この一年で最も輝いたプロモーション・マーケティング企画を表彰する「JPMアワード発表&表彰式」が11月27日に東京都内で開催されました。会場で発表された3つの賞のうち、JPMプロモーショナル・マーケティングアワードのグランプリには、「あのちゃん」ことアーティストのanoを起用し、それまで抱かれてきた自社への先入観を覆してZ世代の採用活動に革命を起こしたマクドナルドの「スマイルあげない」がグランプリを受賞。また、専門団体が選ぶプロモーション業界における2024年トレンドワードも発表され、内容の密度が濃いイベントになりました。
全国のストアを沸かせたプロモーション・マーケティング企画を表彰
ものの買い方の選択肢が増えた今、あなたは何を求めてリアル店舗に足を運びますか。ショップスタッフとのコミュニケーション、心惹かれるアイテムとの偶然の出逢いなど、そこにはさまざまな理由がある中で、店舗を歩く楽しさというのも、きっとそのひとつではないでしょうか。
本表彰式が行われた「日本プロモーショナル・マーケティングショー」は、優れた店頭POPディスプレイや斬新なアイデアが光る販促企画を展示する日本最高峰のプロモーショナル総合展です。第53回となる今年は11月27日から29日までの3日間にかけて、東京・竹芝の東京都立産業貿易センター浜松町館の会場に数多くの作品が集まりました。
各賞の発表に先立って挨拶に立った一般社団法人日本プロモーショナル・マーケティング協会の沼野芳樹理事長は、前身から数えて今年で55年目を迎えた同協会の歩みについて述べつつ、消費者の生活様式や業界全体の事業環境の変化に合わせて一昨年に協会の運営理念を見直すなど、新たな時代に向けた取り組みについてもコメント。その上で「生活者の購買行動をより豊かなものにするために当協会がその牽引役でありたい」と思いを述べました。
次に同協会の三浦憲一郎副理事長が本表彰式で表彰が行われる3つの賞「JPMインストアマーケティングショー&アワード」「JPMプロモーショナル・マーケティングアワード」「JPMヤングクリエイティブ・アワード」の概要について説明があり、続いて各章の発表と表彰が行われました。ここからは各賞の受賞企画と講評、受賞者の喜びのコメントを紹介していきます。
400件以上の応募作が激戦「JPMインストアマーケティングショー&アワード」
「JPMインストアマーケティングショー&アワード」は、日本唯一かつ世界最大規模のPOP広告のコンテストです。今年は33のジャンルに計409件の応募があり、下記の2件が表彰されました。
【経済産業大臣賞】
作品名:IPSA MEレコメンダー
広告主:株式会社イプサ
出品会社:TOPPAN株式会社
【審査員特別賞】
作品名:リンドールWOW什器
広告主:三菱食品株式会社
出品会社:レンゴー株式会社
《講評》審査委員長・山形季央氏(多摩美術大学 名誉教授)
デジタル化が進む中、ストアだからこその人と人のコミュニケーションの重要性は増していると思います。その上で人口減少と省力化というのも大きな課題です。そうした中、経済産業大臣賞のイプサさんはAIとの対話に使われるプロンプトのような形式で、そこにはやわらかさと上品な仕上がりがあり、時代性とデザイン性の両方から見て授賞に相応しいと審査員の中で一致しました。一方で、審査員特別賞のリンドールさんは素材を木から紙に変えて、組み立てが軽便で省力化もされています。それでいてお菓子らしいチープさと楽しさを伝えている点を評価しました。400点を越える応募作品の中には、インサイトに響く訴求内容の視覚化に優れたものが多く、ますますコミュニケーションが大事になる世の中で、ストアの重要性は増していると感じました。
グランプリは「スマイル0円」の先入観を変えた名アイデア「JPMプロモーショナル・マーケティングアワード」
「JPMプロモーショナル・マーケティングアワード」は、生活者を購買活動に向けて実際に動かした、日本最高レベルのプロモーション企画のコンテストです。今年は6部門に73企画のエントリーがあり、14企画が入賞。その中で次の企画に最高賞のグランプリが贈られ、また、過去3年間の本アワードで最も活躍が目覚ましかったプランナー1名に「JPM THE Planner 2024」の賞が贈られました。
