「命がけで秘密を教えてくれる人が殺される」リストラされたCIA職員をロシアがリクルート?【報道1930】

トランプ政権下でインテリジェンスが歪み始めている。軍事上の機密情報が民間のSNS上でやりとりされたり、人員削減で放出された情報機関の職員が海外に流出することが懸念されたり…。関税に耳目が集まっているうちにアメリカという巨大国家の土台が危ない事態になっているのかもしれない…。
【写真で見る】「計画はグリーンライトだ」機密情報が飛び交った、シグナルのやり取り
命がけで機密を盗み、あなた方に教えてくれる人物は殺される…
かつてニクソン政権下、後に大統領辞任に追い込まれる政治スキャンダルがあった。事の発端が起きたビルの名を取って“ウォーターゲート事件”と名付けられた。そして今、“ウォーターゲート事件”になぞられ“シグナルゲート”と呼ばれている問題が起きている。トランプ政権下で起きているのは、イエメンの武装組織フーシ派への攻撃に関する軍事機密のやりとりに民間の通信アプリ『シグナル』のグループチャットが使われていたこと。グループに何故かジャーナリストが招待されていたために事態が明るみに出た。この問題、ただ「情報管理が甘い」ということでは済まない深い問題を抱えているものだという。
ウォルツ大統領補佐官のグループチャットにはバンス副大統領、ヘグセス国防長官、ルビオ国務長官、ラトクリフCIA長官など政権の重要人物が名を連ねていた。
チャットのやりとりは一部公開されているが、本人も機密情報に接する機会のあるRUSI英国王立防衛安全保障研究所のI秋元千明氏は…。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表 秋元千明氏
「今回問題は3つあります。これが軍事機密かどうか。『シグナル』が適切かどうか。何故ジャーナリストが招待されたのか。まず内容的には完全に軍事機密です。2つ目に『シグナル』ですが、私も実はロンドンとのやりとりはシグナル以外使わない。発信側と受信側でそれぞれ暗号化するので中間で傍受できない。基本的に解析不可能といわれ出回っている通信アプリでは最も秘匿性が高い。だからって軍事機密に使っていいかっていうとそうじゃない。端末がハッキングされる可能性がありそうされたらもう終わりなんです…」
本当に漏れないために軍事攻撃などは隔離施設SCIFという施設などを使うのが普通だという。事後にアメリカの大統領がこうした施設から命令を出す画像が公開されることは過去にもあったが少なくとも事前に伝わることはない。
そして今回漏洩したチャットのやりとりの中で一番問題だという3つ目の問題は、白日の下にさらされたチャット上の会話の中で現地で諜報員が活動していることが知られてしまったことだという。「ガールフレンド」などコードネームが使われ、リアルタイムで様子が入っていることからそれが分かるのだという。
これには元CIAの諜報部員も憤りを隠さない。
元CIA諜報部員 レベッカ・コフラー氏
「現場の情報源、つまり政府から機密を盗むために命がけで、あなたに秘密を教えてくれる人物は殺され、何年もかけて開発した情報の流れを失うことになる。私たちの多くは人間であり感情をもっている。人が殺されることを望まないのは明らかだ…」
ウォルツ大統領補佐官は今回発覚したチャット以外にも20のグループチャットを利用していた。さらにGメールでも公務のやりとりをしていたという。
ジャーナリストをチャットに招待してしまったのも“うっかり”だったという。
他にもヘグセス国防長官は機密を扱う会合に妻を同伴させていたり、トランプ政権下のインテリジェンスはかなり“ゆるゆる”だ。機密漏洩などいつあってもおかしくないだろう。
しかし今、米インテリジェンスの世界でもっと由々しき問題が懸念されている…。
「外国のシンクタンクって、その国の情報機関と繋がってますから…」
“スパイ”のリクルート…といっても日本ではピンと来ないかもしれないが、今年CIAが公開した映像がある。
ロシア人科学者のもとに軍の人間がやってきて兵器開発を強いられる。続いて「優秀な若い人材はほとんど既に国から去ってしまった…」とナレーション。やりがいも行き場も失った科学者はある日そっと旅立ちCIAにコンタクトを取る…。動画の最後にはCIAへの安全な連絡方法や安全な接続先などが細かく表示される。
ロシアの才能をリクルートしようとするCIAの勧誘サイトだ。
ところが、今懸念されているのは、逆の現象だ。つまり、トランプ政権下でアメリカのインテリジェンスから人材が流出しようとしている。アメリカでは18の情報機関に総額約18兆円が予算として割り当てられているが、そのダイエットが急速に進められている。
国防長官傘下では人員を5~8%削減するよう指示があり、CIAでは全職員を対象に早期退職を募っている。ここであぶれた人材が海外、特にロシアなど非友好国に流れるかもしれないのだ。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表 秋元千明氏
「情報機関の人間は高いスキルを持っていますから“つぶし”がきくんです。どこで利くかというと外国の情報機関です。内輪の情報知ってますし…。(本人はスパイのリクルートって感覚じゃなく)どこかのシンクタンクから声がかかる。外国のシンクタンクって、その国の情報機関と繋がってますから…。私が言うのもなんですけど…。いつのまにか外国のために働かされてしまう…」
ロシアや中国ではアメリカのインテリジェンスをリクルートするメリットはかなり大きいと話すのは兵頭慎治氏だ。
防衛研究所 兵頭慎治 研究幹事
「(アメリカの)人員削減の動きと共にリクルートに乗り出しているという指摘はある。アメリカの国内情報だけでなく、インテリジェンス機関の内部情報も筒抜けになる危険性がある。なので外国への頭脳流出は注意しておく必要があるかと…」
また、情報機関は一度人材を削減すると簡単には元に戻らないという。
「CIAで新人採用して研修に600日かかる」
冷戦終結後にCIAの予算が大幅に削られたことがある。それがもとで慢性的に人手不足が続き、機能が低下し、結果的にあの9・11同時多発テロを事前に予測できなかった一因となったと、秋元氏は語る。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表 秋元千明氏
「情報機関の仕事は高度な専門性、学識を必要として一度やめてしまうとすぐには補充がきかない。バーンズ前CIA長官が言ってましたが、CIAで新人採用して研修に600日かかる。2年近くですよ、これでスタート地点に立てる。で一人前になるにはそこから10年かかる。だから(インテリジェンスの)人を削るというのは大きなダメージなんです」
(BS-TBS『報道1930』4月4日放送より)