海鳥を野ネコから守る
東京から南へ1000キロメートルの太平洋上にある東京都『小笠原諸島』。
母島の南崎には、昔からオオミズナギドリやカツオドリなどの貴重な海鳥の繁殖地があります。
2005年春、ここで海鳥の死骸が多数見つかり、繁殖地も荒らされました。
そこでセンサーカメラを設置したところ、カツオドリをくわえた茶トラの猫が映っていたのです。野生化した猫が希少種の野鳥を襲うことが問題となったのです。
その年の6月から地元NPOによる野ネコの捕獲が始まりました。同年6月16日にこの茶トラの3歳のオス猫が捕獲されたのが捕獲第1号で、この成功から本格的に捕獲が始まりました。そして2009年には、消滅寸前まで追い込まれたこの繁殖地が、毎年、ヒナが巣立つところまで回復しました。
亜熱帯に属する小笠原諸島、父島、母島には、もともと猫はいませんでした。年間を通して暖かく夏と冬との気温差が少なく、過ごしやすい気候なので、猫にとっても暮らしやすい環境だったのです。
捕獲した野ネコはどうする?
海鳥の命を救うための野ネコ捕獲でしたが、野ネコも助けなければならない。そこで始まったのが「野ネコ引っ越し作戦」でした。これは捕獲した野ネコを、島外に搬出し、里親を見つけて飼ってもらうというもの。
捕獲された野ネコは、一度も人と接する機会はなく、飛びかかるほど野生化しており、とても人に馴れるものではありませんでした。直ぐにシャーシャーしてイカ耳をする猫たち、そんな野ネコを家庭で馴らすことはできるのか。うまくいく確証はありませんでした
ところが、そこはイエネコ。野ネコと言えども、その壁は数日のうちになくなるのでした。見た目も性格も劇的に変化、懐き、人の温もりに応えるかとようになり、たちまち家族の一員となっていくのでした。猫も幸せになると、表情にあらわれます。
これはイエネコとしての尊厳を取り戻すプロジェクトでもあったのです。
イエネコするための方法とは?
野ネコがイエネコになる、その壁をなくすにはコツがありました。焦らず、少しづつ距離を縮めて迎え入れることでした。そこには3つの大きな変化が見られます。
<野ネコがイエネコへとなる3つの変化>
- 1.ストレスフリーで、リラックスした姿勢。
- 2.甘えがみられ、すりすり寄ってくる。
- 3.社交的となってセルフ遊びする。
これらが見られれば、もう野生に還ることはなく、イエネコとしての尊厳を取り戻し、家族の一員になったと言えます。
野ネコにしてもいつまでもそこにいたいとは思っていないでしょう。
野ネコが幸せになっていく
最初は食事も排泄も警戒していても、やがて人を信頼し、人に守られていることを知って安堵します。
やがてへそ天したりゴロゴロと甘える姿からジャングルで生き延びていたとは思えないほどに変化していきます。態度や表情もおだやかになります。
まとめ
活動を始めて19年、2024年4月までに、父島、母島両島合わせて1197匹の野ネコが捕獲されました。
そして船の運航に合わせて、すべて動物病院を介して新しい家族にもらわれていきました。
こうした人道的な活動は、外来種対策として世界からも注目されています。
なにより、イエネコは、飼い主とコミュニケーションをとりたがっており、それができることがイエネコの幸せなのだと教えてもらったのでした。そして長生きすれば猫も幸せです。
この活動はまだ継続されています。
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