山本有真が5000mで3年ぶりの自己新!アジア選手権代表を確実に 世界で戦うための山本流のスタイルとは【金栗記念】

山本有真(24、積水化学)が東京2025世界陸上代表入りに一歩近づいた。金栗記念選抜中長距離熊本大会は4月12日、熊本県のえがお健康スタジアムで、5月に韓国クミで行われるアジア選手権選考競技会を兼ねて行われた。女子5000mでは山本が15分12秒97で全体5位、選考レースの2組ではトップとなり、アジア選手権代表入りを確実にした。
田中希実の背中を“世界”と思って走った山本
山本がフィニッシュ後、4000mまでペースメーカーを務めた田中希実(25、New Balance)と抱き合った。田中は1500mと5000の日本記録保持者で、東京2025世界陸上の参加標準記録を両種目で突破している。21年の東京オリンピック™1500mと23年のブダペスト世界陸上5000mで入賞。ダイヤモンドリーグも常連で、世界的に活躍している選手である。今大会では1500mで日本人トップの2位となった2時間弱後に、5000mのペースメーカーを走った。
「田中さんの後ろ姿を見て、世界を想像しながら走りました。田中さんが引っ張ってくれたから(自己新が)出たと思います。ラスト1000mで田中さんがレースを外れたとき、『ここからだよ』と叫んでくださったんです。めちゃくちゃ嬉しくて、その勢いでペースを上げたら(次の1周を)69秒と思った以上に上げられました。色んな方たちの力を借りて、今日はすごく良い走りができました」
今大会はトラックの縁石に沿ってウェーブライトが設置され、日本陸連強化委員会が指定したペースで、光の点滅が選手たちを先導した。1000m毎の通過タイムが3分03秒、6分08秒(3分05秒)、9分13秒(3分05秒)、12分20秒(3分07秒)、15分20秒(3分00秒)に設定されていた。
ペースメーカーの田中は、手元の計測で3分02秒4、6分07秒1、9分12秒8、12分18秒2と、ほぼ設定通りに走った。田中の声を受けてペースアップした山本は、残り1000mを2分54秒8にペースアップし、2年6か月ぶりに自己記録を更新した。
自己新を出せなかった実業団入り後の2年間
山本が22年10月の国体で出した15分16秒71の自己記録は、27年ぶりの日本人学生最高記録である。積水化学入社後は23年のブダペスト世界陸上、24年のパリ五輪と代表入りしたが、記録的には15分30秒を切ることができていなかった。「正直に言わせてもらうと、たまたま出られたと思っていて。調子が悪い選手がいて繰り上がったり、日本選手権時点で私がポイントを持っていたりしたから、ワールドランキングのポイントでもメンタル的な部分でも有利な状況にいて、運が回って来たと思っています」
自身のセカンド記録、サード記録も名城大4年時の22年に出していた。「国体の時は“出ちゃった”という気持ちが大きかった。でも国体の走りの感覚がすごく良くて、その感覚の再現を目指して走っていましたが、2年間一向に、その走りができませんでした」
しかし前述のように2年続けて代表入りもしたし、クイーンズ駅伝2区の区間賞も連続で獲得した。野口英盛監督(45)は「記録は(気象コンディションや対戦相手、レース展開など)条件がそろって出るもの」と言い、入社後の山本も「私の中では成長していた」と感じていた。
運が良かったところは確かにあった。しかしポイントを積み重ねるために、シーズンオフの2月に開催されるアジア室内3000mに、23年(3位)、24年(優勝)と出場。目の前にチャンスが来たときにつかみ取ることができたのは、そのための準備をしっかりとしていたからだ。
謙虚な考え方を続けることで、山本は努力をし続けることができたのかもしれない。「(22年の)国体では愛知県のために点数を取ることを考えていましたが、世界を目指していたわけではなくて、記録はただ出たって感じでした。今回は、世界で戦いたいだったり、自己記録を出したいだったり、色んな気持ちがありましたが、世界を見据えて練習ができての結果ということが大きいと思っています。自分の世界に入って走ることができて、前回の自己ベストの時と同じ感覚があったので、まだまだ自分のピークこれからだな、という気持ちで頑張れます」
世界に向かう山本の気持ちが、金栗記念の走りで一段レベルが上がったようだ。
3月の練習での手応えと、着実な成長を狙って行く姿勢
2月の全日本実業団ハーフマラソン10kmの部で優勝したときの記事(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1721483)で触れたように、以前は故障が多かった山本が、昨年からは「(殿部や大腿裏など)大きな筋肉を使って走る感覚をつかんだ」ことで故障が減っている。
1月の合宿でスピードより距離を踏み、自身初めての10kmの距離も「抵抗なく」走ることができた。「ピークを合わせず、4月からの5000mに向けて一度レースに出ておくか、くらいの気持ちでした。あと2か月でどれだけ自己記録を出す状態に持って行けるかが課題です。4月からは自己新の走りを続けていく」と話していた。
そして2月に話していた通りの結果を金栗記念で出した。野口監督は「3月に海外の試合を走れなくなって、代わりにチーム内で設定の高いタイムで練習をしました。それでトラックにシフトできる確実な手応えがありましたね」と説明する。女子5000mの東京2025世界陸上参加標準記録は14分50秒00。野口監督は「標準記録を破って世界との戦いがスタートする」と話す一方で、「今年中はどうか。挑戦できるレースでは速いペースも試しますが、着実に成長していく方が良い」という考えも示した。
5月はゴールデングランプリの3000m、アジア選手権の5000mでポイントを取り、9月の東京2025世界陸上出場資格を確実にするプランで進める(代表入りは7月の日本選手権の結果などによる)。記録はまずは、15分ひと桁をチャンスがあれば狙って行く。「3月のような練習が日常的にできれば、標準記録も見えてきます。練習では1周72秒(5000m15分00秒)より速いペースも行っています」
欲張らず、やるべきことはやっていく。これまでと同様のスタンスで、レベルを上げていくのが山本のスタイルだ。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)