東京都盲人福祉協会が取り組む、視覚障害者のスマホ訓練事業

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2025-07-22 16:21
東京都盲人福祉協会が取り組む、視覚障害者のスマホ訓練事業

視覚障害者にスマホの使い方を無料で指導

今回は東京都盲人福祉協会が行なっている視覚障害者のスマートフォン訓練事業を取材しました。
スマートフォン、いわゆるスマホは今では電話やメール以外にも買い物の支払いから医療や災害の情報収集まで日常生活に欠かせないものになりました。
見える人にとってはとても使いやすい機械ですが、視覚障害のある人はスマホの使用を苦手にしている場合があります。
画面に画像で表示されるアプリやボタンがよく見えない人もいるからです。
しかし、視覚障害者がまったくスマホを使えないわけではありません。
スマホのうち、iPhoneにはボイスオーバー、Androidにはトークバックという画面の様子を音声で読み上げて専用の指遣いで操作する機能や、画面拡大、画面の配色変更などの見やすさを向上させる機能といった、見えにくい人向けの補助機能が、最初から組み込まれています。
その機能と健常者もよく使用する音声アシスタント(SiriやGoogleアシスタント)を組み合わせれば、見えなくてもある程度操作ができます。
ただ高齢になって失明した人などの中には、そうした情報をよく知らない人もいます。

【写真を見る】東京都盲人福祉協会が取り組む、視覚障害者のスマホ訓練事業

また視覚障害者を支援するアプリもたくさん開発され配布されていますが、操作方法を理解して、自分ひとりで使いこなせるようになる人ばかりではありません。
そうしたことへの対応として、東京都盲人福祉協会は、都の補助金で行われている訪問訓練(歩行訓練、生活訓練、点字訓練など)のひとつとして、当事者の自宅を訪問してスマホの使い方を無料で指導しています。
協会の生活訓練指導員で、本人も弱視の視覚障害がある白井夕子さんに事業を始める経緯を聞きました。

(東京都盲人福祉協会・生活訓練指導員の白井夕子さん)
「IT社会と言われるようになって、そこに置いてかれてはいけないっていうことで、スマホを教える人が必要になって、2016年から始まりました。いくつかアプリがあるので、その人が操作をどのぐらいできるか、 画面をいかに触って動かすことができるかっていうところに合わせて、その人がやりやすいアプリを選んでいくんですけど、画面上の操作がうまくなかったりとか、手数が多いと覚えるのがむずかしい方の場合だったら、なるべく手数が少なくてすむものにしたり、その人がやりやすいアプリを覚えていただく形をとっています。」

白井さんは2016年からこれまで約300人の当事者に訓練をしてきたそうです。
現在、同協会には白井さんのほかにもう1名、スマホ指導員が在籍しています。
白井さんによれば、もともと機械好きだったり、仕事でスマホを使っていた人などが中途失明したような場合、独力でアプリ操作を覚えることもあるそうですが、スマホそのものになじんでいなかった高齢世代の中途失明者も多いので、指導員が操作法を教える取り組みもとても大切だそうです。

実際の訪問訓練の様子は・・・

大野さんは70代の女性、病気で60代後半からほぼ見えなくなったそうです。
すでにさまざまなアプリの訓練を50回以上受けていて、この日は当事者の懇親会で知った「スイフトアイ」というiPhone用アプリの使い方を練習しました。

アプリ「スイフトアイ」はスマホのカメラで撮影すればその画像を解析して音声で説明する機能があります。
操作はiPhoneの補助機能ボイスオーバーや音声アシスタント(Siri)を同時に使いながら行っています。
白井さんの指示にしたがって、大野さんは「スイフトアイ」を開きます。
そして、ボイスオーバー専用のジェスチャーを使いながら「撮影」のボタンを探し、ダブルタップして撮影を完了しました。
するとスマホが音声で写っているものの説明を始めます。この時はTBSラジオ「まとめて土曜日」の資料を撮影しました。
すると、こんな説明が読み上げられます。

「スイフトアイが回答を入力しています。 TBSラジオの番組『まとめて土曜日』の告知チラシを映したものです。チラシの上部には男女のアナウンサーの写真があり『まとめて土曜日』という番組名と放送時間、毎週土曜日7時、9時という文字が見えます。その下には番組内容の紹介文があります。チラシが置かれているのは青と白の花柄の布のようです」

「スイフトアイ」を使えば、たとえば洋品店で商品を撮影すると服の模様など、コンビニで棚を撮影すれば、商品名、種類などを音声で教えてくれます。
大野さんは、このアプリを開いたり、閉じたり、カメラのレンズを写すものの中央に持ってきて、撮影する練習を繰り返していました。
訓練はマンツーマンで約90分行われ、特殊な操作方法など、慣れるのに根気のいる動きもありましたが、大野さんは頑張って練習していました。

大野さんの感想です。

(受講者の大野佐由巳さん)
「視覚障害者にとって、今はスマホが社会と繋がる中心っていうか、生活上すごい重要なんですよ。障害者がスマホを使うときは、普通の方よりもジェスチャーが多かったり、いっぱい覚えなくちゃいけないことがあったり大変なんだけど、それさえきちっと覚えれば、障害があって諦めてたことが可能になったり、生活の可能性が広がるんですね。私たち女性にとっては洋服を着る時、服の色とか柄を教えてくれるのが嬉しくて、自分の好きな洋服を選ぶことができるじゃないですか。そういうことが可能になるので、覚えればすごく便利ですし、役に立ってます。わざわざ家まで来ていただいて、訓練してもらえるのは本当にありがたいです。」

このように、東京都内には視覚障害者にスマホやパソコンなどの指導をしている団体がいくつかあります。
ただ、東京都盲人福祉協会によれば、指導者や団体間の交流などは始まったばかりで、指導ノウハウの集積などもありません。
全国的にみても、視覚障害者に対するスマホやパソコンの指導が普及した自治体は、東京以外では把握できていないそうです。
視覚障害者のスマホ使用を増やしていく上で制度の整備や拡充、指導者間の情報集約などに課題があるそうです。

指導員の白井さんはこのようにも語っています。

(東京都盲人福祉協会・生活訓練指導員の白井夕子さん)
「スマホは基本、画面を見て使うもので、視覚障害者は使えないだろうと思っているのはけっして健常者だけではなく、障害のある当事者でもそう思ってる人は多いです。
実際、音声アシスタントで電話をかけられることも知らなくて、それを教えられて、電話がかけられるようになって喜ぶ方は大変多いんですよ。
ただボイスオーバーのような視覚障害者向けの補助機能にしても、画面を無理やり音声で説明させてるので分かりやすい説明ではないんです。
もともと「見て使う」ことに特化してるものなので。
だけども、ちょっと難しいけれど、視覚障害者用の使い方っていうのもあるのでチャレンジしてみて欲しいなっていうふうに思いますし、それでその人の生活の幅が広がったり、コミュニティに所属することができるようになったり、親戚の輪から取り残されないとか、そういうことが叶った時に良かったなって思いますね。
だから健常の方たちも、こういう機能があるんだよっていうことを覚えてていただけると嬉しいかなって思います。」

見える人もスマホに最初から入っているボイスオーバーやトークバックの機能だけでも知って、気軽にその情報や使い方を教えられるようになれば、視覚障害者がスマホにより接しやすくなるのではないかと思いました。

東京都盲人福祉協会では、訪問指導のほかに、協会の施設に通ってスマホとパソコンの使い方を訓練する教室も開催しています。
申し込みや予約が必要ですが、東京都民の当事者は無料で利用できるので東京都盲人福祉協会までお問い合わせください。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当:藤木TDC)

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