『DOPE』長谷川Pも震えた最高傑作 androp・内澤崇仁、ドラマ劇伴“初挑戦”への思い

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2025-07-24 08:05
『DOPE』長谷川Pも震えた最高傑作 androp・内澤崇仁、ドラマ劇伴“初挑戦”への思い

2009年にデビューし、聴く人に寄り添うような繊細なメロディーを、時に叙情的に、時にポップに奏で続けてきたロックバンド「androp」。そのフロントマンで、楽曲提供などでソロとしても活躍する内澤崇仁が、自身初となるテレビドラマ劇伴音楽を、金曜ドラマ『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系)で手がけている。

【写真をみる】ロックバンド「androp」フロントマンが手掛ける『DOPE』の音楽

出会いは13年前。「絶対に、内澤さんしか考えていなかった」と全幅の信頼を寄せ、熱烈オファーを出したのは、本作でプロデュースを務める長谷川晴彦。劇伴では、異能力を引き出す新型ドラッグ「DOPE」や、複雑に絡む人間模様など、本作を取り巻く難しいテーマに内澤が挑み、30曲以上にわたる傑作を完成させた。

今回、これまでにも数々の作品で親交を深めてきた二人が、その思いを交わし合うロング対談が実現。前編では、会心の出来となった劇伴の詳細を含め、二人の出会いからオファーの裏側、レコーディング秘話などに迫る。

出会いはバンド初期のMV 「長谷川さんは“妥協のない人”」

長谷川:2012年にandropさんのMV『End roll』に僕がプロデューサーとして携わったのが内澤さんとの出会いなのですが、それからライブに伺っていて、ファンとしてずっと曲も聴いていて。内澤さんは本当にすごく音楽の才能に溢れている方だなと思っていました。

内澤:恐縮です。僕らがCDデビューしたのが2009年で、メジャーデビューしたのが2011年なので、ほんとに右も左もよく分からないような状態の時でした。

長谷川:その時は僕もプロデューサーになったばかりで、すごくいい出会いになったなと思っています。ディスコサウンドからロックからバラードまで、andropさんの音楽を聴いていると、多彩な才能をお持ちなんだなとすごく思っていて。それで4、5年、もっと前からかな… 内澤さんに劇伴を書いてもらいたいなっていうのは、ずっと思っていたんですよね。

内澤:ありがとうございます。

長谷川:僕らの出会いの話で言うと、『End roll』からまた一つ挟むんですよね。『家族狩り』(TBSドラマ)で主題歌をお願いしたんですよね。

内澤:2014年ですね。

長谷川:はい。で、その時も2曲、すてきな曲を上げてくださって。ただ、プロデュース部と監督とで、それぞれ意見が分かれたんですよね。

内澤:そうですね、全然違う方向の二つの意見が出て、その2パターンを作って、って感じで。そこでも、長谷川さんは“妥協がない人”だなと思ったんですよね、作品作りに対して。だから今回オファーを受けた時、100%向き合わないとだめだっていうのは、思いましたね。

長谷川:内澤さんはすでに映画の劇伴をお書きになっていて、それが素晴らしくて。でも、ドラマは時間があまりなかったり、そもそも、まだ撮影に入っていないタイミングから劇伴の制作に入るからイメージが湧きづらいよなぁ、とか、申し訳ないという気持ちがありつつ、結局のところ、内澤さんしか考えていなかったです。

内澤:でも、けっこう何回か「僕だと無理だと思います」とお話はしていて。すごい大変だっていうのも分かりますし、けっこう逃げ腰でお話させていただいたんですよね。大丈夫ですかね?みたいな。

長谷川:そうでしたよね。断られそうな空気も若干感じつつ、「いや、時間はあるので大丈夫ですよ、ご無理のない範囲で」とか言って。でもほぼ懇願していましたね。「内澤さんじゃないと困ります!」みたいな(笑)。

内澤:今まで音楽をやってきた中でも、ドラマの劇伴はやったこともなかったですし、相当大変なんだろうなっていうのは、映画の劇伴をしていても感じていて、もっと“適任”な方がいるんじゃないかと思ったりして。名前を挙げてくださったのは、もうとんでもなくありがたいことで、うれしいと思っていたのですが、もっと力がないとだめだろうな…みたいな。

長谷川:いやいや、全然そんなことは。

内澤:例えば主題歌だと、1曲に命を込めてっていう感じなんですけども、劇伴となると、いろんなシチュエーションに合わせて、いろんな音楽を存在させるじゃないですか。それはとんでもなく大変な作業というか。多分僕は普通の人よりも時間がかかるタイプの人間でもあるので。

“ラブレター”で熱烈オファー 二人つなぐキーパーソンも

長谷川:でもその中で、今回すごく良かったなと思うのが、間に入ってくださる「日音」(TBSグループの音楽出版社)の担当の溝口(大悟)さんという方が、僕が内澤さんに書いてほしいと話したら、本当にポジティブに「内澤さん、すごくいいですね」と言ってくださって。

内澤:ええ! 本当ですか?!

