『パラサイト』ポン・ジュノ監督×小川彩佳キャスター 6年ぶり新作「人生や社会に疲れた人に小さな慰めを…」社会の深層を描き続けるワケは?【news23】

5年前、映画「パラサイト 半地下の家族」でアカデミー賞を受賞したポン・ジュノ監督。先週公開された新作では、“使い捨て労働者”として搾取され続ける若者の奮闘を描いています。社会の深層を描き続けるワケを聞きました。
“半地下”から6年 新作は“使い捨て”
映画監督ポン・ジュノ氏(55)。
2020年、社会的格差を真正面から描いた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」で、アカデミー賞の最高峰である『作品賞』や、カンヌ国際映画祭で『パルムドール』を受賞しました。
ポン・ジュノ監督の6年ぶりとなる新作「ミッキー17」。
主人公は、権力者に“使い捨て”にされる若い労働者です。
事業に失敗し、多額の借金を抱えたミッキー・バーンズ。借金取りから逃れるため、惑星に移住するプロジェクトに参加しますが…
ミッキーが申し込んだ仕事は、人類がその星で生息できるかどうか、自らの体を使って検証するというものでした。
命を落としても、無理矢理生き返らされ、過酷な“人体実験”が繰り返されるのです。
小川彩佳キャスター
「八方塞がりになった時に、ろくに契約書も読まずに踏み込んでしまう」
ポン・ジュノ監督
「私たちはインターネットのサイトでアカウントを作る時、規約をちゃんと読まずに全てに同意してしまうことが多いですよね。それは実はとても恐ろしいことなのに、ミッキーもそれをしてしまっているんです。
どの国にも、若い人を搾取するための恐ろしい手口や、若い人が陥りやすい落とし穴が多く存在し、それが与える恐怖があります」
プロジェクトの主導者であるマーシャルは、ミッキーを、代えがきく部品のように扱い、搾取し続けます。
ポン・ジュノ監督
「マーク・ラファロが演じるマーシャルは、人類が過去や現在、いろんな国で経験してきた政治的な悪夢、様々な悪い指導者や政治家の下での経験や記憶を、溶鉱炉で溶かして作ったようなものです。
特に独裁者が夫婦の場合はさらに滑稽であり、おぞましい関係が生まれます。この映画でミッキーの対極にいる独裁者夫婦の滑稽でありながらも、おぞましい姿も、私たちの現在を映している断面ではないかと思います。
(この映画は)遠い未来の話を語っているかのように見えますが、実は現在の私たちの話で、そこを強調したかったのです」
小川キャスター
「(ミッキーは)何度も使い捨てにされて、“格差の中の最下層”から這い上がることができないという構図が今の社会に重なる」
ポン・ジュノ監督
「現実にも厳しくて危険な仕事があり、事故が起きて労働者が死ぬこともあります。悲しいことにその仕事をやっていた労働者が死んでも、その仕事はそのまま維持され、別の人が就くことになります。ミッキーはそれをひとりで全部背負っているのです」
「小さな慰めを」監督が明かす野心
これまで、格差や権力者の横暴に対する風刺を描いてきたポン・ジュノ監督。
格差の克服について、以前の対談では...
ポン・ジュノ監督(2020年)
「映画的にうまく飾ったり、甘い言葉で希望を与えたりするよりは、そのままそれを全て解剖してみようと。はっきり真正面から見つめた時こそ、格差を克服できる道も見つかるのではないかと思います」
5年経ったいま「格差を克服する方法を見つけることは簡単ではない」と話しますが、ある野心を持っているといいます。
ポン・ジュノ監督
「どんなに世知辛く残酷な時代であっても、ユーモアと愛と癒しを求めるのがクリエイター。私はひとりの映画監督にすぎず、社会学者でも、世界的なイシューや哲学的な問いを投げかけられる立場でもありません。
ただ、人生や社会に疲れている人に映画人として小さな慰めを与えることはできないか、そんな素朴な野心は持っています」
小川キャスター「監督の願いが込められていると感じた」
小川キャスター:
パラサイトを見た後の感覚は、(心に)ドシっと来ましたよね。
ポン・ジュノ監督の作品は、そのような読後感が多い気がしていましたが、今回の作品は、どこか癒しの要素が強く感じられました。
それは裏を返せば、今の時代に監督ご自身がとりわけ過酷さを覚えて、癒しを求める人々の声の高まりというのを、まさに感じているのかなと思いました。
何度も何度も使い捨てにされる主人公・ミッキーのたどる道には、監督の願いが込められているようにも感じました。
藤森祥平キャスター:
癒しや慰めなど、小さいのでもいいから繋がっていくと、すごく優しい世界が待ってる気がします。
小川キャスター:
見ていただけると、作品を通してそれが伝わるかも知れません。