滋賀が生んだ怪物高校生、800m・落合晃が見据える“東京世界陸上出場”「日本人が戦えていない中でメダルを獲りたい」

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-02-28 12:05
滋賀が生んだ怪物高校生、800m・落合晃が見据える“東京世界陸上出場”「日本人が戦えていない中でメダルを獲りたい」

去年7月31日、パリオリンピック™ が開催されている中、福岡で行われたインターハイで1人の怪物高校生が日本陸上界の歴史に名を刻んだ。男子800mで日本記録を更新した落合晃(18、滋賀学園)だ。落合がマークした1分44秒80は、これまでの記録を0秒95も更新。レース展開などでタイムが激しく変わる800mだが、この記録は23年の世界陸上ブダペスト大会では銅メダル(1分44秒83)、15年の世界陸上北京大会では金メダル(1分45秒84)に相当するとてつもないものだった。

日本の800mの歴史は、1928年のアムステルダム五輪で人見絹江が銀メダルを獲得して以来、男女ともに五輪と世界陸上でのメダルはおろか、入賞者が出ていない。だが、18歳の落合は、そんな常識を覆そうとしている。

「まだ世界で800mで日本人が戦えてない中で、東京の世界陸上とかオリンピックっていう舞台で、そこでメダルを取りたいなっていう気持ちもある」

1分44秒70の壁 パリ五輪を逃した悔しさから生まれた日本記録

23年8月に北海道で行われたインターハイで落合は、2年生ながら1分47秒92の大会新記録で高校日本一に。そこから、1年後に開催されるパリ五輪に向けた戦いが始まった。きっかけは指導する大河亨監督の「オリンピック目指そうぜ」という言葉だった。大河監督は当時を次のように振り返った。

「オリンピックを目指そうと言った時も0.0002%ぐらいかなと。でも少しでも可能性があるんだったら賭けてみるかというところから始まり、真剣に本人がチャレンジしていた。まだ3秒以上縮めないといけない状況だったので、800mに特化したトレーニングを入れました。冬は雪が積もって非常に寒い地域なので、スピードよりも、エアロバイクを使ったりとかサーキットを入れた。駅伝中心のトレーニングだったら、そういったことはほぼやらないですけど、距離を走るというよりも、無酸素的なトレーニングを多く入れました。それがすごく彼の飛躍に繋がったのかなというふうには思います」

努力は結果として表れた。4月のU20アジア選手権で金メダルを獲得すると、5月の静岡国際では1分46秒54の高校記録、U20日本新記録の快走。そしてパリ五輪出場を賭けた6月の日本選手権に挑んだ。

予選でいきなり自己ベストを更新する1分45秒82をマークし、決勝へ。雨が降りしきる悪天候の中、決勝では序盤から先頭を譲らなかった。シニアの選手を全く寄せ付けず優勝を果たすも、タイムは1分46秒56。参加標準記録の1分44秒70には及ばなかった。優勝したにも関わらずフィニッシュ後、トラックを叩き悔しさを露わにした。その時の心境を落合は「ずっと、パリ五輪を思い続けてやってきたので、やっぱりその点ではすごく悔しかったですし、もう言葉では表せないというか、そういう思いが湧いてきました。人生で1番悔しかったです」と語る。

だが、その悔しさが着実に落合を成長させていた。日本選手権から2週間後にはまず、女子800mの歴史が先に動く。奈良県で行われた記録会で当時16歳の久保凛(東大阪大学敬愛高 2年)が1分59秒93で19年ぶりに日本記録を更新した。

「もうびっくりしました。年下ですけど尊敬で、すげぇなって思って。負けてられないなってそこで思いましたし、自分も日本記録は出したいなって強く思いました」

そして、7月31日。衝撃の日本記録が生まれる。1周目を51秒台で走ると、ラストの直線のスパートは圧巻だった。山梨学院のケニア人留学生、フェリックス・ムティアニ(当時2年)との一騎打ち。ラスト50mを切ったところで、落合が逆転し、1分44秒80の日本新記録でインターハイ連覇を果たした。

「ひとつ日本選手権のモヤモヤが晴れたような気持ちでした。やっていた取り組みが間違っていなかったというのを再確認できたのが、そのインターハイの決勝で体現できたっていう。日本新記録が出て凄く嬉しかったです」

さらに8月にペルーのリマで行われたU20世界陸上では銅メダルを獲得し、世界の舞台でも強さを示した。だが、3位という結果にはもちろん満足はしていない。

「勝ち切りたいという思いが強くなりました。そこからは勝ち切るように練習もしていかないといけないし、そういう取り組みも心掛けています。スピードとかもそうなんですけど、まず経験値として、世界のレースをどんどん経験したいなと」

今年は「東京世界陸上出場」を目標に掲げる。参加標準記録は1分44秒50とパリ五輪の記録よりも高い設定タイムだ。高校3年間で自己ベストを12秒以上伸ばした落合。4月から入学する駒澤大学でどのように自分を高めていくのか、目が離せない。

■落合晃
2006年8月17日生まれ、18歳 滋賀県・高島市出身。今津中~滋賀学園高。水泳、スキー、フットサル、トライアスロンなど様々な種目を経験し、中学から本格的に陸上競技を開始。6月の日本選手権男子800m決勝で優勝。7月31日のインターハイでは1分44秒80で日本新記録をマークすると8月のペルー・リマで行われたU20世界陸上では銅メダルを獲得した。卒業後は陸上の名門・駒澤大学への進学が決まっている。

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