「心肺蘇生やめ」阪神・淡路大震災から30年「命の選択」を迫られた医師 あの日の映像と記憶を伝え続ける トリアージ災害医療の教訓

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-01-17 19:11

あの日、助けられた命と助けられなかった命。混乱を極める医療現場で「命の選択」を迫られた医師は、いつかまた大災害が起きた時のためにあの日の映像と記憶を伝え続けています。

【動画】「心肺蘇生やめ」阪神・淡路大震災から30年「命の選択」を迫られた医師 あの日の映像と記憶を伝え続ける トリアージ災害医療の教訓

当時の病院内を克明に記録した貴重なビデオが残っています。

なだれこむように傷病者を運び入れる医師や看護師たち。実質的に島で唯一の救命救急病院だった兵庫県立淡路病院には、地震発生から2時間が経ったころから搬送が相次ぎました。あちこちで、心肺蘇生法=CPRが実施されていきます。

野戦病院と化し、混乱を極める救急外来。医師の一人が撮影したこの映像は、震災発生当日の救急医療の現場を写した唯一の映像とされています。

当時、3年目の内科医で、この日は当直明けだった水谷和郎さん。あの日の院内の光景が脳裏から離れることはありません。

水谷和郎 医師
「心肺蘇生をやめた段階でその人が亡くなることになるので、地震という理不尽な状況で、どうしたらええんやろ、やめていいんやろかというのは、自分の中ではすごく葛藤があって」

生死の境界線を引く過酷な決断を前に生じた、ためらい。そんな時、一人の医師の声が響きました。

松田昌三 医師
「やることやってあかんかったら、次の人を助けなあかん。あのね、今のお話やったら、心臓が止まって、呼吸が止まって20分経っていますから、この方の蘇生は困難です。もうやめ。次の人に行かなあかん、やめ」

現場の指揮をとっていた外科部長の松田昌三さんが蘇生を中止するよう命じたのです。

松田昌三 医師
「助けられる人を助けないかん。もう助からない人はあきらめな。この人もう何分ぐらいかわかる?」
消防隊員
「9時に現場到着してから、15分程度のCPRを実施して…」
松田昌三 医師
「やめなさい、ストップ。次の人にかかろう」

緊急度や重症度に応じて治療の優先順位を決めるトリアージ。当時はまだ社会にほとんど浸透しておらず、国内の災害で実践されたのは阪神・淡路大震災が初めてだとされています。

松田昌三 医師
「助かる人を連れてきてくださいね、もうダメな人はね」

1月17日、兵庫県立淡路病院では10代の2人を含む6人に蘇生中止の末、死亡診断が下されました。

松田昌三 医師
「とにかく助けられる人を助けねばならないと。助けられない人を頑張って、そこに手を取られますと、助けられる人も助けられなくなる。若い人たちにその選別を任すわけにいきませんから、それは私が『もうやめなさい』とか、『この人は頑張ってやりなさい』とか、そういうふうに決めたわけですね」

究極の決断を淡々とくだす松田さんを目の当たりにした時の心境を水谷さんはいまでも覚えています。

水谷和郎 医師
「(目の前に)家族さんがいて、あの部屋には他の患者さんもおられたので、その状況でその、心肺蘇生をやめますという…。言葉は悪いかもしれないですけど、“ありがたい”というか、同時にいまにもつながっているんですけど、(判断)できなかった自分ということがやっぱり悔しいというか」

震災発生から8年後、トリアージを実行した松田さんはこの世を去りました。

淡路病院を離れた水谷さんはその後、あの日の記憶からは目を背けるようになったといいます。しかし、震災発生から10年目、震災を経験した医療従事者とそうでない医療従事者との間で、災害への意識に大きな差があると痛感します。

水谷和郎 医師
「あのビデオを見てもらったら、どんだけ大変やったかというのがちょっとでも分かってもらえるかなと」

いつかまた大災害が起きた時のために。災害医療の厳しさを少しでも知ってもらおうと、あの日の記憶と映像に向き合うことを決めたのです。

以来、毎年、ビデオを使って、医療の世界を目指す学生や病院関係者などに講義や講演を続けています。

水谷和郎 医師
「今の皆さんがCPRをすでに20分施行し、13歳が来ました。皆さんが病院前トリアージの担当者です。『さあ、この人に対して、どういうトリアージをしますか?』というのが問われるのが災害医療です。黒(死亡・救命不能)をつけるのは本当に大変です。『何とかなれへんか』とやっぱり思ってしまうんです。一生懸命してきたら、一生懸命してきたら思ってしまうんですけど、『黒タグをつけないといけないかもしれない』、皆さんに押しかかってくる」

ビデオを使った講演や講義は20年間で100回を超えました。あの日の現場に立ち会った医療人としての責任と覚悟を胸に、水谷さんの活動は続きます。

水谷和郎 医師
「まったくの白紙で被災したのが、やっぱり後悔なんですね。これ知っていたらなぁという思いはありますので、ひとりでも災害医療、災害に備える人が出てきたら、それで減災になるので」

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