番組「世界遺産」では毎年12月に「すべて見せます!ベストショット」と題して、その年に撮影した世界遺産をすべて紹介する総集編をお届けしています。一年の放送分を30分にギュッと濃縮する作業なので、限られた時間の中にどのシーンを選び織り込んでいくのか…編集する担当ディレクターの腕の見せ所です。一方、プロデューサーとしても印象的だった放送回があるので、今年放送した中から「プロデューサー的ベスト3」を選んでみました。
【写真で見る】「世界遺産」プロデューサーが選ぶ「今年のベスト3」
番組担当13年で最もカワイイ!ブラジルの世界遺産で出会った動物
まずは、ブラジルの世界遺産「パラチーとグランデ島 文化と生物多様性」。ここで登場したブラジルキノボリヤマアラシがとにかくカワイイ!私は番組を担当して13年になりますが、その中で最もカワイイと思った動物です。木に登るヤマアラシで、ずんぐりした丸い体に短い手足。丸いボタンのような鼻と小さなつぶらな目…短い手でその鼻をこする仕草は愛嬌たっぷり。
木の上で生活するため、枝に巻き付けて体を安定させる長い尻尾や、登るのに適したかぎ爪も持っています。
この世界遺産は、かつて金の積み出し港として栄えたパラチーという大西洋に面した町と、その沖に浮かぶグランデ島など周囲の自然で構成される複合遺産です。ブラジルキノボリヤマアラシはグランデ島の生態系を紹介する中で短く登場したのですが、とにかくインパクトが強かったです。
帝国滅び100年以上…今も皇帝の馬車を引く白馬育成
2番目が、チェコの世界遺産「クラドルビ・ナド・ラベムの儀式用馬車馬の繁殖と訓練の景観」。ハプスブルク帝国時代に皇帝一族の馬車を引く白馬を育てるために作られた牧場で、帝国が滅んで100年以上経った今でも馬を育て訓練しています。
「ひとつの牧場が世界遺産」というだけでも他に類を見ない変わり種。さらに、ウィーンの王宮や美術館・博物館などハプルブルク家が残したものはいろいろありますが、この牧場のように往時と変わらず現役で稼働しているものはそうそうないと思います。
ハプスブルク帝国の領土だったチェコは、その後社会主義国になった時代もあり、社会主義的価値観とは相容れない「王族の馬車を引くための白馬」を守っていくのがいかに大変だったか…馬車ではなく田畑を耕す馬鍬(まぐわ)を引いたりする使役馬として生き延びたといいます。歴史の荒波を越え、16世紀から450年以上続いてきたこと自体が心に残りました。
「番組の新たな形ができる」鈴木亮平さんが初登場した「屋久島」
3番目が、日本の世界遺産「屋久島」。鈴木亮平さんが番組ナビゲーターとして初登場した放送回です。とにかく現地での的確なリポートに「これは別格だ」と驚愕したことを覚えています。屋久島の最大の特徴は、巨大な花崗岩の島で土壌が薄いこと。
鈴木さんはそれを理解しているので、たとえば大雨の山中を歩いていて水流を見つけると、
「岩肌を流れていくだけなので、水が濁っていないですね」
と話し、その水を手ですくって澄んでいることをカメラに見せてくれるのです。
世界遺産好きであることは知っていましたが、深い知識と理解もあり、さらにそれをテレビ的に見せてくれる工夫までしてくれることに感じ入りました。
「この人を得たことで、番組の新たな形ができるのでは…」と思い、それまでなかった「番組ナビゲーター」という役割になってもらった次第です。番組的には、この鈴木亮平さんの参加が今年一番の出来事だったと思います。
その他にも「佐渡島の金山」が日本の新たな世界遺産に登録されたことや、2019年に火災にあったパリのノートルダム大聖堂の修復が進み今年12月に一般公開を再開したことなど、世界遺産をめぐるニュースがいろいろありました。こうしたことも番組で紹介していけたらと思っていますので、来年もご期待ください。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太