長谷川:そうなんですよ。内澤さんは、溝口さんとは古くからのお付き合いなんですよね?

内澤:そうですね。2013年にリリースした「Missing」という曲のサビで、僕の地声と裏声の2パターンを聴いていただいた際に、溝口さんから「裏声のサビの方がいいのでは」と助言を頂いたりして。

長谷川:今回、溝口さんが「内澤さんに書いてもらうのはすごくいいアイデアだと思います」とすごく乗ってくれて、間に入って交渉もしてくださって。それで僕からも「一度お話を聞いてください」みたいな感じで、直接お会いしたんですよね。

内澤:そうでしたね。

長谷川:それで、ほんとに恋人になってほしい人に告白するように「皿も洗うし、洗濯もするし、必ず玄関から見送るし」みたいな感じで。

内澤:いつの時代の価値観ですか…!(笑)

長谷川:もう、とにかく熱意を説明させていただいて。あの時、内澤さんから、ある程度イメージとか伝えてくれるとうれしいみたいなお話を頂いて、それで「分かりました!」みたいな感じで。「こういう音楽がいいです」っていう“ラブレター”を書き始めた感じですよね。

内澤:そのラブレターが、もうすごい熱くて、涙が出るような。

長谷川:はははははは。こんなに曲数を書かせるのかよ、みたいな(笑)

内澤:いやいやいや、そんなことないです(笑)。本当に気持ち的な部分はもちろん強いんですけど、それ以外にも、やっぱり時間がかかるっていうのもちゃんと想定してくださっていて、その配慮をしてくださったのも、非常にありがたかったですね。ちゃんと時間のスペースを作ってくださった中で、お話をしてくれたっていう。周りから聞く話だと、多分普通のドラマだったらあり得ないと思います。

長谷川:通常だと3、4か月ぐらいですかね? お会いしたのは、たしか去年の暑い頃でしたよね。

内澤:そうなんです。で、その時は「仕事が詰まっているので、この辺りからはできると思います」みたいなところで。それを考慮しても時間があるっていう状況で、やりませんか?と話をくださって。溝口さんからも、「こんな話はないよ」みたいな感じで、2人でこう…(笑)。

長谷川:今回レコーディングのトラックダウンの時も、溝口さんの熱量も高かったですもんね。

内澤:お二人が来てくださって、すごく貴重な体験でした。それだけ心配だったっていうことですかね?

長谷川:いえいえ、それだけ力が入っていたっていうことだったと思います。だから僕にとっても、今回溝口さんのサポートがすごく大きかったです。溝口さんは内澤さんと出会ったぐらいの時のことも覚えていらして、「その時からすごい才能があると思っていた」とおっしゃっていたので。

内澤:お二人とも、出会った時の曲が、自分の人生の中でも大事な曲の時だったんです。長谷川さんの『End roll』『Shout』の時もそうですし、溝口さんの『Missing』の時も。活動を続けてもう16年目ですけども、その延長線上にお二人が重なって、さらにご一緒する機会が出てきたというのは、すごい縁だなと思って。それで熱烈な想いを伝えてくださって、もうほんとに涙が出そうで。「できるかどうか分からないので、ほんとに一生懸命やります」とお話しました。

スピーカー持ち込み3時間 ディスカッションで深めた劇伴イメージ

長谷川:やっぱり、映画だと編集済みの映像に合わせて、という作り方で、ドラマは最初から何曲も作っておくので、その辺りも、違いは大きかったですか?

内澤:そうですね。映画はある程度できている画があって、それに対してどういう音楽が必要か、この尺でこういう音楽を付けましょうっていうのが普通じゃないですか。けど、ドラマは毎話ある中で、そこでいろんなシーンや条件に当てはまるような音楽を作るっていうところで、盛り上がりも必要だし、展開も1曲1曲に必要だというのは、全然違うなっていう印象でした。

長谷川:ドラマのほうが絶対、大変だと思います。だって、映画は画を見てイメージしやすいですが、ドラマは台本からでしかイメージできない。今回の場合だと、「異能力? 何?」ってなりますよね。本当に大変だったと思います。

内澤:難しかったですね。シーンに当てはめる音楽だと、短いと数十秒で一つが終わったりもするんですけども、そうもいかないので。全部展開を付けたりとかって考えると、やっぱり1分以上のものを毎回作るっていうところで。どんなものがいいんだろう?ってすごく悩みながら作ったのはありますね。

長谷川:あれは難しいですよね。

内澤:でも的確に、そこは“指示書”じゃないですけども、「こういうシーンに対しては、役のこういう心情を…」とか、ちゃんとおっしゃってくださっていたので、イメージしやすいようにしてくださったのが、すごく助かりました。それがあるのとないのでは相当違ったと思います。例えば「悲しいシーン」とか「明るいシーン」だけでなく、すごく詳しくお話してくださったので。

長谷川:確かにそれは、僕が楽しかったからついやってしまったんですけどね。内澤さんとは、3時間ぐらい打ち合わせしました?

