綱とりに挑んだ“豊昇龍と琴桜”の明暗の分かれ目、横審・山内委員長「運に恵まれないと横綱にはなれない」

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2025-01-31 06:00
綱とりに挑んだ“豊昇龍と琴桜”の明暗の分かれ目、横審・山内委員長「運に恵まれないと横綱にはなれない」

2025年の幕開けを飾る大相撲初場所(東京・国技館)は1月26日の千秋楽で、大関・豊昇龍が12勝3敗での優勝決定巴戦の末に金峰山、王鵬を破って2度目の賜杯を抱いた。一時は3差、千秋楽も金峰山が1差リードして迎えた上での逆転優勝に、満員の館内は大興奮。翌日の横綱審議員会からも「全会一致」の推薦を受け、74代横綱に昇進した。

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場所前は歴代6例目のダブル昇進が期待されていた。昨年11月の九州場所(福岡国際センター)で豊昇龍は13勝2敗の優勝次点。昇進への一番手は千秋楽相星決戦で豊昇龍を破り、14勝1敗で初優勝した琴桜だった。

ところが、その琴桜は初場所の初日こそ白星で飾ったが、2日目から5連敗で早々と夢は途切れた。12日目以降も4連敗し、結局は5勝止まり。負け越して3月の春場所(エディオンアリーナ大阪)ではカド番となってしまった。

一方の豊昇龍も5日目熱海富士に敗れた後、8日目正代、9日目平戸海と連敗し、昇進の目は消えたかに思えた。だが、相撲の神様は見捨てることはなかった。ここから怒涛の6連勝。首位だった金峰山が残り6日で3敗する間に追いつき、追い越した。

千秋楽の本割で金峰山が王鵬に敗れて3人が並んだ。誰かが2連勝するまで続ける巴戦ではまず抽選で土俵に上がり、対戦相手の金峰山を捕まえ、寄り切り。続いて王鵬にも、土俵際で粘られたものの寄り倒して、1度目の出番で圧勝。大関の貫録を示した。

綱とりに挑んだ2人の明暗の分かれ目は、負けを引きずらない気持ちの持ち方だったと思う。1敗で走っていた豊昇龍は照ノ富士が引退し、琴桜の昇進の望みがなくなった時点で「チャンス」の思いが気負いになり、連敗を招いた。だが、ここで師匠の立浪親方(元小結旭豊)から「楽しめ」と言われて心が軽くなったようだ。動きに切れがもどった。

逆に琴桜は序盤で負ける度に「切り替えます」とコメントしていたが、最後まで頭と体がバラバラだった。根が真面目な性格。頭で切り替えようと考えれば、考えるほど、体が硬くなり、守りに入ってしまった。元々が腰高の上、攻め手が落ちて勝ち星を挙げられるほどの地力はまだない。角界では「負けて覚える相撲かな」という言葉がある。今後はこの経験をどう活かすか、で悲願に繋がる好機が巡ってくるだろう。

豊昇龍の横綱昇進は、数々の幸運に恵まれたと言って良い。14日目を終えた時点で自力優勝の目はなかった。千秋楽に対戦が組まれた同じ3敗の王鵬が2敗の金峰山を破ることがなければ、同じ12勝でも、横綱昇進は春場所に持ち越しになったはずだ。

昇進の基準も厳しくはなかった。「大関で2場所連続優勝か、それに準じる成績」という横綱審議員会の昇進の内規には当てはまるものの、3場所前の昨年秋場所(国技館)は8勝で千秋楽にようやく勝ち越し。直前3場所で33勝は、平成以降に誕生した12人の横綱の中では最も低い。一般的に大関昇進の目安とされる勝ち星だ。それでも、ゴーサインを出した審判部の高田川部長(元関脇安芸乃島)は、「前に出ている内容が良かった。負けた相撲も出会い頭という感じ。力負けではない。あとは全部力でねじ伏せていた」と話した。もちろん八角理事長(元横綱北勝海)も「集中力で相撲を取る力士。前に出て押し込めるようになった」と成長を評価した。

財団法人設立100周年を迎えるメモリアルイヤーの今年、10月には1991年以来、34年ぶりとなるロンドン公演が控えている。照ノ富士が土俵を去り、もしも、豊昇龍の昇進がなければ、32年ぶりに番付で横綱が空位になる上に、今後、9月の秋場所(国技館)までに昇進がなければ、ロンドンで呼び物の横綱土俵入りが行われない危険性もあった。豊昇龍が今場所負けた3番はいずれも平幕相手。「もう1場所待っては」の声が審判部内にもあったが、高田川審判部長は「審判部長の責任で判断しました」と押し切った。その時々の状況、判断で運、不運があるため、「番付は生き物」というが、相撲協会にしてみれば、「是が非でも」の事情がそろっていたと言えるかもしれない。

様々な要因が絡んだとは言え、大入りが続く土俵で豊昇龍がワンチャンスを活かし、ファンの心をつかんだのは間違いない。横審の山内昌之委員長(東大名誉教授)は、「非常にインプレッシブ(強い印象、感銘を与える)な勝ち方をするドラマチックな舞台を提供してくれた。ドラマを演出し、その主役になった。巴戦を加えると結びの一番から3回続けて戦い、17番取った。その底力、精神力を評価した。運に恵まれないと横綱にはなれない。彼には運が残っていた。ドラマ性は角界を担う横綱としてふさわしいものだ」と述べた。先場所後の会見では「来年は横綱昇進がダブル(同時昇進)どころか、もっとスケールの大きな夢を見たい」と話していたが、10年の任期を終え、退任する最後の場所で新横綱に推薦を出し、満足そうに微笑んだ。

外国出身力士としては8人目、モンゴル出身としては6人目の横綱になる。入門以来、良しにつけ、悪きにつけ、常に言われ続けてきたのが「朝青龍のおい」という生い立ち。本人の憧れだった68代横綱の叔父と並ぶ番付にたどり着いた25歳は、今後、どんな横綱になっていくのか。

山内委員長が「横審委員からの強い希望、注文」として新横綱に送った言葉はファンの総意を代弁するものでもあるだろう。

「(豊昇龍には)まだ余力、伸びしろがある。日本の大相撲という国技を引っ張っていく存在として、国技の精神、理念をこれまで以上によく理解し、日本の文化や歴史をきっちり学び取る努力、自覚、研鑽が求められる。国境とか国籍を超越したグローバル化された時代のスポーツとしての大相撲を、世界にアピールしていく横綱であって欲しい」

横綱昇進伝達式で豊昇龍は、大関昇進時と同じ「愚直に真っすぐ、力強く立ち向かっていく」という意味の言葉を使い、「気魄一閃(きはくいっせん)の精神で精進致します」と口上を述べた。新横綱を中心に、復活を期す琴桜、巻き返しを狙う大の里らが競う土俵が、今から待ち遠しい。

(竹園隆浩/スポーツライター)

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