自動車関税25%の衝撃「トランプ・スタグフレーション」の瀬戸際【播摩卓士の経済コラム】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-03-29 14:00
自動車関税25%の衝撃「トランプ・スタグフレーション」の瀬戸際【播摩卓士の経済コラム】

アメリカのトランプ大統領は、27日、輸入自動車に4月3日から25%の追加関税を課すと発表しました。日本からの輸入も対象で、乗用車の関税は、これまでの2.5%から27.5%に、トラックは25%から50.0%へと、一気に上がることになります。日本側は、政府も企業もとれる対策が限られており、対応に苦慮しています。

【画像でみる】自動車関税25%の衝撃「トランプ・スタグフレーション」の瀬戸際

対米輸出依存が大きいほど打撃

2024年に日本からアメリカに輸出された完成車は、130万台余りです。日米貿易摩擦が激しかった1980年代の後半には、輸出自主規制枠自体が230万台もありました。その後、現地生産の進展や、カナダやメキシコを活用した供給網の整備もあって、日本からの直接輸出の台数そのものは、かなり減ったことになります。それでも130万台というのは、アメリカにとって、日本は、メキシコ、韓国に次ぐ第3位の輸入相手国です。

日本からの輸出台数が最も多いメーカーは、トヨタの53万台ですが、現地販売台数に占める割合は23%に過ぎません。それだけアメリカ国内や北米での生産が多いのです。ホンダは米国販売の7割、日産は6割がアメリカでの現地生産だということです。

その一方、マツダはアメリカで販売される半分にあたる22万台が輸出車で、スバルも4割以上の29万台を輸出しています。三菱自動車は米国内に生産拠点はありません。アメリカへの完成車輸出の依存度が高い、中堅メーカーほど、打撃が大きい構図です。

関税すべてを価格転嫁することには慎重

関税が一気に25%も上乗せされるのであれば、価格転嫁するのが正当です。イタリアの高級自動車メーカーのフェラーリは、発動とほぼ同時に、一部車種で最大10%の値上げに踏み切ると発表しました。論理的には、日本やドイツ、韓国などの自動車メーカーが一斉に完全な価格転嫁のための値上げをすれば、アメリカの消費者にも事態の深刻さが伝わろうと言うものです。

しかし、日本の各メーカーは値上げには今のところ慎重な姿勢を示しています。得意の大衆車の分野では購入者の価格感応度が高く、稼ぎ頭である米国市場でのシェア急落は避けたいからです。当面は、コスト削減に努めつつ、横の各社の動向を睨みながら、少しずつ値上げ、といった形になりそうです。当然のことながら、その分、収益性は悪化し、部品会社などの調達への影響も心配なところです。

中長期的には現地生産拡大も

高関税が続くのであれば、現地生産の拡大も選択肢です。ただ、現地生産の拡大は、新たな投資やサプライチェーンの変更なども必要で、直ちにできるものではありません。すでに自動車各社は、1980年代からの激しい貿易摩擦の末に、相当な現地化を進めており、それが日本を対米投資額第1位の国に押し上げることにも貢献しました。品質やコストなどを考慮して、最適な生産体制の構築に努めてきたと言って良いでしょう。

また、今年2月の石破総理の訪米に合わせて、いすゞのトラック工場新設など、「出せるタマは全部出した」というのが実情です。

基幹部品も25%関税の対象に

今回のトランプ政権の発表で注目すべきは、完成車だけでなく、エンジン、トランスミッション、パワートレーンといった基幹部品も25%追加関税の対象にするという点です。アメリカで現地生産している車でも基幹部品を日本から輸入して組み込んでいるケースでは、関税分のコストが上がります。

また、北米大陸での自由貿易協定であるUSMCA(旧NAFTA)においても、関税適用があることも、ポイントです。USMCAで現在は関税ゼロが適用されるケースでも、トランプ政権は、今後、アメリカ製の部品の調達度合いを勘案して関税を調整すると明らかにしており、カナダ、メキシコとの完成車や自動車部品のやり取りに大きな影響を与えそうです。日本メーカーにとっても、輸出か現地生産かといった単純な選択ではなく、複雑なサプライチェーンの再構築が迫られることになります。

製造基盤再建めざすトランプ政権

焦点は、トランプ大統領がこの強硬策をどこまで続けるのか、何が得られれば矛を収めるのか、です。トランプ大統領の思考回路を予測することは困難ですが、当のトランプ氏は、この措置を「恒久的だ」として、すぐには取り下げない姿勢をアピールしています。ホワイトハウスのレビット報道官も「大統領は製造基盤の再建の決意を固めている」と、その本気度を強調します。再選されて自信を深めたトランプ氏は、自らの「正しさ」に一層拘っているように見受けられます。

