々に何ができるかということも、今また考えていく必要があると思います。

『香港大規模デモから5年』について「みんなの声」は

NEWS DIGアプリでは『香港大規模デモから5年』について「みんなの声」を募集しました。

Q.デモから5年 香港の魅力は?
「変わらず魅力ある」…5.8%
「観光地の魅力はある」…13.5%
「経済都市の魅力はある」…4.9%
「魅力が失われた」…65.1%
「その他・わからない」…10.7%

※6月11日午後11時20分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは12日午前8時で終了しました。

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<プロフィール>
ジャーナリスト・澤康臣さん
早稲田大学教授 元共同通信記者
パナマ文書報道など数多くの調査報道を行う

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