【プロモーショナル・マーケティンググランプリ】
プロモーション名:『スマイルあげない』
広告主:日本マクドナルド株式会社
出品会社:株式会社TBWA HAKUHODO
《受賞者コメント》
表層が激化する採用市場において、マクドナルドが多様な価値観を受け入れて働くことができる職場であるということを伝えるために今回の企画が作られました。「スマイルあげない」というキャッチーな企画で、「スマイル0円」というものを掲げている。マクドナルドとしてこういったことを打ち出していくのはかなり勇気が必要だったのですが、この企画の真意である「マクドナルドのスマイル0円というのは、お客様に画一的な笑顔を見せていきましょうということではなく、あなたらしい笑顔で、あなたらしくお客様に接してください」というメッセージが、これをご覧になった特に若い方に伝わった結果、昨年比11.5% という過去最高のクルーの応募人数を達成することができました。これからも、お客様、そしてクルーの皆様の心に寄り添ったマーケティング活動をしていければと思っております。(日本マクドナルド株式会社・西脇大樹氏)
【JPM THE Planner 2024THE Planner】
受賞者:関谷“アネーロ”拓巳
所属:株式会社TBWA HAKUHODO ECO地球中心デザイン研究所
役職:Activation Director/Hype Designer
過去の受賞企画/日本マクドナルド株式会社「青いマックの日」、株式会社集英社「よまにゃチャンネル」
《受賞者コメント》
この賞は過去に錚々たる方が受賞されていて、40代以上のすごい尊敬する方たちが受賞されていたので、僕にはまだまだ縁遠い賞だと思っていたのですが、2年前に市川晴華さんが受賞されていた時に僕と同い年の人も受賞することを知り、僕ももっと頑張らなければと思うようになりました。そこから市川さんにも「もっとやりなさい」という風に言ってもらいまして、ここを目指して作った仕事を応募してきました。受賞するのはまだまだ先だと思っていましたが、まだまだ身に余ると感じるところもありつつ正直嬉しいです。個人としていただいたのですが、私一人の力ではなく、チームに恵まれたと感じております。この受賞を励みに、これからも精進して皆様の期待に応えられるよう頑張っていきたいと思っております。
《講評》審査委員長・守口剛氏(早稲田大学 商学学術院教授)
全国の店舗を支えるマッククルーの人材確保が急務な状況下、従来のマクドナルドでは企業を象徴する「スマイル0円」がZ世代からは笑顔の強制と捉えられてきました。その中でグランプリの「スマイルあげない」は、その従来のブランド資産を新たな資産にアップデートし、同世代の価値観を巧みに訴求した点を評価しました。また、昨今カスハラ問題が非常にクローズアップされる中、店舗スタッフと顧客との関係のアップデートにも成功した取り組みが審査員一同から高く評価されました。一方で、THE Plannerの関谷さんはJPM 協会のプロモーションアワードで受賞の実績も多く、昨年度の本賞では日本マクドナルドさんの「青いマックの日」で大賞を受賞されています。ソーシャルを起点に全てを企画し、話題化と売上増にコミットしている点が審査員から高い評価を得ました。プロモーションやアクティベーションの次世代の若きプランナーとして業界で大いに期待されているところです。
若い感性がほとばしる「JPMヤングクリエイティブ・アワード」
「JPMヤングクリエイティブ・アワード」は、25歳以下の社会人と学生を対象に、時代を担う世代の自由な発想と新鮮なアイデアを競うデザインコンテストです。本賞は立体物のデザインを対象とした「ディスプレイ部門」と平面グラフィックデザインを対象とした「売り場デザイン部門」の2部門が設定され、この日は下記の5団体が表彰されました。
【金賞】
〈ディスプレイ部門〉
作品名:選ぶ楽しさ! 見つかる喜び!
