JICA「ホームタウン」に抗議殺到 アフリカでの発信の“食い違い”に SNSで誤情報拡散…国際交流に影響も【Nスタ解説】
JICA=国際協力機構が、日本国内4つの自治体とアフリカ4か国を「ホームタウン」に認定しました。しかし、「ホームタウン」として認定した自治体に、抗議が殺到。背景には、正しい情報が伝わっていないという問題もあるようです。
【写真で見る】「特別なビザを用意」ナイジェリア政府の発表に困惑する人々
「特別なビザを用意」「市を捧げる」 政府やメディア発表で波紋
井上貴博キャスター:
今回の「ホームタウン」とはJICAによると、これまで交流のあった自治体と国に対して、さらなる国際交流を促進していくという考え方です。新たにというより、これまでも関係性があった自治体と国が手を携えてより交流していこうという、意義深い事業になります。
たとえば▼千葉・木更津市とナイジェリア、▼愛媛・今治市とモザンビーク、▼山形・長井市とタンザニア、▼新潟・三条市とガーナなどの関わりが挙げられます。
ところが流れを大きく変えたのが、ナイジェリア政府の声明や、タンザニアのメディアです。
ナイジェリア政府は「日本政府は、木更津への移住を希望する若くて優秀なナイジェリア人に特別なビザを用意する」と発表しました。ただし、現在は修正されています。
また、タンザニアのメディアは「日本は長井市をタンザニアに捧げる」と報じました。こちらも現在は修正されています。
日本側とJICA側の発表としては、あくまでもホームタウン事業は国際交流の一環だとしていました。
しかしナイジェリアからは、政府の発表は社会的な重みを持つにもかかわらず「特別なビザを用意する」という声明が発表されてしまいました。
これを知った木更津の皆さんが「どういうことなのか、日本政府は何か隠しているのではないか」と疑心暗鬼になってしまったのです。
大和田美帆さん:
政府が出している声明なわけですから、信じてしまう心理はわかります。
井上キャスター:
では、なぜ「特別なビザを用意する」「長井市をタンザニアに捧げる」という訳され方がされてしまったのでしょうか。
ホームタウン認定を主導するJICA広報部の江原由樹さんは「これまでのやりとりのなかで、デディケート(dedicate=捧げる)の単語は使っていない。なぜそういった受け取り方をしたのか、報道につながっているのか分からないです」と話しています。
ということは、JICA側としてはまったくしていない説明を、どうもタンザニアのメディアが見出しとして使ってしまったようです。
なぜ、このようなボタンの掛け違えが起きるのでしょうか?
なぜ食い違い? 「ホームタウン」決定のプロセスとは
井上キャスター:
ホームタウン決定のプロセスとはどういったものなのか調べてみました。
JICAによると、まずJICA側から市町村に提案があり、それを受けた市町村が意向を確認してアフリカ側に伝えたということです。
認定の当日は、自治体やアフリカ側が交流のビジョンを発表し、意見交換を行いました。JICA側はあくまでも主催で、司会進行を担当していたということです。
つまりJICAとしても、今回アフリカ政府やメディアからあのような発表がなされたことに、大変困惑しているということです。
自治体がアフリカ側と話したのであれば、自治体の担当者に責任の所在があるような気もします。しかし今回の問題で驚いている自治体を見ると、JICAに責任があるような気もします。
JICAに責任があるのか、自治体に責任があるのか、外務省はどうしていたのか?このプロセスから考えると、責任の所在が曖昧なことが今回の問題の一つに挙げられると感じます。
出水麻衣キャスター:
「designate」(指定する)と、タンザニアのメディアで使われていた「dedicate」(捧げる)は、発音が少し似ているんですよね。あまり英語が得意でない方が読んだときに、誤って聞こえてしまうということはあると思います。
大和田美帆さん:
訳すときのミスなのかもしれない、ということでしょうか。
出水キャスター:
あとは「ホームタウン」という言葉の定義が曖昧だったのかな、とも感じます。
大和田美帆さん:
私たちは「ホームタウン」=「ふるさと」とイメージしてしまうので、余計に混乱を招いたのではないかと思います。
出水キャスター:
今回、英語の辞書を開いて「hometown」の意味を調べてみました。「出身地」や「幼少期に過ごした場所」のほか、「現在の居住地」という意味もあります。
「居住地」と言われると、先方が「ビザが発給されるのかな」「そこの一部に住めるのかな」という意味合いで取ったのもわかると思いました。
井上キャスター:
ホームタウンという事業理念は良かったけれども、その言葉の意味合いや目的などのすり合わせが行われていなかったのではないか?
善意の解釈をしたとしても、それがビザの発給まで飛躍するのはなぜなのか?情報を受け取った地元の方々が困惑するのは当然という気がしてしまいます。
「ホーム」という言葉から、日本が特別なことをやってくれると期待?
井上キャスター:
今回の発表・報道の経緯について、ナイジェリア大使館とタンザニア大使館に取材しましたが、27日午後5時時点で返答はありませんでした。
一方、キヤノングローバル戦略研究所の研究主幹である宮家邦彦さんは「ホームタウンという言葉は新しい概念で、正しい定義は特になく、この曖昧さが根源にあるのではないか。野球のホームスタジアムなど『ホーム』という言葉がつくことで、日本が特別なことをやってくれるという期待が膨らみ、誤解が生まれやすかったのではないか」と指摘しています。
アフリカ側としては「日本がそれだけやってくれるんだ」という善意の誤解が伝言ゲームのようなものになっていき、ビザの発給のような話にまで発展してしまったのではないかということのようです。
JICA広報部の江原さんは「今回の騒ぎによって、これまで国際交流に参加してきた市民がネガティブな気持ちになってしまうと非常に残念」と話しています。友好的な事業が一つのボタンの掛け違いで誤解を生み、違う方向に行ってしまうのは残念ですよね。
大和田美帆さん:
私たち自身も、どれが本当の情報なのか、国際交流とは何だろうというのを考えるきっかけにしたいです。きっと悪いことではないと思うので、政府もJICAも否定するだけではなく、そのあたりの説明もしていただきたいと思います。
井上キャスター:
JICAの検証と、もう一度丁寧な説明をしなければ、あらぬ方向に進んでしまう気がします。
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<プロフィール>
大和田美帆さん
俳優・タレント
音楽療法士・子供心理カウンセラーなどの資格を持つ
大和田獏・岡江久美子の長女 1児の母