しかし、ホワイトハウスが主張する「アメリカで販売される乗用車の半分が輸入車だ」という現実には、それなりの理由があるはずです。関税を引き上げただけで、アメリカの製造基盤が再建され、米自動車産業の競争力が急回復するはずがないことは、自明です。

価格上昇と需要減退でトランプ・スタグフレーションか

自動車の経済に占める大きさを考えれば、関税というコストによる値上りがアメリカのインフレを加速させることは間違いありません。その一方、価格の上昇が自動車の需要減退を招き、経済の減速を招くことも、容易に想像できます。

文字通り、「トランプ・スタグフレーション」が視野に入って来ました。アメリカ経済の変調は、世界経済に甚大な影響を与えることでしょう。そうなる前に、トランプ政権が、「ポピュリスト」らしく、何か別の方向に舵を切れるかどうかが、分かれ目となりそうです。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

  1. ロシア・ラブロフ外相“ウクライナが違反繰り返している” エネルギー施設への一時攻撃停止合意めぐり
  2. プーチン大統領 5月の対ドイツ戦勝記念日式典 習主席は「メインゲスト」 首脳会談も実施へ
  3. フォーブスの長者番付でイーロン・マスク氏が3年ぶり世界一 保有資産は51兆円
  4. 74歳女性「アクセルを強く踏んだ」名古屋・繁華街で車暴走…乳児含む7人けが 瞬間の映像には車道を横切り歩道に乗り上げる様子【news23】
  5. 70人以上が安否不明の崩壊ビル内部に6人分の人影 バンコク高層ビル アメリカ救助隊が調査
  6. 備蓄米2回目入札 7万トン全量落札 平均価格は60キロあたり初回より495円安く2万722円 しかしコメ価格は12週連続値上がり 農水省「効果なければ追加放出へ」
  7. 宮内庁がYouTube公式チャンネル開設 登録者4万人突破 天皇皇后両陛下の活動を紹介
  8. ミャンマー大地震 死者2700人超 JICA調査チームきょう(1日)にもマンダレー入り 新たに約30人の日本医療チーム派遣へ 日本人1人の安否不明
  9. “トランプ関税”対策 自民党が戦略本部で初会合 政府から影響聞き取り 産業界とも連携し政府に提言へ
  10. “おもてなし”入社式が増加 企業の思惑は「人材を逃したくない」一方で、新入社員の本音は?【Nスタ解説】
  1. クローゼットから発見された遺体は行方不明だった都内の女子高校生(16) 首や肩などに複数の刺し傷 無職の男(21)を逮捕 愛知・一宮市
  2. “おもてなし”入社式が増加 企業の思惑は「人材を逃したくない」一方で、新入社員の本音は?【Nスタ解説】
  3. 中国大手IT企業のEV車事故で波紋 大学生3人死亡 メーカーの責任問う声も
  4. 4月から4200品目以上値上げ!水道料金も…40%上がる場所も!こんなときこそ“ノーマネーデー”で節約を!
  5. 74歳女性「アクセルを強く踏んだ」名古屋・繁華街で車暴走…乳児含む7人けが 瞬間の映像には車道を横切り歩道に乗り上げる様子【news23】
  6. 激安ラーメン350円に値上げも、袋麺売り上げ好調!コメ代用需要も背景か【Nスタ解説】
  7. 宮内庁がYouTube公式チャンネル開設 登録者4万人突破 天皇皇后両陛下の活動を紹介
  8. 防犯カメラが捉えた事故の瞬間 名古屋・栄の繁華街で車が暴走、歩道に突入 乳児含む7人負傷 70代女を逮捕
  9. フジテレビにスポンサーは戻ってくる?企業は慎重姿勢 弁護士に聞いたスポンサーとの向き合い方【Nスタ解説】
  10. 70人以上が安否不明の崩壊ビル内部に6人分の人影 バンコク高層ビル アメリカ救助隊が調査
  11. 備蓄米2回目入札 7万トン全量落札 平均価格は60キロあたり初回より495円安く2万722円 しかしコメ価格は12週連続値上がり 農水省「効果なければ追加放出へ」
  12. ミャンマー大地震 死者2700人超 JICA調査チームきょう(1日)にもマンダレー入り 新たに約30人の日本医療チーム派遣へ 日本人1人の安否不明