課題:象印マホービン/ステンレスマグボトル
出品学校:千葉県立東金テクノスクール
〈売り場デザイン部門〉
作品名:Secret Floriography
課題:フリー課題/花屋(花の種)
出品学校:同志社女子大学
【協賛社賞】
作品名:ふれて、みて、たのしい! 洗ってラク! 水筒えらびを家族で楽しもう!
課題:象印マホービン/ステンレスマグボトル
出品学校:東京都立中央・城北職業能力開発センター メディア・プロモーション化
【協賛社賞】
作品名:灯光安堵
課題:パナソニック/電池がどれでもライト
出品学校:東京都立中央・城北職業能力開発センター板橋校 サイン・ディスプレイ科
【協賛社賞】
作品名:ZEPPIN BAZAAR
課題:江崎グリコ/ZEPPIN〈甘口〉〈中辛〉〈辛口〉
出品会社:株式会社DNPエスビーイノベーション
《講評》審査委員長・林直人氏(株式会社DOBIN 専務取締役)
本賞の実施は今年で2度目になりますが、レベルがかなり上がってきていて、学生たちを教える先生方もリアルな売り場を知っていて教えているのだということを実感しました。今回の受賞ポイントについて各協賛者さんよりお預かりしているコメントを代読させていただきます。
象印マホービン様は「課題に挙げさせていただいた『思わず欲しいと子ども心をくすぐる』『親御さんにベネフィットが伝わる』が見事に両立された提案になっていました。大人と子ども、それぞれに伝えたい内容を目線に合わせてレイアウトする斬新なアイデアを柔らかな色調でデザインし、見やすく手に取りやすいコンパクトな展示ディスプレイに仕上がっているところを評価させていただきました」。続いてパナソニック様は「思わず立ち止まりたくなるデザインが店頭で目立ち、特徴を読み込みたくなるような仕掛け工夫がしてありました。また、江戸時代の町奉行に着目したユーモアあふれるデザインは SNSで多くの拡散が予期され、店頭に止まらない期待感が高まる作品になっていました」。そして江崎グリコ様は「以下の各ポイントを踏まえつつ、視認対象であるお客様を考慮されており、それぞれにおいてシンプルに映る工夫が凝らされていました。ポイント①ブランドの世界観、ポイント②商品の特性や特徴、ポイント③上記を構成するストーリー展開時の視覚側面の訴求に優れてたというところを評価しております」とのことです。
全体的な講評として、ヤングパワー全開の作品がたくさん集まり、時代を捉えて、売り場づくりの挑戦を感じるアイデアの垣間見える作品が多くありました。荒削りではありますが、しっかりとコンセプトを立てて作品制作に取り組んでいる姿が想像できました。
今年を表すプロモーショントレンドワードは?
なお、本授賞式ではJPMプロモーショナル・マーケティングアワードの守口審査委員長から2024年のプロモーション業界を映し出すトレンドワードとして「ジレンマからの脱却」という言葉が発表されました。
この言葉を選んだ理由として守口氏は、マクドナルドの「スマイルあげない」を例に挙げながら「マクドナルドの『スマイル0円』というのは、まさにレガシーといえるフレーズです。ただ、そのレガシーが若い人たちには足枷のように響く言葉になっていないか、みんなが知っている言葉だからといってそれを肯定し続けていいのか、非常にジレンマもあったのではないでしょうか。『スマイルあげない』はこういった前提を一部否定しながら、無理をせず多様性を持って前向きに働ける環境を表現しています。ともすれば価値観の否定になってしまいそうな表現を時代に合わせてアップデートする。そういうことにうまく成功した好例だと思いますし、その背景にはジレンマからの脱出ということがまさに現れたんじゃないかなと考えております」とコメントしました。
今回表彰された企画・作品のほか受賞作の詳細は今後、日本プロモーショナル・マーケティング協会の公式ホームページなどで公開される予定。きっとどこかのお店で見かけたことのある数々の力作からは、業界人たちのとどまることの知らない熱意を感じるはず!
【「日本プロモーショナル・マーケティング協会」公式ホームページ】
https://jpm-inc.jp/