内澤:そうですね、けっこう長めにしっかりお話しましたね。

長谷川:「そこは陣内(鉄平/演:中村倫也)が奥さんのために〜」とか、細かく説明しながら「こういう曲にしてほしいです」とお願いしたり。楽しかったな。3時間はさぞかし迷惑だったと思いますよ(笑)。

内澤:いえいえ、そんなことないです。長谷川さん、自分のスピーカーを持ってきて。音楽かけながら、こういうのもあるとか、こういうパターンもあるよね、みたいなディスカッションをしながら。日音さんでお会いしたのですが、そこにも立派なスピーカーがあるんですけどね(笑)。

長谷川:立派なスピーカーの使い方分かんねえな、って僕は(笑)。

内澤:もうその時、イメージをしっかりと持ってくださっていて。曖昧な考えとかだと自分も迷っていたと思いますし、そこでしっかり的確にお話してくださったのは、すごくありがたかったですね。

「鳥肌が立ちました」 内澤渾身のギターソロ

長谷川:具体的な曲で言うと、メインテーマは聴いたら忘れない、作品の顔になる曲。内澤さんの作曲家としての力量や才能を信じているので、もう絶対良いものが上がってくると。あとは、やっぱりこの作品の7話までは“陣内”で引っ張っていくんです。陣内の、悲しみを帯びた復讐というのは、テーマとしてすごく大事だったので。

内澤:あと、メインテーマに関しては、一番初めの頃イメージして話していたのは、もうちょっとミニマムというか…。

長谷川:確かにそうでしたよね。2分ぐらいでいいって。

内澤:そうですね、いろんなメロディーがあるというよりは、一つのフレーズが淡々と、みたいなパターンの。僕のイメージだと、あんまりポップな感じではないというか、華やかではなく、もう少しループっぽいというか。シンプルでかっこいいものっていうようなイメージもけっこうあって。で、そういうイメージで最初作っていったりもして、2パターンくらい作ったんですよね。

長谷川:はい、作っていただきましたね。で、大変申し訳なかったんですけど、メインテーマに関しては途中で監督から、5分ぐらいのものがいいという話があって、「え?! 内澤さん、ごめんなさい」って。

内澤:いえ、でも結果、シンプルでかっこいいものっていうイメージだったのが、そこからいろいろと、華やかになるような感じに全体的にブラッシュアップしていって、今のようになったんですよね。

長谷川:そこからのメロディーの展開がちょっとすごすぎて、やっぱり内澤さんの表現力ってすごいなと思いました。もともとかっこよかったんですが、そこから転調とか、静かになる感じとかを作っていただいて。で、また最後の最後にガーッと盛り上がって、もうすごいじゃんと思って。それと相対して、悲しいロック調の陣内のテーマも、ほんとに鳥肌が立ちました。

内澤:いや、普段レコーディングにドラマのプロデューサーさんとかがいらっしゃることはなかなかない中、お忙しいところ合間を縫って来てくださって、うれしかったです。

長谷川:陣内のテーマも、編集で上がってきたものに自分で勝手に付けてみたりして、やっぱり震えるんです、すごい感情移入で。それでデモから聴いていて、レコーディングに参加した時に、「わっ! 内澤さんのギターソロが付いてる!」って、めちゃくちゃかっこよくて、あれはすごかったです。幸せでしたね。

内澤:ギターソロは、僕はバンドではほとんどやる機会がないというか。

長谷川:魂が震えました。その時たしか内澤さんが「普段バンドではやらないんですけど、ここぞとばかりに、やります」みたいなことをおっしゃっていて。それが可愛らしくて。

内澤:そうですね(笑)。「これぞ!」みたいなのは、あんまりやらなくて。「ここだ!」と思って。

長谷川:本当にかっこよかった。

内澤:はい、少しだけ自分の色を…込めさせていただきました(笑)。

長谷川:一瞬、そのギターソロ聴いてもらってもいいですか?

(長谷川プロデューサーの提案で「録れたて」の音源に一同聴き入る)

内澤:僕は普段は歌ってギターを弾いて、ギターは別でギタリスト(ギター&キーボード担当の佐藤拓也)がバンドにいるので。今回は普段ギターソロをしない分、弾きまくりました。とても楽しかったです。でも、大変でもありました。「長谷川さんのイメージ、劇伴というより、1曲バンドとしての曲!」って思って。

長谷川:はははははは。そうですよね。もうそのクオリティーですよね。これ、シングルで出せますもん。

内澤:そうそうそう、イメージはそうなんです。もうシングル出すようなイメージで、1曲作ったみたいな感じがあって。

長谷川:そう、そのパワーがあるんですよね、陣内のテーマは。やっぱりスタッフも反応するんですよね、「この曲すごいですね!」って。メインテーマと陣内のテーマは、やっぱりすごい反応がありますね。

長谷川:ぜひ、andropさんのライブでやってもらいたいですね。

内澤:そうですね! できるできる、全然できます(笑)。

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