「佐渡島、忘るべからず。」キャンペーン始動!佐渡ゆかりの世阿弥と子孫の600年越しの祖孫共演も
2024年7月、新潟県の「佐渡島の金山」が世界文化遺産に登録され、大きな話題となりました。
これを機に、佐渡島では陸海空の交通3社(佐渡汽船、JR東日本、JAL)が連携し、観光誘致を目的とした「佐渡島、忘るべからず。」キャンペーンを2025年3月よりスタート。佐渡の歴史や文化、グルメなどを通じて、まだ知られていない魅力を発信します。
先日行われたキックオフイベントでは、能の先駆者・世阿弥の子孫の能楽師・観世三郎太さんがナレーションをつとめた新TVCMが公開され、600年の時を超えた「祖孫共演」が実現。さらに特別な能の披露も行われ、来場者の関心を集めました。
佐渡の歴史と文化を感じられるこの発表会。私たちがまだ知らない、佐渡の魅力にせまります!
知られざる佐渡島の魅力を発信

「佐渡島の代表的なものは?」と聞かれたら、多くの人が「金山、トキ、たらい船、佐渡おけさ」を思い浮かべるのではないでしょうか。実際、昨年夏の首都圏調査でも、ニュースやパンフレットなどで知られる情報以外はほとんど知られていないことが明らかになりました。
そこで、佐渡島と新潟本土を結ぶ定期船を運航中の佐渡汽船株式会社(以下、佐渡汽船)は、佐渡の知られざる魅力の発信で認知度を高め、さらなる観光誘致へとつなげる「佐渡島、忘るべからず。」キャンペーンを立ち上げました。

「キャンペーンでは、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)、日本航空株式会社(以下、JAL)とタッグを組み、“船舶・鉄道・航空”3社それぞれのメディアを活用した情報を発信。さらに、佐渡市や新潟県の自治体とも連携し、みなさんの知らない佐渡島を全国にお届けします。まさに官民一体となった、一大プロモーション。佐渡島を一過性の観光地ではなく、何度も訪れたくなる持続可能な観光地として発展させることを目指します」
キャンペーンの背景やターゲットをこう語るのは、佐渡汽船会長の松本氏。続けて、いま首都圏を中心に放映中のTVCMを紹介してくれました。
世阿弥の美学が息づくTVCM
「佐渡島、忘るべからず。」は、配流され晩年を佐渡島で過ごした能楽の大成者、世阿弥の「初心、忘るべからず」から着想を得たキャッチコピー。TVCMでは、佐渡島の美しい風景をバックに、さまざまな「忘るべからず」が流れます。
このTVCMのナレーションを担当するのは、観世流シテ方能楽師の観世三郎太さん。世阿弥の子孫にあたる能楽師です。キャッチコピーは祖先の世阿弥、ナレーションは子孫の観世さん。まさに600年越しの祖孫共演です。
世阿弥伝承者による能の披露

発表会では、観世三郎太さんが特別に能「舞囃子『野守(のもり)』」を披露しました。『野守』という楽曲は、世阿弥が晩年、佐渡で過ごしていたころに創作されたとされ、観世家にもゆかりの深い演目です。

静と動が交互に訪れる演舞と、謡(うたい)や囃子(はやし)の絶妙な調和が織りなす舞台に、会場全体が舞台に引き込まれ、能の深さと美しさを体感しました。

演目終了後、観世さんはTVCMでの祖先との共演について、次のような感想を述べました。
「ご先祖さまの言葉が、今でも誰もが知る言葉となっていることは嬉しい。生きている間には、その年齢それぞれの“初心”、いわゆる未熟さがあると思うんです。それをクリアしたからといっても慢心せず、次の未熟に対峙していくのが大切。芸事も同じで、それが芸を磨くことにつながると思います」
演目では威厳ある姿で会場を圧倒した観世さんですが、時おり照れた表情ものぞかせ、シャイな一面も見せました。そのギャップに、会場の心は一気に奪われたようでした。
佐渡の歴史文化、グルメ――訪れるべきスポットとは?

観世さんに続いて登壇したのは、佐渡島出身で第9代東京藝術大学学長・同名誉教授の宮田亮平さんと佐渡市長の渡辺竜五さん。佐渡にゆかりのあるおふたりは、佐渡島の歴史や文化、自然について語り、観光で訪れるべきスポットを紹介してくれました。 では、その一部をご紹介します。
鬼太鼓

「力強い太鼓の演奏に合わせ、時には静かに、時には飛ぶように舞う鬼太鼓。集落ごとに個性を持ちながら発展し、いま130近くの流派があります。主に春に行われる祭で、太鼓の音が聞こえてくると、祭文化の情緒を感じられますよ」(渡辺さん)
大野亀のトビシマカンゾウ

「“二ツ亀”は、海の透明度バツグンの絶景スポット。そしてその横の“大野亀”には、トビシマカンゾウという黄色い花が一面に咲いていて、自然の美しさに心が安らぎます」(宮田さん)
北沢浮遊選鉱場

「日本の遺跡として登録されている場所です。観光客からは“天空の城”と呼ばれ、いま人気のスポット。夜はライトアップされて、冬の寒い中でも訪れる観光客が絶えません。ここで結婚式を挙げたカップルもいるんですよ」(渡辺さん)
芋煮
「江戸時代の佐渡金山の名物料理が235年ぶりに復活しました。鯛は高級魚と言われますが、食材が豊富な佐渡のスーパーに行くとびっくりしますよ。2㎏ほどの鯛が500円前後という価格には、観光客も驚くはずです。江戸奉行の気持ちになれる逸品です」(渡辺さん)
佐渡を訪れたのは幼いころに一度だけ、という観世さん。おふたりの“佐渡愛”に満ちたプレゼンテーションを受け、「佐渡島に行きたい気持ちは200%です!」と笑顔で答えました。

「この景色をご先祖さまが見ていたのだろうと思うと、すごく感慨深いです。佐渡はお酒やスイーツも美味しいと聞いて、僕はどちらも大好きなので、ぜひ訪れてみたいです。いつか舞台もしてみたいですね」
まだまだポテンシャルを秘める佐渡島

佐渡島は、新潟本土から佐渡汽船のフェリーで約2時間半。決してアクセスが良いとは言えませんが 、その分、たどり着いた先には、豊かな歴史や自然、美味しいグルメなど、心に残る魅力が待っています。
いままで知らなかった佐渡島の魅力にふれる、新しい発見の旅に出かけませんか?
【観世三郎太 プロフィール】

観世流能楽師。1999年生まれ。二十六世観世宗家観世清和の嫡男。
幼少より父の稽古を受け、5歳に能「鞍馬天狗」花見のシーンで初舞台。以来「翁」「道成寺」「乱」「石橋」「鷺」「安宅」などの大曲を勤め、次世代を担う若手能楽師の筆頭として、国内はもとより、ニューヨーク、フランス、ローマ、ケルン、上海など海外公演も行なう。
(一財)観世文庫常務理事、(一社)観世会副理事長
<取材・撮影・文/櫻井れき>